第1章 後悔
極夜が原に降り立ってから3か月が過ぎていた。しかし、極夜はまだ泣き続けていた。後悔の念は簡単になくなるものではない。泣いては、自分を責め、落ち着いてくると音波の顔が浮かび、また涙が出てくる。その繰り返しだった。しかし、時間と共に少しずつ落ち着きを取り戻してきていた。今は何よりも縁のことが気になっていた。縁も人間を殺したのだ。縁の無事を確認したかった。だけど、もう縁も消えてしまっていたら自分はどうなるんだろうと怖かった。縁に魔笛を吹けばすぐにどういう状況なのか知ることはできるだろう。しかし、確認することができなかった。縁に何と言っていいかわからなかった。音波は消えたと、自分のせいで消えたんだと縁に言うのが怖かった。縁は何と言うだろうか。縁は自分を許してくれるだろうか。縁がもういないかもしれないという恐怖、そして、連絡がとれた時に縁に拒絶されるかもしれないという不安。それを考えると、極夜は縁に連絡をすることができなかった。
俺のせいで、音波は消えた。消えたんだ。だけど、縁に何て言えばいい。あいつは何と言うだろう。どう思うだろう。俺を許してくれるだろうか。だけど、そろそろ縁に連絡しなければ・・・。縁の無事を確かめなければ。俺は縁に責められるだけのことをしたんだから。
極夜は覚悟を決め、魔笛を取り出した。魔笛を見つめ、一瞬迷ったが、ゆっくりとくわえ、縁に吹いた。
《縁、今どこだ?大丈夫か?》
極夜は吹き終わると、恐怖心と戦いながら縁の返事を待った。すると、しばらくして縁から返事が返ってきた。
《極夜、極夜。僕は今魔界だよ》
縁の懐かしい声が極夜の頭の中に聞こえてきた。縁の声を聞き、懐かしさと安心感でまた極夜の目から涙がこぼれた。しかし、縁にすべてを話さなければいけない。極夜は自分を奮い立たせるように魔笛を強く握り、縁に吹いた。
《縁、音波は消えてしまった。俺のせいで、音波は死魔に消されたんだ》
極夜は不安と恐怖に押しつぶされそうだった。自分がすべて悪いのはわかっている。でも、縁の反応を考えるだけで極夜は怖かった。しかし、それからどれだけ待っても縁から返事は返ってこなかった。
縁はもう返事を返さないだろうな。きっと、俺を恨んでるはずだ。でも、縁が無事ならそれでいい。
極夜は、縁が無事だったという安堵からしばらくボーっと空を見つめていた。相変わらず、黒い煙が混ざった空だった。しかし、極夜は忘れていたことを突然思い出し、ハッとした。
そうだ、死魔はどうした。なぜ死魔は俺を追ってこなかった。俺を見失ったなんてことが、あるわけない。一体なんなんだ。なんで俺はまだ生きている。魔羅様、いや、魔羅は一体何がしたいんだ。俺を生かして、なぜ音波を消したんだ。なぜ音波を消した!
この時、初めて極夜は魔羅と死魔に憎しみを抱いた。今まで、音波を消されたのは自分のせいだと責め続け、魔羅のことを考えていなかった。
どう考えてもおかしい。人間を殺したのは俺なのに。なぜ音波を消したんだ。俺が、俺が夢魔だからか・・・。俺が夢魔だから、消されないのか。夢魔ってなんなんだ。魔羅は俺にどうしろっていうんだ!なんで音波を消したんだ!!
極夜は拳を強く握り、力いっぱい地面に叩きつけた。
俺はどうしたらいい、音波。お前が助けてくれたんだ。俺が魔界に帰ったら、魔羅がどう思うかわからない。俺が魔界に帰ることによって死魔に消されたら、お前が俺を助けてくれた意味がなくなる。俺は生きて何をすればいいんだ。音波、どうしたらいい。俺はどうしたらいいんだ。
極夜は音波に語りかけるように心の中でつぶやき続けた。
音波、俺は死魔がくるのを待っている様な気がするよ。俺はどうしていいかわからないんだ。もう消えてしまいたい。今ここに死魔が現れたら俺は進んで消してくれと言ってしまいそうだよ。でも、お前が命を懸けて俺を守ってくれたんだ。簡単に死魔に消されるわけにはいかないよな。俺はどうしたらいい。どうしたらお前に喜んでもらえるんだ。縁はもう俺を必要とはしていない。俺を憎んでいる。俺が消えて、音波、お前が生きていれば!縁はお前を必要としているのに!俺は何もすることはできないんだ。すまない、音波。
極夜が悩んでいる中、縁は魔界で一人苦しんでいた。苦しみ、もがき続けていた。縁は極夜を恨んでなどいなかった。音波が極夜を守って消えたんだということは聞かなくてもわかっていた。しかし、音波を消してしまったのは縁にも責任があると思っていた。音波が消えてしまったという事実が更に縁を苦しめ、縁の心はもう壊れかかっていた・・・。




