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この世界  作者: 御影 零
~運命の始まり~

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第30章  優しさ

 極夜キョクヤは前々からヨスガのことを変わっていると思っていた。顔つきも話し方も悪魔とは言えなかった。しかし、人間の闇を感じれば縁も変わるだろうと思っていた。きっと自分と同じように、人間を苦しめる悦びをわかるようになるだろうと思った。しかし、いざ人間の闇に触れても、縁は人間の叫び声を聞きたくないと言う。人間に悪いことをしているという。極夜には縁が言っていることがどういうことなのかわからない。縁が理解できなかった。


 一体どういうことなんだ。縁は一体何を感じたんだ。何の為に悪魔が存在していると思っている。人間を苦しませる以外になにがあるっていうんだ。悪魔は人間に対して、闇に落とすこと以外の感情を持てるものなのか。人間を苦しませたくないとはどういうことなんだ。俺のこの体の中には、人間に対する強い執着、人間を闇に落としたいという感情しかない。一体どうやって縁を理解すればいいんだ。縁がどうしたいのかもわからない。


 そう考えながら極夜は音波オトハを見た。すると音波も考え込んでいる顔をしていた。次に縁の顔を見ると、今にも泣きそうに目に涙を溜めていた。今にも零れ落ちそうだった。


 極夜は音波にも縁にも何と声をかけていいかわからなかった。しかし、何か言わなくてはと思い一生懸命言葉を考えていた。しかし、口を開いたのは音波だった。


「縁、お前の中には、人間を闇に染めたいという感情は一切ないということなのか?」


音波は沈黙を破り、縁の顔を見ながら、縁のことを確かめるように言った。


「えっと、人間界に行くまでは全然わからなかったんだけど、僕の中にも人間を闇に染めたい、もっと苦しめたいって感情は・・・あったみたい。人間界で人の闇を感じるまではこんなこと思わなかったけど、今は強く感じるよ。極夜に体に闇を入れてもらっていた時は、もっともっと苦しめばいいって最初は思ったんだ。思ったんだ、けど・・・」


そう言うと、とうとう縁の目から涙がこぼれた。

それを見た極夜は縁に声をかけようと思ったが、言葉が何も思い浮かばなかった。


「じゃあ、人間の叫び声を聞くのが堪えられなくてあの時はあんなに震えていたのか?人間に悪い事をしていると思って、体が震えるほど怖かったのか?」


音波は目線も話す口調も一切変えず縁に聞いた。


「うん・・・。人に対して、闇を広げるなんて、そんなことしてはいけないことだって感情も僕の中にあるんだ。人を闇に落としたい、もっともっと苦しめたいって気持ちと同じくらい、人に対してそんなことをしてはいけないって感情もあるんだ・・・。僕、自分がどうしたいのか全然わかんないの・・・。きっと、極夜も、音波も、もう、僕のこと・・・・」


縁はそう言うと、もう言葉を話すことができないくらいに、声を上げて泣き出した。

それを見た極夜は慌てて縁に駆け寄り、背中をさすってやった。


「音波、なんか縁が泣き出したぞ。よくわからないが、もう責めるのはやめてやれ。」


極夜は音波にそう言ったが、泣いている縁に何と言えばいいのかわからなかった。


「私は別に縁を責めている訳ではない。縁を少しでも理解しようといているだけだ。縁は自分の思っていることを言葉にするだけ、まだわかりやすい。」


音波は驚いたように答えた。


「どういう意味だ?」


極夜には音波の言っていることがわからなかった。


「極夜は思っていることをそうそう口には出さなかったからな。お前が何を考えているのかわかるようになるまでずいぶんと時間がかかった。極夜が自由になりたいと言っていた時だって、縁が言っている事と同じくらい私には理解できなかった。まぁ、今でも自由になりたいという気持ちは理解できないがな。」


音波は少し困ったように極夜に言った。


「俺の言ったことが、縁の言っていることと同じ!?全然違うじゃないか!」


縁はまだ泣き続けていたので、極夜はまだ縁の背中をさすっていた。


「何言ってる。私にしたら同じようなものだ。しかし、縁は自分の気持ちをきちんと話してくれる。極夜よりずっといい。まぁ、お前にこう言ってもわからないだろうがな。お前が何を考えて、どうしたいのかを理解するまでどれだけ私が苦労したか。お前も縁のことを少しでも理解できるように考えろ。」


音波は腕を組み、極夜と話しながらも縁のことを考えているようだった。


「でも、俺は、何をどう言えばいいのか。もう、こいつ泣き止まないぞ!一体どうしたらいいんだ!縁、いい加減泣き止め!」


極夜に言われ、縁はやっと極夜が自分の背中をさすってくれていることに気がついた。


「きょ・・・極夜は・・僕のこと・・嫌いになって、ないの?」


縁はまだ涙が止まらず思うように声が出せなかったが、それでも極夜のほうを向き、言葉を絞り出すように聞いた。


「別に嫌いになった訳じゃない。ただ、何を言っているか理解できないだけだ。」


極夜はそう言いながらも、縁の背中をさすり続けていた。


「お・・音波も、僕のこともう・・い・・いやになったんじゃ、ないの?」


次は音波のほうを向き聞いた。

それを聞いた音波は縁に近寄り、頭に優しく手を置いた。


「縁のことをいやになったりしないさ。私も極夜と同じように縁のことが理解できなかっただけだ。でも、縁は自分の気持ちを話そうとしていたからな。泣きそうなのはわかっていたが、自分のことを話そうとしている時に、それを止めたくなかっただけだ。でも、少し責めるように聞いてしまったか。縁、悪かったな。聞けるときに聞いておかなければ、次にいつ話し出すかわからないと思ってしまってな。なにしろ、極夜がそうだったもんだから。」


音波は申し訳なさそうに縁に言った。


「なんだよ!俺のせいだって言うのかよ!」


極夜は縁の背中から手を放し、音波を睨むように見た。


「まぁ、そうなるかな。縁、もう大丈夫か?本当に悪いことをした。私は縁の事を嫌いで聞いたんじゃないんだ。少しでも理解したいと思っただけだよ。」


音波は縁の前にひざをつき、頭をなでた。すると、極夜と音波の優しさを感じたのか、縁はまた泣き始めてしまった。


「なんだよ。もう泣くなよ。次は何だってんだ。」


極夜は縁の顔を覗き込むように見ながら言った。


「だって、も・・もう、2人に・・・きら、嫌われると・・・思ってたから・・・」


 そう言うと、縁は更に声を上げて泣き出した。しかし、極夜は今の縁の涙はたぶんもう放っておいても大丈夫なんだろうな、と思った。嫌われたと思っていた縁が少しかわいく思え、自分でも気づかないうちに縁を見つめながら微笑んでいた。

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