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この世界  作者: 松本 庵
~運命の始まり~
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第3章  新たな命令

 この日、極夜キョクヤ音波オトハは極夜の部屋にいた。


 極夜が魔界に帰ってきてから2週間が過ぎたが、死魔シマは現れなかった。極夜はもちろん、極夜を心配していた音波もこれだけ日が経って現れなかったということはもう大丈夫だろうと、胸をなで下ろしていた。


「いいか、もう絶対に禁忌は犯すなよ。今回はたまたま誰にも見つからなかったみたいだが、次も大丈夫とは限らないからな。人を追い詰めるやり方ももう止めるんだ。」


音波が極夜の目をじっと見て言った。


「わかってるよ。もうしない。少し懲りたさ。」


 気まずそうに極夜が答えた。しかし、こんなに音波が心配してくれた事に極夜は驚いていた。悪魔が悪魔を心配するなんて聞いたこともない。極夜は今まで感じたこともない感覚が自分の中に少し芽生えたような気がしたが、特に考えなかった。


「そうだ、極夜、百鬼ビャッキ様に呼ばれたんじゃなかったか?」音波が言った。


「うん、わかってるけど、また何言われるのかと思ったらめんどくさくてさ。」

「バカ言ってないでさっさと行け!くれぐれも言葉遣いに気をつけろよ。」


音波にうながされ、しぶしぶ極夜は百鬼の部屋へ向かった。


 悪魔の耳はとても発達していて遠くの音まで聞こえる。魔界にいるときはたくさんの音であふれていて、常に雑音が耳に入るし、話していても誰が聞いているのかもわからない。なので、大事な話をするときなどは音のいっさいが遮断される部屋の中でするのである。


 極夜は百鬼の部屋の前まで行くと、魔笛マテキを吹いた。悪魔の部屋はその部屋の持ち主にしか絶対に開けられないようになっている。他の部屋を訪ねるときはそれぞれが各自持っている笛、魔笛をその部屋の前で吹く。笛の音は相手がどこにいようと吹いている間心に言葉を浮かべるだけで相手にそのまま伝えることができる。相手が部屋の中にいようとも笛の音は直接相手に聞こえるのだ。本来魔笛は人間界で離れている悪魔同士が連絡をとりあうのに使うが、魔界では部屋に自分がきたことを伝えるために使う。笛の音は伝えたい相手にしか聞くことはできない。音を聞いた相手も誰が自分に笛を吹いているのかわかるのだ。


 百鬼の部屋はすぐに開いた。開いたといっても、一人が通れるくらいの幅で部屋の壁が裂けるように動くのだ。すぐ目の前に百鬼が立っていた。見下ろすように極夜を見ると、入れと言わんばかりに、目を中向けた。極夜は百鬼の態度には慣れていた。百鬼は自分のことをよく思っていない悪魔の一人なのだとわかっていた。


 中に入ると、改めて百鬼の部屋の大きさに関心させられる。極夜は部屋の大きさになんの興味も持っていないが、それでも百鬼の部屋は広いと思った。外から見たらどの部屋も真っ暗だが、中は部屋の持ち主が好きなように装飾できる。百鬼の部屋は、床は外と同じ色だが壁と天井は薄暗い紫色。背が高い百鬼でもゆったり座れる大きなひじ掛けの椅子。台のように長いベットもある。家具は全部壁よりも濃い紫だった。

 

 百鬼が自分のひじ掛け椅子に座ると、手を前に差し出し、自分の前に他の家具と同じ色の紫のテーブルと椅子を出した。極夜は出された椅子に素直に座った。

 

 ただただ沈黙が続いた。百鬼は何も言わずただ極夜を見ているだけで口を開かない。極夜も負けじと百鬼を睨みつけていた。


 どれくらいの時がたったかわからない。極夜も呼びつけておいて何も言わない百鬼に苛立ってきた。口を開こうとした瞬間、百鬼がやっと極夜から目を逸らしため息をついた。


「極夜、お前は本当に他の悪魔たちとは違うな。力のある者に対しての尊敬の心がまったくない。それどころか、魔羅様に対しての忠誠心も強いとは思えない。」


 極夜は悪態をつこうと思ったが、黙って口をつぐんだ。音波に念を押されたのもあるが、禁忌や死魔のこともあったからだ。


百鬼はまたため息をつき言葉を続けた。


「しかし、魔羅様はお前に甘い。お前のことに関してどうお考えなのかまったくわからん。」


そう言い、少しうつむいたと思うとすぐに顔を上げ、次は意地の悪い笑みを浮かべた。


「今日お前を呼び出した理由を教えてやろう。3日前に新たに生まれた悪魔の世話係をやれ。」


極夜は驚きと怒りで立ち上がりながら口を開いた。


「はっ!?なんだよそれ!?それはお前ら魔界四魔の仕事だろっ!?冗談じゃねぇぞ!!」

「いいかげん口のきき方に気をつけろ。こんな用でもなければ誰がお前なんかを呼び出すか。あいつもお前と同じで相当変わってる。変わってる者同士うまくやれ。魔羅様の命令だ。」


極夜はうなずくことも、首を振ることもできなかった。魔羅の命令は絶対だ。極夜はうつむいたまま言葉も見つからずただ黙って下をむいていた。


「お前に用はそれだけだ。もうそいつは部屋の外にいるだろう。わかったらさっさと行け。」


百鬼はそう言うと、座ったまま手を差し出し部屋を開けた。極夜が無言のまま外に出ると、部屋を閉めながら百鬼の捨て台詞が聞こえた。


「お前はさっさと死魔に消されてしまえばいいのに。」


 極夜が振り返った時にはもう部屋は閉じられていた。極夜は怒りで頭がいっぱいになっていた。百鬼が何に対して極夜に敵対意識を持っているかはわかっている。極夜が生まれた時からそうだった。


 とにかく今に始まったことではないと頭を切り替え、辺りを見回してみると、1人の悪魔がおどおどと立っていた。きっと見るからにこいつのことだと思い、ついて来いとだけその悪魔に言い、自分の部屋に戻った。 

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