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僕と守護霊たちの何気ない日常

 僕は寝起きがいい方だが、その日の寝覚めは何となくすっきりしたものではなかった。頭がどんよりと重たかった。


 「(のぼる)。なんか顔色悪いわよ。風邪でも引いたの? 」


 母さんが、僕の顔色を見て心配そうに言った。


 「いや、大丈夫だよ。ちょっと疲れが出てるんだと思う。」


 僕は母さんに心配をかけたくなかったんだ。それに頭が痛いとか具体的にどこが具合が悪いってわけじゃなかったからそう言っておいた。


 〔すまぬ、龍。私が昨夜ちょっと体を借りたのだ。そのせいで十分に体を休める事が出来なかったのだと思う。〕


 ふいに教授の声が聞こえた。なるほど、この体調が悪いのは寝不足と言うことらしい。


 「いいよ。分かったからさ。でも今度は一言いってくれよな。」


 僕は教授にそう言うとすっきりした気分だった。原因が分かればどうってことはない。


 「でも、珍しいね。教授が僕の体を使うなんて。勇次郎はしょっちゅうだけどさ。」


 〔ああ、ちょっと紙の上で計算がしたくなってな。それでちょっと借りた。〕


 なるほど。なんでも頭の中で計算してしまう教授だけど、そういう事もあるのだろう。僕は納得して学校へ向かった。

 通学途中にコンビニに寄ってソフトクリームを買うと食べながら歩く。ソフトクリームは『礼子』のリクエストだ。礼子はたまに甘いものが食べたいと言っては、僕に甘いものを食べるようにせがむ。その時はちょっとだけ礼子に体を貸してあげる。体を貸してあげている間の僕自身にも感覚があり、ソフトクリームの味は十分伝わるのだ。僕は甘いものがあまり好きではなかったのだけれど、最近は好きになってしまった。


 学校に着き一時限目の授業が始まると、教授の言っていた事が良く分かった。数学のノート7ページにわたりなにやら難しい数式が小さい字でびっしりと書き込まれていたからだ。見た瞬間に頭が痛くなる感じだ。


 「ねえ。何を計算していたのさ。」


 僕はため息をつきながら教授に向かって呟いた。


 〔ん? 例の事例だよ。今の所私達の存在を証明するところまでは辿り着いた。後は龍との接点、すなわち会話をするということなのだが、まずは単純に接するということに仮定するとだ。我らの存在エネルギーのベクトルは…… 。〕


 「分かった、分かったから。説明はいいから。」


 僕は慌てて教授を止めた。教授の持論は世の中の全ての事象は数学で証明できると言うものだ。そこで僕が何気なく、”僕が守護霊と話をできる事も証明できるのか”と聞いたのだ。そのせいで教授はその計算に夢中なんだ。よっぽど難しい計算らしくてなかなか答えが導き出せないらしい。


 授業が終わり放課後は部活の時間だ。僕は空手道部に入っている。県新人戦で優勝するなどそこそこの腕前だと自負している。僕の守護霊の一人『勇次郎』のアドバイスもある。彼は空手の世界チャンピオンだった。部活も終わり、今日の部活はたいしてきつくなかったなと思って帰途についていると勇次郎が話しかけてきた。


 『よう、龍。今日は例の日向流の道場に行こうぜ。』


 いつものように勇次郎が僕を誘う。勇次郎はたまに体を動かしたくて仕方がなくなる。そんな時に僕の体を借りて、稽古する。日向流と言うのは柔術の道場なのだが、そこの主席師範の女子高生がめっぽう強い。僕も勇次郎も一度も勝てないでいる。


 「そうだな。行こうか。」


 僕もその道場に通うのが楽しかったのですぐに賛成して向かうことにした。


 ≪あ、その道……。≫


 礼子が何か言いかけてやめた。


 「ん? どうかした? 礼子。」


 ≪ううん、何でもないわ。≫


 礼子は身近な危険を察知して僕に教えてくれる。今回も何かあるのかなと思ったんだけど何でもないらしい。僕は路地を曲がった。


 【キキーッ】


 甲高い自転車のブレーキ音が聞こえた。


 【どんっ】


 次の瞬間、僕の腰のあたりに強い衝撃があった。自転車が僕にぶつかった。


 「きゃーっ。ごめんなさいっっ。大丈夫ですか? 」


 自転車を運転していた女の子が僕に謝った。


 「あれ? みさきさんじゃないか? 」


 「あれ? 龍君? 」


 自転車を運転していた加害者はクラスメートの『自称・霊感少女』のみさきだった。先日、彼女についている憑依霊を『百合子』と共に除霊したばかりだ。百合子もまた僕の守護霊の一人だ。生きている時は巫女さんだったらしい。


 「ごめんね。大丈夫? 」


 申し訳なさそうにみさきが言う。


 「大丈夫だよ。僕で良かったけど気を付けなよ。」


 「うん。これからどこに行くの? 」


 「僕? 僕はこれから柔術の道場に行く所。」


 「へーっ。龍君って柔術も習ってるんだ、凄いねぇ~。」


 「体動かすのが好きなんだよ。みさきさんは? 」


 「私は塾なんだ。あ、いけない。遅刻しちゃう。またね。」


 みさきはそう言うと慌ただしく駆け抜けて行った。


 「礼子、何で教えてくれなかったんだよ。」


 僕は当然予想してたであろう礼子に聞いた。


 ≪ふふふ。人の恋路を邪魔するほど野暮じゃないわ~。≫


 そう言って礼子は笑う。この間もみさきが僕に好意を持っているっていってたから、わざと教えなかったらしい。僕はため息をついて道場に向かう事にした。口では礼子には敵わないからだ。





 これが僕と守護霊たちとのある一日だ。毎日、ちっちゃな出来事はあるけど僕にとってはありふれた一日だ。


 個性的な守護霊たちは僕の大事な仲間であり家族だ。

空手好きな高校生・(りゅう)と四人の個性的な守護霊達との物語は、ここで一旦終わります。

また彼らの話は別の物語として描く予定ですのでお楽しみに…… 。

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