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憑依霊退治

 「おい、佳織が怪我したってよ。車に撥ねられて足を骨折したらしいぞ。」


 友人の一人が、言いに来た。佳織と言うのは、この間、守護霊で盛り上がっていた女生徒の一人だ。僕は何故か嫌な気がした。『百合子』が言っていた事が頭に残っていたからだと思う。

 その嫌な気は翌日には更に大きくなる。また女生徒の一人が怪我をした。それは僕の目の前で起こった。


 その女生徒は普通に歩いて階段の所に向かっていた。僕は少し後ろから歩いていたのだけれど、何かに弾かれるように階段を転げ落ちた。不自然極まりなかった。その女生徒もまた足を骨折した。


 「百合子。霊障かい? 」


 〈そうよ。あの、みさきって娘についてる憑依霊の仕業よ。〉


 「なぜ? 」


 〈あの娘達が足の悪い子をからかったでしょう。そのせいね。その憑依霊は生前に足を怪我してね。傷口から壊疽して足を切り落とした。そのせいで自殺したのよ。〉


 「どうにもならないのかい? 」


 〈さあね。そんなに力の強い憑依霊じゃないけど、これからもっと(たち)の悪いのが憑くかもしれないわね。そうなったら厄介ね。〉


 「や、厄介って、どんなふうに? 」


 〈あのみさきって娘は霊媒体質の気があるのよ。霊感があるって言うのもまんざら嘘じゃないわ。一体でも邪な霊が憑くと、それに釣られてもっと強力な邪な霊がやってくる。その内、彼女はたくさんの邪悪霊に取り付かれるわ。〉


 「どうなっちゃうのさ? このままだと? 」


 〈まあ、あなたは私達が守るけど、あの娘の周りにいる他の子達はその邪にあてられるわね。いい事はないって事。まあ自分の撒いた種だけどね。〉


 僕は百合子の説明を聞いて、どうにかしなければいけないって思った。みさきの事は単なるクラスメートで特に何とも思っていないけど、百合子が周りに悪影響があると言うし、放っておけない。


 「その憑依霊ってやつはどうすれば払えるんだい? 」


 〈放っておけないのね。あなたの魂がそんな風に綺麗だから、私達はあなたの傍に居るのよ。ま、それはさておき、簡単には除霊してやればいいんだけどね。あの娘に言っても素直に言う事は聞かないわ。霊障のせいでね。〉


 百合子はそう説明してくれた。


 「僕には払えないかな? 」


 《放っておきなさいよ。》

 『放っとけよ。』


 礼子と勇次郎が同時に言った。二人はいつもは喧嘩ばかりしているけど、たまにこんな風に気が合う。


 「そうはいかないよ。」


 と僕が言うと二人は何も言わなかった。


 〈じゃあ、まずはお湯を沸かして、そのお湯を冷ます。その水を私の言う神社に持って行って。〉


 「どうするの? 」


 〈いわゆる霊水を作るのよ。その水をかけてやるの。あのくらいのレベルの憑依霊なら、たぶん払えると思うわ。〉



 僕はその日に水を持って、百合子の案内である神社に向かった。その神社は僕の家から1時間ほどの山裾にあった。結構大きくて歴史がありそうだ。神社の境内を掃除している男性に話しかけてみた。


 「すいません。ちょっとお伺いしたいのですが。」


 「はい。どうされました? 」


 「あの、霊水を頂きたいのですが、どうすればよろしいでしょうか? 」


 その男性は幾分驚いたような顔をしていた。


 「そうですか。私はここで神主をしております次藤(じとう)明と言います。どうぞこちらへ。」


 そう言って僕を社務所に案内してくれた。


 「ではお話しを伺いましょう。霊水をどうされるのですか。」


 僕はその問いに、率直に学校での出来事と、憑依霊を払うために霊水が欲しいと告げた。ただし百合子の事は伏せていた。


 「お話しは分かりました。失礼ですが、除霊のまねごとは危険です。貴方はなんの修行もされていませんね。それに一つ、疑問があります。ここをどうして知ったのですか? 」


 〈素直に私の名前を出して。大丈夫だから。〉

 と百合子が言った。


 「実は橘百合子さんに伺って参りました。」


 僕は百合子の名前を告げた。

 すると、明と言う男性は目を丸くして驚いて言った。


 「橘百合子!? ど、どこでその名を? 悪い冗談です。その方は既に亡くなっています。それも30年も前に。」


 〈ちょっと体を借りるわね。〉


 僕は頷いて体の力を抜いた。


 「〈私よ。百合子よ。この子の体を借りて話すわね。明君、久しぶりね。〉」


 目の前の明さんは先ほどとは比べ物にならないくらい驚いて、僕をまじまじと見つめた。百合子とこの明さんは知り合いだったらしい。百合子は僕の守護霊になっている事を告げた。明さんは信じられないと何度も言っていたが、百合子が明さんと二人しか知らないことなどを話したりすると、最後は納得したようだ。


 「そうですか。しかし、驚きました。でも百合子さんがついているなら安心ですね。分かりました、ちょっと待っててください。霊水を準備します。」


 そう言って明さんは僕の持参した水を持って奥に引っ込んでいった。それを見て百合子は僕の体から抜けた。


 「知り合いだったんだね。」


 〈そうよ。従姉弟なのよ。私はここで巫女をしていたの。〉


 「そうだったんだ。百合子は不思議な人だなって思っていたんだ。巫女さんって聞いて何となく納得したよ。」


 〈あら、巫女だって普段は普通の人間なのよ。〉


 そう言って百合子は笑っていた。

 霊水を受け取って神社を去ろうとした時、明さんはまた来てくれと言って見送ってくれた。それは僕にではなく『百合子』に言ったんだと思う。





 そうして僕は霊水を手にする事が出来て、戻ってきた。

 翌日、僕はみさきを屋上に呼び出して霊水をかけた。するとみさきは突然苦しみ出した。


 「「貴様! 何をする! 」」


 恐ろしい声だった。脳に直接届いてくるような低い男性の声だ。顔も目がつりあがりみさきの面影がないほどだった。。

 その時に、また百合子は僕の体を支配し何やら呪文のようなものを唱えた。その呪文のようなものを聞いた途端、みさきは体をピンと張り『気を付け』のような姿勢になる。その後、操り人形の糸が切れたようにその場に崩れ落ちると気を失った。


 〈終わったわ。やっぱり低レベルの霊だったわね。〉



 こうして無事にみさきの憑依霊は取り除かれたんだ。

 除霊の済んだみさきは、憑依される以前には戻らなかった。それは僕に事あるごとに話しかけてくるようになったのだ。以前はほとんど会話をした記憶がない。


 《ふふふ。あの娘っ子。(のぼる)君に惚れたわね。》


 礼子が楽しそうに呟いた。

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