霊感少女
「本当? 怖い~っ! 」
数人の女生徒が集まって何やら騒いでいる。どうやら、その中の一人が霊感があると言っているらしく、霊が見えるのだと言う。
僕なんか、毎日、霊と話をしている。どうせ眉唾だ。
「じゃあさ、守護霊とかも分かるの? TVで天草四朗が憑いてるってタレントとかいるじゃん。」
「ある程度は分かるよ。」
「ねね、私は? どんな守護霊? 」
「う~ん、なんか中世の音楽家っぽい人みたいのが見えるわ。」
「えっ~。なんか嬉しいかも~。」
僕は馬鹿らしいって思いながら彼女たちを眺めていた。
「なあ、龍、本当だと思うか? 」
友人の実が、彼女たちを指差しながら言った。
「さあな、興味ないし。」
僕はそっけなく答えた。
その声が聞こえたのだろう。彼女たちがこちらを見ていた。霊感があると言う女生徒は、睨むような目つきだった。
「ねえ、龍君は霊とかって信じない人? 」
女生徒の一人が寄って来て言った。
「霊? 信じてるよ。」
だって毎日接しているんだから。
「そう。なんか信じてないかと思った。…… じゃあさ、守護霊、みさきに見てもらいなよ~。」
女生徒は僕の手を引き霊感少女・みさきの前に連れて行った。
僕は断るのも面倒だったから、黙ってその娘の前に座った。
みさきはじっと僕を見る。そしてもっともらしく目をつぶる。
「二人いるわ。一人は武将ね、名前は分からないけど強い武将みたいね。もう一人は日本人じゃないけど学者。」
「ぶっ! 」
僕は思わず吹いていた。見当外れだったからだ。僕には4人だよ。武将も外国人の学者もいないよ。
「何がおかしいの? 」
むっとしたみさきが僕に言った。
「いや、ごめん。なんとなく可笑しくなってさ。」
本当の事は言えるはずがないのでごまかした。
チャイムが鳴り僕は開放された。なんだ、やっぱりインチキだったか。
次の休憩時間も、彼女たちは霊の話で盛り上がっていた。次々と人を呼んでは、守護霊はどうだとか話をしている。黙って聞いていると、だんだん腹が立ってきた。彼女たちが悪乗りしてきたからだ。視力がとても悪い友人には盲目のひとが憑いてるとか、足の不自由な人には戦場で足を怪我した軍人がとか言っている。こういう事がいじめにつながるんじゃないかと思った。気が付いたら彼女たちの元に走っていた。
「もう、やめなよ。本当に見えるかどうか分からないけどさ、嫌な気がする人もいると思うぜ。」
僕は言ってやった。
すると一番はしゃいでいた女生徒が、言った。
「はあ? 意味分かんないんですけど!? 何むきになってるわけ? 」
「守護霊が盲目とか、本人は嫌な気がするだろう? 聞いてる僕も不愉快なんだよ。」
「はあ? そういう守護霊が憑いてるんだからしょうがないじゃん! 」
「あまりに都合がよするぎるね。吹奏楽部の君には音楽家の、視力の悪い人は盲目の人、足の不自由な人には足を怪我した軍人。僕は理数系が得意だから学者? 適当としか思えないね。」
僕が指摘すると彼女たちは黙ってしまった。でも学者が僕の守護霊と言うのは当たっているんだけどね。僕は幾分落ち着いて自分の席に戻ったんだ。
〈あのみさきって娘に変な奴がとり憑いてるわ。〉
ふいに『百合子』が言った。そう『百合子』も僕の守護霊の一人だ。めったに出てくる事はない。彼女は他の三人の様に、僕に分かるように手助けをしてくれたりはしない。でも彼女のお陰で僕の生命力というのは強いのだと『勇次郎』が説明してくれた事がある。
「どういうこと? 」
僕は小声で百合子に聞いた。
〈やっかいな憑依霊がついてる。〉
僕は驚いて、まじまじとみさきの後ろ姿を眺めた。
「どうなるの? 」
〈分からないわ。だけど、その内になんか起こるわ。〉
僕は寒気がした。