家庭教師
〔前から言ってるではないか。公式など無理に思い出さなくてもよい。この問題の意味を考えなさい。〕
「意味ねぇ。…… そうか、要はこちらの体積の値とこの面積の2乗は相関関係にあるということなのか。」
〔いいぞ。その調子だ。〕
僕は来週の期末テストに向けて勉強している。僕の家庭教師は優秀だ。考える力を鍛えなさいという。決して詰め込み的な…… いわゆる丸暗記をさせない。彼は数学、物理が得意だが、全ての科目について適切なアドバイスをくれる。
【がちゃっ】
僕の部屋のドアが開いた。
「何してるの~? 」
「見ればわかるだろう。来週テストだからな。由美もそうじゃないのか? 」
「うん、適当にやってるよ。」
僕の部屋に入ってきたのは2つ下の妹、由美だ。明るくて容姿もいい、可愛い妹だが、甘えん坊なところがある。
「お兄ちゃんさ。また独り言いってたでしょ~。やめた方がいいよ、その癖。」
「ああ、そうだな。気を付けるよ。」
「素直でよろしい。はい、麦茶だよ。」
麦茶を置いて妹は出ていく。
独り言か。僕は独り言をいっていたんじゃないのだけどな。家庭教師と話していたんだ。もっとも僕の家庭教師は、他の人には見えないけど。
そう、彼もまた、僕の守護霊の1人。彼は『南久松敏』、某大学の教授で博士でもあった。僕は『教授』と呼んでいる。『教授』いわく、世の中の事象は全て数学で説明がつくらしい。
〔今日はこの辺にしといた方がいい。昨日の疲れも出ていて、集中力がないからな。〕
「そっか、じゃあ、そうするよ。話はかわるけど、前に教授が全て数学で説明がつくと言っていたね。」
〔ああ、その通りだ。〕
「じゃあ、僕が教授と話ができる事も説明がつくのかい? 」
〔それは…… 。説明がつくはずだが。少し時間をくれたまえ。…… 面白いテーマだ。〕
「い、いいよ。無理にやらなくても。…… ってもう聞いてないか。」
一週間が過ぎ、期末テストが終わった。結果はすぐに分かる。『教授』がその場で採点するからだ。数学96点、物理87点、生物100点…… 僕の理数系の点数だ。数学のテストが終わった時は教授に怒られた。凡ミスしたぞと。
〔龍。この間の質問だがな。導き出せるかもしれない。〕
「ん? なんだっけ? 」
〔龍が私と話をできる事象だよ。まず私の存在をx、龍の存在がyとする。話をするという事が接点を持つと仮定した場合……。〕
「ああ、もういいよ。頭痛くなる。勝手に考えていてくれ。」
『教授』は真面目な男だ。学者と言うのはそう言うものなのかもしれないな。彼はしばらく出てこないだろう、計算が忙しそうだから。
◆ ◆ ◆ ◆
テストが全て終わり、帰途についている時に勇次郎が出てきた。
『龍。今日は稽古に行こうぜ。体を動かした方がいい。』
「体を動かしたいのは勇次郎だろう。でも、行くかな。」
『そうこなくちゃ。そこで気になる所があるんだが、連れて行ってくれないか? 』
「またかい? 仕方ないなぁ。」
勇次郎は僕の守護霊のくせに、色々な武道を体験したいらしい。度々、色々な道場に連れて行けとせがむ。また、今回もそうらしい。
「ここかい? 」
僕は勇次郎に導かれるまま、ある道場の前に来ていた。
”神道日向流柔術”と看板が掲げられている。
『ああ、ここだ。わくわくするな。』
「わくわくしなくていいよ。無茶はするなよ。僕の体なんだからな。」
『分かってるって。』
《やめた方がいいわ。》
その道場の扉を開けようとした時、『礼子』が言った。
『なんだよ、じゃまするなよ! 』
《私は龍君の体の事を思ってるの! あなたも守護霊なら守護霊らしくしたらどう? 》
『何! これは龍のためでもあるんだぞ! 龍には武術の才能がある。才能を伸ばすのも守護霊の役目だ! 』
《ふんっ! あなたは、ただ自分が満足したいだけじゃない!? 才能って言うのは…… 。》
「二人ともうるさい! 礼子もありがとう。でも僕も好きなんだ、強くなるのが。」
僕は二人の守護霊の喧嘩を止めた。この二人はいつもこんな感じだ。
【からからっ】
僕は道場の扉を開けた。