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ニート、初めての虐待

今回は短めです

「むきゅ」

 謎の鳴き声と共に突然、俺の視界は何者かに遮られた。


「むきゅーーーー」

 ……真っ暗で何も見えない。顔に何かがしがみついているような感覚はあるのだが……。とりあえず棒立ちで安定だろう。


「むきゅーーーーーーー」

 猿みたいな甲高い声だ。そしてしがみついている力が徐々に強くなっている。痛い、が、棒立ちすることしか出来ない人間の無力さ、儚さ、愛おしさ……。


「なんで剥がさないの?」

「そうですね」

 手でぐっと掴んで無理矢理引き離した。

 謎の生物と目が合った。


「むきゅ?」

 それは体長が腕の長さぐらいで、猿みたいな体格にハムスターみたいな顔という、なんとも愛らしいキャラだった。例えるなら地方のオッサン達が必死になって作ったご当地キャラみたいな感じか。


「すいませんナギサさん、この生物は一体何ですか?」

「ああ……、これはこのゲームのマスコットキャラのマンキッキよ。取り付いたプレーヤーに体力の回復やアイテムを拾うなど少し良いことが起こるわ」

「そうですか。良かったです」

 俺はほっと胸をなでおろした。

 マンキッキと呼ばれる猿の頭を撫でてやると嬉しそうに頭を自分からコシコシと動かし始めた。

「ただね、逆もあるのよ。プレイヤーに少し悪い事が起こる事も。とはいっても死んだりする事は無いんだけど、一定時間スピードが落ちたり人と話せなくなったりと面倒なのよね……」

 うーんと少し困った表情を浮かべるナギサさん。どうやら厄介な物らしい。


「じゃあ引き離した方が良いですかね」

「そうね、本当ならそうするのが一番だとは思うけど……。とりあえず周りを見てくれる?」

 周辺を見渡すと、大勢のプレイヤーが俺の方を見ていた。写真を取っている人までいる。

 その中の数人の女子高生っぽいグループが俺の前まで来た。


「あのー、すみません、触らせてもらっても良いですか」

 俺はナギサさんの方を見ると頷いたので、良いですよと言った。すると女子高生達は喜んで撫で始めた。


「ね、こういう事よ。無理矢理引き離すと周囲の目があるでしょう、かわいそうだって意見が出てくるよの。確かにシュライムは人懐っこいだけで、それ自体に罪は無いからね……」

 と、ナギサさんは周りに聞こえないように囁いた。要するに周りの目が気になるから放置が安定行動と言うことか。


「なるほど、分かりました」

 俺はすいませんと一言言ってから女子高生の輪に溶け込んでいたマンキッキを取り出した。抱きかかえて手を伸ばしてみる、喜んでいる表情が可愛い。


「むきゅーー」

 俺はそのままゆっくりと腕を伸ばしていった。軽く上下に振ってみると、まるで子供をあやしている大人になった気分だ。


 ──そのまま、軽く体が浮く程度に上げて手を離した。


「むきゅ?」

 俺の手から離れたマンキッキは軽く宙に浮いてから、重力によりすっと落ちていった。

 マンキッキが下に落ちきる前に、俺は軽く前ダッシュをした。そしてキャンセル。必然的に腰を落とした体勢になった。そして……


 ──渾身の俺のダッシュ蹴りが決まった。


「死ねこの淫獣が!!!! デッドエンド、シュウウウウウウウウウト!!!!!!」

 バチーンというまるで何かが爆発したような音を残して、マンキッキは断末魔さえ残らない勢いで消えてしまった。

 俺の周辺がシーンとした空気になった。


「うわー、さすが自宅警備員、周りの事なんか気にしないわね」

 ナギサさんは賞賛ともバカにしてるとも取れる発言をした。当然、周りの目が気になるならニートなんか出来ない。そんな感情、すでに捨て去ったさ、──過去の思い出と共にな。

 俺は任侠映画に出てくるヤクザみたいな自分の考えに酔いしれた。何をしたかと言われれば小動物に虐待まがいの事をしただけなのだが、それは気にしない。

 気にしてはいけない。


「それじゃあ行きましょうか」

「そうですね」

 ナギサさんの一言で俺たちは再び移動を始めた。ちなみに先ほどのキックで女子高生のグループからゴミクズを見るような視線を受けた時に、若干の興奮を覚えたのは内緒だ。持って行こう、墓場まで。

 およそ数分か、歩いていると目的地に着いたようだ。見たところ、普通の民家なのだが……。


「もしかして、ここってナギサさんの家ですか?」

「いいえ、ただの民家だわ。あたなRPGのゲームはやったことあるかしらね?」

「はい、みんなが知っているようなゲームしかやってないですが」

「充分よ。ではあなたがRPGで民家に入ったときにする行動って何かしらね?」

「えっと……、人と話すとか、イベントがあるかとか、後は……」

 俺は言い淀んだ。他にもあるにはあるのだが、少し言いにくい事だ。


「後は、が重要なのよ。言ってみて」

「アイテムの捜索とか……ですかね?」

 俺が恐る恐る言うと、ナギサさんは笑顔で頷いてくれた。どうやら正解ということらしい。


「そうね、RPGで大事な要素アイテムの収集よ。タンスを開けたりツボを割ったりしたことはあるわね、ここでも同じよ」

「要するにここでそれをやれと……」

 ナギサさんは首を縦に振った。どうやら俺は現実世界では絶対に出来ないアイテムの収集をする流れのようだ。


「大丈夫よ。どこのゲーマーがRPGの時に民家でアイテム収集を悪いなと思ってやってるのよ。ここは散策用に初めから用意された場所なんだって」

「そ、そうですね。でも……僕は舞に会いたいんですけど……」

「だからじゃない。舞と会う前に不測の事態に合ったらどうするのよ」

「……はい、そうですね」

 俺は少し戸惑いながらも肯定して、家の中に入っていった。だがナギサさんはついて来なかった。


「あれ? ナギサさんはやらないんですか?」

「私は隣の家の散策をしているわ。そっちの方が効率が良いでしょ」

「そ……そうですね」


 俺は一人でドアを開いて家の中に入った。

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