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ニート、初めてのオンラインゲーム

 こうして不良とエンカウントすることなく、無事家に帰ることが出来た。


「いやー、綺麗な女ではあったが、若干のメンヘラ女だったよなぁ」

 100人いたら100人がお前が言うなと言われるかもしれないが。

 まあ良かったのは叫んだのが俺だった点だ。もし相手に叫ばれようなものなら、俺はどうして良いか分からず、焦って泡を吹いて倒れていた可能性がある。


「生きて帰ってきた事に、乾杯」

 乾杯する相手も当然いないので、自分でコップにデコピンして音を鳴らした。……爪が痛い。


「アホなことやってないで、これやるか」

 先ほどメンヘラ、もといミサから貰ったオンラインゲームの紹介されている紙を取り出し、内容を確認をしていった。

 中身はダウンロード用のCDが一枚ついているのと、可愛いキャラや大きく美しいステージが紹介されてあるだけで、肝心の戦闘システムやアイテム等の説明が全く無い。さらに所狭しと『世界一のオンラインゲーム』と書いてある。

 あと赤い字でネタバレや情報等をネット上に書くのは絶対に禁止と書いてある。何らかの罰があると。


「怪しいってレベルじゃねーぞ……」

 俺は少し変なゲームだなと思いつつも、オンラインゲームの名前『ファイナルポケットクエスト』を検索サイトに書き込んでいった。こういったゲームは情報戦である。ネットに出ている情報など大多数が知っているだろうが、贅沢も言ってられない。

 しかし、ある違和感に気がついた。

 普通、検索サイトにある程度単語を打ち込むと予測で全ての文字が出てくるのだが、なんと全部打ち込むまで何も出てこなかった。


「もしかしてオンラインゲーの殻を被ったエロゲーじゃねえよな……」

 エロ系の単語は検索予測から外れる可能性が高い。対象年齢を一応見てみた。5才以上推奨と書いてある。


「良かった! ぼくにじゅういっしゃい(21才)!」

 ダーーンと力強くエンターを押した。


 しかし当てはまる公式サイトどころか、紹介するブログ、wikiなどが無い。一つも無いのだ。

 ただ一つ、ヒットした単語があった。それはゲームを愛する人のツイッターだった。


「ファイナルポケットクエストで、最初に女が降ってくる可能性がある」

 それだけだった。しかもこれ以上情報を聞こうにも、その書き込み以降、一切の書き込みどころかログインすらされていない。

 俺は情報を諦め、ダウンロードディスクをパソコンにセットした。今ではハイスペックとは程遠い、昔に買ってもらったマイパソコンが悲鳴を上げながら読み込んでいる。

 突然、画面中央にポーンと警告の文字が出てきた。これは信頼出来る物ですか? 危ない物ではないですか? ダウンロード許可、不許可と。

 俺はもう半泣きだった。


「危ないよぉ……、どう考えても危ないよぉ……、エロゲに出てくる男装してる女キャラより危ないよぉ……、エッチが嫌いって言ってる女キャラが同人誌に出るより危ないよぉ……、PM2.5を警戒して大きいマスクをして眼鏡が曇った状態で歩いてる人より危ないよぉ…………」

 若干錯乱しながらも、許可を押した。

 ガチガチと悲鳴を上げていたパソコンが静かになった。そしてダウンロードを完了しましたという文字が浮かんだ。更に進むと画面が真っ黒になり、ゲームを開始しますか? という文字だけが大きく浮かんで来た。

 もう後には引けない。否、引く必要もない。あとは神を現実世界へと引きずり出すだけだ。今は前へ強く進む時!

 俺は再び力強くエンターを押した。すると画面中央に文字が浮かんだ。


『このゲームを遊ぶには、3000円が必要です。よろしいですか?』

 よし! 引き返そう。人生機転の良さが物を言う。俺、ナイス決断。オレ、ムリ、シナイ、ゼッタイ。


「くっそー……、ぼったくりゲーかよ……。3000円かー……」

 3000円と言っても俺と一般人の感覚とは全然違う。なんせ俺の小遣いは月に一万だ。家賃や光熱費ネット代は含まないのだが、それにしても一万は少ない。

 冷静に計算しよう、月一万なら一日平均330円使う事が出来る。この時点で既にカツカツなのだ。雑誌は全部立ち読み、DVDは全て旧作を借り、食事は安くて量が多い冷凍うどんを食べる事が多い。当然、肉やカマボコなどトッピングの類は一切ない。

 ところがここで3000円を使うと7000円、一日230円になってしまう。物価の安いインドやタイでも厳しいんじゃ無いだろうか。ここまで来ると人間としての尊厳は守られているのか、法律違反ではないか、そんな不安さえ頭をよぎってくる。


「ちょっと待てよ……」

 俺はドックフードの値段を検索してみた。およそ3キロ2500円が一般的な値段だ。さらに犬は300グラムを一日に食べると計算して……

 俺230円、犬250円。

 みなさん、お分かりであろうか。これはただ単に3000円払うか払わないかの問題ではない。このままやり過ごして人間としてのプライドを保つのか。それとも神を救いに行って犬以下になるか。

 電話してみた。


「あっ、ミサ? あのさあ、今からプレイするんだけどさぁ、俺さぁ、プレイを止めるか犬以下になるかの選択を迫られてるんだけどさぁ、うん。うん。うん……」




 ──やれ。




 というわけで、俺は当初から全くぶれる事無く、プレイする事に決めた。なぁに、神が助かるのなら安いものだ。犬以下だって? 人間の価値を金で決めるんじゃねえよ。人間はお金じゃないって、どこかの大金持ちが言ってたよ。

 カードの暗証番号を書き込み3000円をぶち込んだ。注意事項に死んで再プレイする時にまた再課金するという悪魔の文字が見えたが関係ない。死ななければどうということはない。

 ようやく俺はゲームの世界へと足を踏み入れた。目を閉じて、まるで自分がパソコンの中にいるような感覚に陥っていった。

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