とあるニートの生活
俺はニートだ。引きこもりだ。夢は無い、希望も無い。だが俺には……『神』という光がある。
俺はニートだ。断言する、俺はニートだ。しかも若干の引きこもりである。
俺の状況を説明するにあたって上の一行で充分なのだが、もう少しだけ説明させてもらおう。
俺は地元の高校を卒業してから一浪して私立の大学へ合格した。わりと有名な大学で、予備校の卒業生大学一覧で大きく書かれているぐらいだ。就職の実績も良い。
しかしそれが俺の人生を大きく狂わせてしまう事になる。元々俺は人付き合いが得意な方でなく、勉強という支えの元で学生生活を送っていた。そんな俺から勉強が無くなってしまったらどうなるのかと想像がつなかったのか、もしくは想像したくなかったのか。
大学ではとにかく人が多いのがマイナスだった。人が多い方が自分と合う人を見つけやすいと思ったのが完全に誤算だった。結局大部分が大きな和の中に入り、はぐれ者は小さな輪を作って細々と遊んでいる。そんな小さな円の中にすら入れない俺が言うのも何ではあるが。とにかく、何をするにしても周りの視線が気になって仕方がなかった。
わざわざ上京して一人暮らしまでして大学に通っていたのだが、色々な苦難により結局途中で行かなくなってしまった。親は俺を説得して休学扱いにしてくれているのだが、もうそろそろ猶予期間も無くなるだろう。
夢は元から無かった、素晴らしい大学生活という理想はすぐに消え去った。そこからは堕落の一方だった。
まず朝に起きれなくなった。学生の時は朝が強い方だったが、今考えるとそれは一定のリズムがある生活を送っていて、尚且つ学校へ行くという目的があるから出来ていたことだった。朝起きるにしても大変な事だったんだなぁと今痛感している。
あと夜以外に外へ出歩かなくなった。昼は太陽が眩しすぎる、網膜を焼き切るかの如く放射線が俺には耐えられない。よく子供の頃は外で遊んでいたなぁと思う。晩は帰宅する学生を見ていると、自分が今何をしているのかという念に捕われるからだ。本当にくだらん理由だと自分でも思う。
カップルなんか見てると尚更だ。まだ成人カップルは許せるが、学生の不順行為的な行為は許せない行為だろう。見つけ次第、ただちに豚箱へぶち込むべき行為だろうと思ってるわけで。
……いや、あいつら豚箱の中でもイチャイチャやるだろうし、逆に禁断の恋みたいな感じで今以上に盛り上がる可能性もあるからやめとこうかな……。
まあそういう理由もあって、もっぱら俺の行動は夜になる。不良が通らない道を歩き、スーパーの半額弁当を狙う。たまに心の余裕のある日はDVDを借りたり本屋に行ったりもする。これだけで俺にとっては海賊船に乗るより凄い旅だと思う。
そんな俺だが、別に人生に絶望することは無い。むしろ納得して日々を過ごしている感もある、決して強がりでもない。
理由は簡単、俺には『神』という希望があるからだ。
『神』と言っても別に宗教的な『神』ではない。ただ人間は凄い物を見た時に「神だ!」という感じでよく神に例えられるだろう、その一種と思ってくれていい。
「ういしょーっと」
俺は座ったまま軽く背伸びをした。バキボキと色々な骨が音を立てる。固まった筋肉が伸縮して血液の流れが良くなり、心地が良い。あまり体を動かしていないとこの行動でさえ痛い時がある。どうやら今日の俺は調子が良いみたいだ。
今の俺がいる部屋は7疊1間という、ごく平均的な大学生の部屋だ。その端っこで俺はパソコンをやっている。もちろん俺の自宅だ、友達の家には何年も行っていない。
部屋は殺風景なもので、飲み終わったペットボトルが数本とエロ本が散り散りと置いてあるぐらいだ。まあ言い換えれば小綺麗な部屋とも言える。
引きこもり当初は『ザ・引きこもり』とも言えるような足の踏み場も無いぐらいの散らかり具合だったが、寝て起きた時に喉がどんどん痛くなり、病院へ行くのが嫌なので部屋を片付けた。体を気遣うというより、無用で外に出るぐらいなら片付けの方がマシだと思ったからだ。
話を少し戻そう、俺には神がいて、なんとワンクリックでいつでも神に会えるのだ。
もはや目をつぶっても出来る日課を俺は始めた。
まずパソコンをつける
インターネットのアイコンをダブルクリック
お気に入りの一番上を選択
Boy meets god! yeah!
「YEAHーーーー!」
俺はテンションが上がってカタコトの英語を小声で叫んだ。普段ほとんど使っていないカスカスの喉が若干痛い。
というわけでお待ちかね、約5秒間のお待ちかね、神とご対面の時間である。
青く無愛想なパソコンデスクトップから一転、ピンク色で可愛い装飾が数多くされたページへと飛んだ。
「ありがたや~~!」
それはアイドルのブログであって、近年ご当地アイドルが急激に増えた中の一つである。NND69、通称エヌエヌデイームックリのファンサイトである。
およそ5年前に誕生して平均年齢が17才という若さで注目を浴びた。今は勢いが落ちたものの、それでも名前ぐらいは聞いたがあるという人が多数だ。
その中でもトップ、リーダー的存在の沢渡舞を俺は押しメンとしている。というか、彼女だけを応援している。
実は舞と俺は高校で3年間学年クラス共に同じだったのだ。彼女は常に輝いていた。
そして俺は、彼女に恋をしていた。
彼女に惚れた理由は単に一目惚れだ。かわいい、それが第一印象でその後もずっと変わらない。特に性格が良いとかも無いし、俺と話をしたこともほとんど無い。こんな片思い、世間ではつまらないと言われるかもしれないが、ドラマチックな恋をした人なんか数パーセントもいないだろう。変に凝った出会いなら詐欺を疑ったほうがいい。
舞は俺なんかとは違って何でも出来た。部活はチアリーディング部に入り一年からレギュラー、勉強も凄く出来ていた。友達付き合いも多くて良いグループ、捻た言い方をするとリア充なグループに常に入っていて、その中でも中心的存在だった。彼氏はサッカー部のキャプテンだったような気がする。否、リア充グループはみんなが楽しそうに遊びをやってたから単に俺が付き合ってるように見えただけともあるが。
顔も可愛かった。清楚という訳ではないが、今風の若いイケイケ女性という感じだ。化粧をいち早く取り入れ、髪も大学生がやるような事を既にやっていた。見かたによっては少しケバイとも言えなくはないが、まあ可愛いのでオールオッケーである。
そんな彼女が高校2年になる時、急に「アイドルになりたい」と言い出したのだ。当時は高校生がアイドルをやることは珍しく、誰もが反対、もしくは無理だろうという意見だった。
否定的な意見しか無い中で俺は大丈夫だと思った。いや、絶対に出来ると確信していた。彼女は部活もやっていて常識的に考えれば確かに無理だろう。
だが彼女は『神』だ。何だって出来るんだから。
俺の想像通り彼女はオーディションを受け一発で合格、更に学業、部活、アイドル活動の3つを見事にやってのけた。
その姿はまさしく『神』だった。見ているだけで、何もない俺の心は救われた気がした。
舞と俺は一度だけ会話をした事がある。高校一年の二学期での期末テストで俺がクラス一番の成績を叩き出した時、舞は二番だった。その時に目がふと合って一言「へー、やるじゃん」と。
この何気ない一言が俺の人生でピークと言ってもいいほど幸福だった。彼女は少しの間返答を待っていたが、俺は何も言えなかった。否、言えるはずが無かった。
だって相手は『神』なのだから……。
そしてこのテスト以降、俺は成績が下がっていって彼女の上に立つことは無くなり、話す機会も無くなった。そのまま卒業して舞は芸能活動に専念する道へ、俺は一浪で違う大学へ。会う機会も無くなった。
「それじゃあブログチェックでもやりますか」
俺はF5というボタンを5回押してから舞のブログを拝見した。これをするとアクセス数が稼げる。そしてまず俺がする事と言えばコメント覧が荒れていないかをチェックをする事だ。悪いコメントがあればすぐにブログの会社へと連絡して対応を取ってもらう。
昔は数百というコメントが寄せられて大変だったが、今は週に数件あるかどうかという楽な仕事になってしまった。それもファンからの書き込みではなく詐欺広告が多い。
というか、ブログの更新が5ヶ月前から止まっている。まあ舞は違うことに夢中になって更新を忘れているのだろう。ブログより大切なものを見つけたのだと、少し寂しいが新のファンなら喜ぶべきである。
俺はコメント欄を確認してからもう一度、F5を軽く連打してからログアウトした。
次は3chという大きな掲示板へと向かう。誰でも気軽に入れて匿名で書き込める、日本で一番大きな掲示板である。
ここでは管理人がほとんど仕事をしてないので、異変、いわゆる誹謗中傷的なコメントを見つけた場合は俺自身が何とかしなければならない。書き込みで喧嘩をする『レスバトル』へと発展するのだ。
過去の書き込みを見返してみる。
233 名無しのアイドルオタクさん 17:35
舞って言うほど可愛くないわ。ゴリ押しにも程がある。AV女優の方がよっぽど可愛いWwW
234 名無しのアイドルオタクさん 17:36
>>233
おまいが見る目無いことは分かった。どう考えても一番輝いてるのは神こと舞だろ
243 名無しのアイドルオタクさん 20:15
>>234
は? こんな奴のどこが輝いてるの? 頭? 実はハゲてるとかWwW
244 名無しのアイドルオタクさん 20:16
>>243
ハゲはお前だよ。風呂の排水溝が悲鳴上げてたぞバカやろう、このスレに二度と来るんじゃねえぞ
247 名無しのアイドルオタクさん 23:11
>>234
その前に神ってなんだよww
248 名無しのアイドルオタクさん 23:11
>>247
神は神だよ。読み方が分からんか? 小学生からやり直せ
まあ冷静に見返すと、スレを守るどころか壊してる方に入ってるんじゃないと一瞬不安になったが、大丈夫だろう。多分……。
こんな不毛とも言えるやりとりを一日に何度もしていた場所ではあるのだが、今では閑散とした状態になっている。一日1レスは必ずあるのだが……それは全て俺だ。俺を除けば何も無い日も多い。
本日も画像に写っているのが昨日までの俺の書き込みしかなかった。異常なしというべきか、異常ありというべきか……。
555 名無しのアイドルオタクさん 19:11
最近舞さんの事をしってファンになりました。応援しています
と、一言書いた。新規ファンを装っている辺りレベルの高い書き込みをしていると思う。
俺は一つため息をついてパソコンを閉じた。他のスレに行くことは無い、なぜなら舞のファンが他スレを荒らしてる何てバレたら雰囲気が悪くなるだろう。
あとは色々な本を読んだりゲームやったりして時間を潰していく。今日は10年前に発売されたゲームを安値で買ってやっている。昔は出来なかった、もしくは買ってもらえなかった奴を出来る喜びといったら他にない。
熱中してやっていると足が痺れている事に気がついた。ずっと同じ体勢でやっていたらしい。窓を見ると日が開けて明るくなっていた。
寝る前にスズメが泣くのを聞くと強烈な自己嫌悪に陥ってしまう。俺はゲームをそのまま放置して布団に横たわった。
カーテンを閉めてパソコンの光だけが薄くともっている部屋の中で、俺は今日の一日何をやったのかと思い返してみる。
起きる
ネット(ブログのチェック)
歯を磨く
飯を食う
ネット(ブログのチェック)
飯を食う
ネット(3chのスレ監視)
本を読む
ネット(ブログのチェック)
飯を食う
ゲーム
こうして見ると本当に無駄な一日に見えるかもしれない。だが、俺には悲壮感など一切なく、むしろ充実感で満ち溢れていた。
「ありがとう、神よ!」
そう、今日もこんなにも素晴らしい日をありがとう。俺を照らし続けてくれてありがとう『神』よ!
三日がたった。
この三日間、特に何も無くいつも通りだった。強いて上げるとすると2つだけあるにはあったのだが。
まず一つ、部屋の掃除をしてみた。これは定期的にやっておかないと例のごとく喉を痛めてしまう。
そしてもう一つ、3chの舞のスレに書き込みがあった事だ。
557 名無しのアイドルオタクさん 19:33
こんな奴いたなWwW 消えてくれてせいぜいする。今は何をしてるんだか。
それは大変無礼な書き込みだった。以前の俺なら激怒してレスバトルが展開されていただろう。でも今の俺は一言
558 名無しのアイドルオタクさん 00:33
>>557
そうだね、一体何をしてるんだろうね
と、書き込みをした。神がバカにされても俺は怒りがわかなかった。むしろ嬉しい気持ちの方が大きかったからだ。
何故なら、この人は舞を心配していると思った。
そして時間がたってまたスレを覗いてみると
559 名無しのアイドルオタクさん 02:11
>>558
お前が知らないなら誰も知らないんだろう。……今まですまなかったな
と、一言書いてあった。どうやら俺とレスバトルをした人らしい。なぜ匿名の掲示板で俺と分かったのかは謎なのだが。
よくよく考えてみると、このスレで舞の情報を教えて感謝された事はあったが、こうして謝罪された事は今までになかった。リアルを入れても何年ぶりだろう。
「はぁ……、本当に、舞は、今何をやってるんだろうな……」
アイドルを辞めた訳では無さそうだ、名簿に名前が残っている。事故の類も無いだろう、さすがに名前が出る。
なら……単純に消えてしまったのか? 芸能界の荒波に飲み込まれて。
「はは、はは、、はーーっはははははっーーーーーーーー」
俺は自嘲気味に大声で笑って見せた。水分を取っていなかったせいで予想外に喉が痛くなった。近くにある水道水が入ったコップを乱暴に上げて飲み干す。
アイドルに限らず俳優や歌手で売れたけどダメになった、それはいくらでも例がある。何故なら芸能界は次々と人が来るのだ。それも毎年ではなく毎日のように夢見る有望な若者が全国各地から。世界から来るケースも珍しく無くなった。
普通の人なら消えてもおかしくない。だが彼女は『神』なのだ。その程度の困難なら簡単に乗り越えていくはず。絶対に。
だから今彼女がテレビや雑誌に出ていない理由は何かしらのアクシデントがあったか、芸能活動以上に熱中しているものがあるのあろう。別にどちらでもいい、どちらでもパパッと神の如く終わらせ、また引っ張りだこになるぐらい活躍するのだろう。
それまで俺の出来る事と言えば……、待つぐらいだ。そう、あの笑顔がまた見れる。そして前以上に忙しい日々が俺にもやってくる。
外を見るとまだ明るくなっていなかったが、俺は早めに寝る事にした。寝て過ごした方が思いつめるよりマシだと思ったからだ。
パソコンの電源を落として部屋を完全に暗くしてから布団に入った。水分も取ったし部屋も綺麗だ。目を閉じればすぐ眠気がやって来た。
次の日の昼、俺は起床した。
結局いつ寝ても朝に起きないもんだなと少し気落ちしたが、今日もいつも通りの日課を始めるとした。
ブログ……変化無し。そもそも俺以外に何人ぐらい見ているのだろうか、それさえ分からない。
3chを開いた。そこには、いつもとは違う展開になっていた。
600 名無しのアイドルオタクさん 07:11
ていうか俺、彼女が何やってるかしってるぞWwWだれか一人にだけ教えてやるよWwW
「……これは、煽りレスか?」
何やら関係者らしき書き込みが。これも以前なら珍しく無かった。『俺はマネージャーの知り合いだが、あいつ変態らしいぞWW』と言ったように、あたかも自分が見た聞いたような書き込みをして舞の評価を下げるといったものだ。
601 名無しのアイドルオタクさん 08:11
>>600
kwsk
602 名無しのアイドルオタクさん 09:11
>>600
もったいぶらずに言えよカス
といった内容のレスが数件続いていた。今日は土曜で休みということもあるのだが、それでも何人か見てくれている人がいたことに嬉しくなった。
俺は取りあえず変にスレが荒れないように
609 名無しのアイドルオタクさん 14:11
みんな落ち着けって。どうせ嘘かなりすましだろう。ほっとけ
と、書いた。するとすぐに返信が帰ってきた。
610 名無しのアイドルオタクさん 14:13
>>609
はあ? お前に用があるんだよ。いつもの場所でな
俺は驚いた。こんなに早くレスが帰ってくるのは以前でも無かった。そして一つの謎が。
「てか、いつもの場所ってどこだ?」
いつもと言えばこのスレになるのだが、あいにくヒントになるような物は一つもない。確認をこめてメール欄をクリックしてみた。『sage』と出てきた。別に何ら不思議ではない。
このスレを上から順番に見直してみた。一つ一つ丁寧に。ほとんど俺のコメントだったので簡単な作業だ。
縦読み、斜め読みといった高度な技法がある。無駄に長文を書いて縦に読んでみると意味が分かるやつだ。俺はまばたきも忘れるぐらいに集中して探してみた。
しかし何も分からない。手掛かりすらない……。
ふと現実に帰ると、首が痛くなっていた。、無理な体勢が続いていたようだ。集中してパソコンをやったことなどほとんどないというのに。
俺は後ろ髪を引っ張られる感覚にとらわれながらも、3chの掲示板を消した。
パソコンを消せば時間が分からなくなる、時計が無いからだ。ただ窓を見ると薄暗かったので家を出た。今日はパソコンの前にいたくない、そんな日だった。
外でダラダラと時間を過ごした。コンビニで立ち読みをして、遅くまでやっている本屋に行き、公園を歩いて、またコンビニで同じ雑誌を立ち読みをした。
帰りたくないと思った。俺は普段は極力外へ出たくないと思っているので、いかに異質な状態かが分かる。
ただ、コンビニから外を見ると……
「うわー……やばいな」
すでに不良達が場所を占拠しようとしていた。俺は目線を合わせないように早歩きで家まで帰った。
家に帰っても何もやる気がしない。ただ、脱力感だけが酷く残っている。
「こんな時は、日課をするかね」
ボタンを強めに押してパソコンを起動させた。画面が出る時間もイライラがつのる。
全ての起動処理が終わる前にスタートを押してインターネットを起動させた。そして3chへと入っていった。
結局、それ以降の書き込みは無かった。見ていても謎は分からないし、そもそもイタズラの可能性が高い。イライラが余計につのる。俺はすぐにサイトを消した。
次にブログを見た。相変わらず更新は無くて変わらないのだが、美しい装飾がされた舞のブログを見るだけで心が落ち着く。
しかし、一つ気になる点が。
「コメントが一つ増えてる……」
そう、数ヶ月もの間微動だにしなかったコメントが一つ増えていたのだ。3chの書き込みを思い出してみた。
『いつもの場所でな』
偶然か必然か、そういえばブログもいつもの場所だった。恐る恐るコメントを覗いてみる。
『お前の近くにあるデイリーズレストランがあるだろ、あそこで会うぞ。時間はお前が指定しろ』
「は?」
俺はあまり家を出ないからといって家の周りの店ぐらいはさすがに知っている。家から徒歩15分ぐらいの場所にデイリーズレストランは確かにある。
けれど……
「これ、信用出来るのか?」
まず何故俺の住所が分かっているのか、調べ方でもあるのだろうか。そしてなぜ俺と接触したいのか、オフ会のノリでも無さそうだ。
新手の詐欺か? ……しかし俺の知ってる中でこれに当てはまる詐欺は見当たらない。そもそも最近の詐欺の流行は会わずに騙し取るだ、顔を会わす事に利点がない。
やはりイタズラか……、それを確かめるためにも俺は一つ彼を試してみた。
『今すぐ会おう、それなら良いぞ』
本気で会うつもりは無いが、とりあえず彼がどれだけ早く返信してくるか見たかったのだ。
俺は飲み終わったペットボトル数本を洗面台に持って行き、水で綺麗に洗い流して捨てた。この間約10分といったところか。
ブログを更新してみた。別にコメントを期待していた訳じゃない。日課のアクセス数稼ぎをするためだ。
一応念のため、再びコメントを覗いてみた。
「一つ増えてる……」
どうやら相手は本気なようだ。確認すると彼の書き込みだった。
『分かった、待ってる』
俺は頭を抱えた。……めんどくさい展開になってしまったなぁと。
無視するという手もある。というかそれが一番無難だろう。引きこもりの俺が見知らぬ人と会うのも辛い。
ただ、やはり一つだけ気になっている事があった。舞の現在である。別に神である彼女に心配まではしていないが、何をしているのかは少し気になる。
俺は意を決して、夜にも関わらず帽子を深く被って外に出た。