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私は、親友の逆ハーフラグをへし折ろうと思います。  作者: 義已暁
木瀬叶歌が暗躍する体育祭前夜。
22/23

生徒会には私の椅子はありません。

 前回の続きです。叶歌視点のお話になります。


 では、どぞ。

 もう一度、言おう。


 玲二の、膝の上に座っている木瀬叶歌。――――である。


「何です、叶歌」

 副会長は叶歌の頭をひと撫でして柔らかく笑った。穏やか過ぎて逆に、とても薄気味悪かった。

「なあに、叶」

 会長は顎に手を遣りながら蕩けるような笑みを浮かべていた。とても神々しかった。

「どうしたの~? かぁちー」

 竹岡さんは気の抜けた声で首を傾げていた。食べカスを頬に付けた顔は、とても頼りにはなりそうもなかった。

「うるせぇな、木瀬」

 今井戸は視線すら合わせず舌打ちした。ムカついた。後で、今井戸殴る。

「あ、大人しくしていてくれますか? 木瀬先輩」

 田中君は邪魔そうにこちらをチラ見して、自分の仕事を続けていた。とても腹立たしかった。


「おい、てめえら揃いも揃って無視かっ。無視なのかっ!! 田中クンに至っては、この苦行を続けろとのたまうかっ!」


 ギャースと喚いて暴れた私に、田中君は首を傾げてきょとんと返事をする。

「先輩の椅子は無いですから。お茶は出しましたよね? 会長の朝摘みダージリン」

「座り心地が最悪だよっ!! 美味しいけどもっ」

 机に拳を叩き付けて溢れんばかりの気持ちを訴えれば、背中から這いずる様な悪寒が迫って来る。


「ほう……?」


「ひぃぃぃぃっ!? 副会長、腹をっ、お腹を撫でないで下さいぃぃぃっ」

 玲二は膝の上の叶歌をぎゅっと抱くと、お腹を撫でて耳元で不穏な声を漏らした。

 怖い怖い怖いって!!

「私の膝が不服だと」

「抓ってる、抓ってますっ。ひぎゃあああっ! お肉を捻らないでぇぇっ!!」

 更に、叶歌のお腹を抓りながらキラキラの笑顔で囁かれる。笑顔が恐ろしいと感じるのは、気の所為ですよね?

「叶歌? 何度も言ってるでしょう? 玲二先輩、と」

「申し訳ありませんでした。大変素晴らしいお膝の座り心地であります。…………玲二せん、ぱい」


 はい、気の所為じゃありませんでしたねー。うん、分かってた。


 私の精神はえらい勢いでガリガリ削られていった。せめてものささやかな抵抗として、副会長から身体を目一杯離して机の脚にしがみ付く。その様子を今井戸が妬ましげに睨んでいる。

「木瀬ぇ……」

「何羨ましそうに見てんだ、今井戸ォォ。その緩んだ顔はホモか、顔崩れてるからねっ!!」

 隣の熱視線を、私はうっとうしそうに手で払った。そんなに羨ましいなら、変わっておくれよっコンチクショウ!!

「うるせぇっ! 碌に仕事もしない奴が副会長に立て突くんじゃねえっ」


 そうは言うが、元々この会議に叶歌は全く関係無い。叶歌は役員では無いのだから。


「あ、副会長。この書類確認お願いします」

 二人の言い合いを丸無視して、田中は席を立って玲二に書類を手渡した。

「分かりました」

 玲二の方も特に気にした素振りも無く、叶歌の頭の上で書類を受け取った。

「ゴラ。田中くぅん……? 人の頭の上でさらっと話を進めるんじゃないよ」

 叶歌が上目遣いで恨めしげに睨めば、田中はしれっと首を振る。

「あ、先輩は見る必要ありませんから」

「何ちょっと親切に言った風に、人の事蔑んでんだ」

 口を尖らせた叶歌に、田中は可愛らしく小首を傾げてイイ笑顔を返した。


「――――気付きました?」


 叶歌はこめかみを引き攣らせた。

「流石に気付くわっ!?」

 まったく、ふてぶてしい後輩である。



「漫才だねぇ」

 しみじみと向かいから眺める竹岡さんに、私は懇願する。

「ちょおっ、助けてはくれないの?! 竹岡さんっ」

「え、副ちょーの顔見てみ?」

 笑みを浮かべて指差される通りに振り向けば、眩い王子様スマイルが無言で魔王を背負っていた。

 笑顔なのに背景が真っ黒である。ゴゴゴと何やら不穏な影すら見えて来る。

「……ですよね」

 がっくりと肩を落として項垂れた私に、竹岡さんは両手を合わせて舌を出して謝った。

「命が惜しいんで、諦めてね。かぁちー☆」

「良い笑顔だっ?!」

 悪気の無い謝罪に叶歌は今度こそ崩れ落ちる。


「あんた達、好い加減になさい」


 叶歌の背に向けて鋭い視線を向けた玲奈に、玲二は叶歌を抱く腕を強めた。

「姉さん」

 副会長はむっとして、私を抱き締めている。やめてー、耳に息掛かってるぅぅ!?

「玲二、叶を渡しなさい」

「嫌です」


「……玲二。だ・し・な・さ・い」


 指示棒でバチンと、机を叩く。玲二は溜息ひとつ落として、叶歌を膝から下ろした。

「――――――――分かりましたよ」

 その長い溜めは、不服を表している。ほっんとーに渋々、渋々だ。ほっとしたのもつかの間、私はヒョイと会長に抱えられる。会長、意外に力持ちですね。

「ああん、大丈夫だった? 玲二の硬っい膝より私の膝の方が良いわよね~?」

 そのまま、自然な流れで玲奈の膝に座らされた叶歌は、玲奈に頬ずりされたのだった。

「あの、地面に降り立ちたいです。会長」

 私は疲れた声で、懇願した。


「ね?」


 無言の圧力に屈した叶歌は、玲奈の膝でぐったりしながら、抱き人形と化した。

 会長コワイ。コレ逆らったら駄目なやつだ、絶対。

「ワーイ、カイチョウノヒザ、ヤワラカクテキモチイイナァー。ココロナシカ、イイニオイモスルヨー」

 吐き出された言葉は、顎をカクカクと動かして棒読みだった。

 三人の役員は、叶歌に哀れな視線を送った。

(目が死んでるな)

(死んでますね)

(ご臨終~)

 痛まし過ぎて、大変不満である。


「会長には、流石に手を出せないよね……」

 叶歌は遠い目をして、小さな声でいじける。聞き咎めた玲二は真顔で指摘した。

「叶歌、聞こえてますから」

「あっヤベ」

 冷や汗を掻いている叶歌をぎゅっと抱き締め、勿論ちゃんと聞こえていた玲奈は、唇を引き上げて笑った。


「ふふふ、ほっんと可愛いわぁ。叶は」



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