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私は、親友の逆ハーフラグをへし折ろうと思います。  作者: 義已暁
木瀬叶歌が暗躍する体育祭前夜。
21/23

生徒会はお仕事中です。

 お待たせしました。新章が始まりました!!

 二十一話からは、『体育祭編』です。


 では、どぞ。

 その会議は、生徒会役員室で行われた。


 ホワイトボードの前に立った生徒会・会長金子玲奈(かねこれいな)は、指示棒を鞭の様にしならせ、パチンと掌の上で弾いた。

「さて、GW明けで脳味噌腐り切っている脳筋共を喜ばせる、イベントが間近に迫っている訳なのだけど。……今年の種目はどうなっているのかしら?」

 それに生徒会・庶務の一年生田中一誠(たなかいっせい)が声を上げた。真っ黒な髪をおかっぱに切り揃えた、真面目そうな眼鏡男子である。

「例年通りに種目の変更はありません。ただ、応援団は『雪月花』になぞられて、雪組・月組・花組の三組になりました」

 田中から種目の書かれたプリントを受け取った、生徒会・書記の二年生竹岡姫果(たけおかひめか)は、ホワイトボードに羅列した競技名を手元のノートに書き留めた。書道家の彼女が書く文字は、かっちりとした角張ったもので、普段の彼女からは想像出来ない実直な字だった。


 100m走 男子・女子

 200m走 男子・女子

 400m走 男子・女子

 400mリレー 男子・女子

 クラブ対抗400m障害物リレー

 障害物競争 男子・女子

 借り物競走 男子・女子

 男女混合二人三脚競争

 クラス対抗玉拾い

 クラス対抗綱引き

 クラス対抗騎馬戦 男子

 クラス対抗応援合戦 女子

 クラス対抗(やぐら)競争 担任教師


 静かに耳を傾けていた生徒会・副会長金子玲二(かねこれいじ)は、ボードを斜め読みしながら視線を会長に移した。机の上のノートパソコンを弄りながら、その怜悧な瞳が同じ顔の姉を眺めている。

 まさしく見紛うばかりの貴公子は、涼やかな声で玲奈に告げた。

「今年は組み分けが三つ。1年から3年までを1組・2組・3組で縦割りに分ける事になっています。……既に、去年の内に先生方に頼んでクラスごとの戦力の均衡を考えて、生徒を組み分けて貰っています。1年以外はどの組も運動部文化部バランス良く布陣していますね」

 玲奈は弟で副会長である玲二と視線を合わせて、満足げに頷いた。

「ご苦労様、玲二。去年はくじ引きによる4組分けだったから、戦力に差が出たけれど、今回はそうはならない筈よ。最後までそれなりに盛り上がりそうね」


 時は、GW明けの週末。直ぐ側まで迫っている体育祭の為の会議が行われていた。各々の机の上にはそれぞれ自分の仕事道具が置かれている。

 例えば、会長であれば各委員会からの報告書であったり、副会長であれば次の委員会の為の文書の草案とノートパソコンであったり、書記であれば議事録であったり、庶務であれば生徒会役員用の配布資料であったり、会計であれば予算案の表であったり、だ。


 生徒会・会計の今井戸翔(いまいどしょう)は材料費の領収書をまとめながら、玲奈に報告する。

「会長、現在の所、体育祭の準備は前倒しで進んでます。入退場門と櫓も、組立前で完成してるっす」

 それを横目に竹岡は、シャープペンシルを握りながらシュバッと手を挙げる。視線は、向かいの玲二に向けキラキラと輝いていた。

「あの~、副ちょー! 景品は今年何になるんですかぁ~?」

「優勝組には食堂の食券と、半年の購買割引パスの支給ですね。クラブ対抗の方は、今年は1位の部に部費一万円追加支給です」

 竹岡は玲二の言葉に眉を顰めて不満そうに唸る。

「むむむ、去年は二万円でしたよねぇ。しょっぱい」

「今年は組み分けが三つだから、人数多い分優勝景品にお金が掛かってるのよ。文句言わないっ!」

 それに玲奈は目の前の竹岡の頭を指示棒ではたく。

「あてっ!」

 二人のじゃれあいを淡々と無視した田中は、紅茶を啜りながら胡乱な表情で手元の資料を眺めていた。

「同好会も参加出来るんですね。運動部20、文化部12、同好会8、合計40部ですか。この……ファンクラブって有りなんですか?」

 田中の指摘に、今井戸は唸り声を上げて領収書を握り締めた。

「あの馬鹿木瀬ぇ~……」

 ファンクラブの中にはちゃっかり『滝沢三崎を鋭意守る会』なるものが紛れ込んでいた。叶歌が早速作った三崎のファンクラブだ。

 優雅に紅茶を飲む玲二は、それにしれっと答えた。

「有りですよ。姉さんのファンクラブも去年出てましたよね?」

「玲二のもあったじゃない」

 お互いに校内では指折りの美男美女兄弟と名高い二人には一年の頃からファンクラブがあった。幾つかのそれは派閥ごとに分離したり消滅したりで、現在は各一つに落ち着いていた。

 ちなみに生き残った二人のファンクラブは、『女王様に罵られ隊』と『王子様の氷の瞳を溶かし隊』と言う残念ネームである。

「興味無いんで」

 姉の指摘にも、玲二は眉一つ動かさず静かに紅茶を啜る。

 生徒会に高級な茶器が備え付けられているのは、全て玲奈の私物である。余談だが、紅茶を淹れたのは今井戸であった。


「去年も思ったけどさぁ~、この櫓競争って鬼畜だよねぇ。松葉センセちびってたじゃん」

 竹岡は種目表のプリントを揺らして呆れた声を出す。机の上に上半身をだらりと凭れさせ、斜め向かいの同学年を見遣った。茶菓子の鳩サ〇レをくわえて、既に休憩の体勢である。

「おい、言ってやるなよ……。黒歴史なんだからさ」

 視線を受けて今井戸は嘆息する。

 毎年の事ながら櫓競争を受け持つのはその年の担任教師だけなので、一学年三クラス、合計九人の教師が櫓の上で括り付けられる羽目になる。苦情は多いが『伝統』の二文字で片付けられる鬼畜競技であった。


「――――話進めますよ。次の部会で、追加支給の部費の話はします。各体育委員・保健委員・清掃委員・放送委員と、風紀委員・クラス委員は委員会集会にて当日の役割決めの話し合いを」

 玲二の言葉で、雑談から会議の話に戻る。

「了解ですっ! 帰りに職員室に寄って、クラスごとの競技参加者決めのプリントを、明日のLHRで回して貰えるよう用意して置きますねっ!!」

 それに今井戸は眼を輝かせて握り拳を作った。

「刷りミスりするんじゃ無いわよ、翔。生徒会予算もタダじゃないんだから」

「っす」

 玲奈の睨みに今井戸は短く返事した。既に彼は、小間使い扱いが板に付いている。


「あのぅ~……」


 向かいから聞こえる少女の声を無視して、竹岡は身体を起こして議事録をまとめながら玲奈に声を掛けた。

「会ちょー、来賓者の名簿いつ届きます~? 仕事もあるんで、ささっと書きたいんですけど」

「二・三日中には届くでしょ。翔、ついでに教頭に聞いて来て頂戴」

 雑用を押し付けられた今井戸は、コピー機の前で複雑そうな表情をした。

「え。俺、あんま印象良くないんすけど……」

「ああ、備品の購入費の領収書も渡して置いて下さいね、今井戸」

 しかし、玲二の無言の微笑みで一も二も無く頷いた。

「っはいっ!! 副会長の頼みなら喜んでっ!」


「あのぉっ?!!」


 全く会話に混じらせて貰えず少女は大声を上げた。そこでようやく役員達はピタリと作業を止め、玲二の膝の上に座っている涙目の木瀬叶歌(きせかのか)を見遣ったのだった。



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