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私は、親友の逆ハーフラグをへし折ろうと思います。  作者: 義已暁
滝沢三崎が危惧する放課後の出来事

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17/23

俺の幼馴染は鉄砲玉です。

 お待たせしました。今月中に更新出来て良かったぁーっ!!

 という事で、塔太君の組手後のお話です。


 では、どぞ。

 俺は額に張り付いた汗を拭いながら叶歌さんの後ろ姿を見送った。周りでは多良木部長を始め、空手部の先輩達がワラワラと群がって来ていた。

「いいなぁ~、佐々。俺も姐さんに蹴られたかったっ!!」

「そうだ! 羨ましいぞっこの野郎っ!」

 肩を小突きながら不満を漏らす先輩達に、俺は苦笑する。

「なんですか? その姐さん呼びは……」

「僕等みんな、木瀬ちゃんのファンだからね~」

 多良木部長はのんびりとした声でそう答えた。


 確かに、中学時代の叶歌さんは、俺でも知っている有名人だ。でもそれより、いつも姉に会いに家に来るどこか抜けている彼女に憧れて、この学校に入学して来た実感が、胸の内からふつふつと沸いていた。

(やっと、同じ土俵に立てた)

 彼女にとって俺は、あくまで姉の『弟』で。所詮は付属品程度の交友関係でしかない。

 密かに募った初恋は、俺に空手への興味を抱かせ。彼女に相応しい男となる為に、中途で入った中三最後の大会で推薦を貰える程の結果を残す事が出来た。


 他人は俺を天才だと言うけど、それは間違いだ。ただ追い付きたくて、がむしゃらだっただけの事。


「まだ、やっぱ勝てないですよね……」

 肩を落として項垂れた俺に、部長は緩い笑みを浮かべた。

「ははは、ウチの部で木瀬ちゃんに勝てる子なんていないよ。佐々君は僕らよりかはやれてる方だと思うけどねぇ。そうだなぁ……多分わっくんぐらいじゃない? 現状互角なのって」

「わっくん?」

 親しげなあだ名に俺は首を傾げた。

「柔道部の部長だよ。三年の湧井清澄(わくいきよすみ)。木瀬ちゃんの道場の兄弟子で、幼馴染の」

 事も無げに言われた言葉に俺は目を見開いた。まさか、ライバルが同じ部に居ないなんて。てっきりウチの部に叶歌さんより強い人が居るものだと思っていたのに。いつか、彼女より強くなって、想いを伝える。それがこの学校に入学した一番の動機だった。

「想定外だ」

「ま、君はウチの部の有望株だから、きっちり練習付き合ってあげるから、早く強くなってね」

 どこか期待する眼差しで見つめられ、俺は後退さった。

「は、はあ……」

「さっきの拳。中々良かったからなぁ~。お腹とかめり込むの楽しみだなぁ」

 頬を染める部長から目を逸らすと、ついさっき叶歌さんが帰った戸が勢い良く開かれ、怒声が響き渡る。

「塔太ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 聞き慣れた騒音に耳を塞ぐ。入口から現れた女生徒の姿に、俺は顔を顰めた。

「……芹」

「どういう事よっ?! 私に内緒で空手部に入るなんてっ」

「煩いし、わざわざお前に何で言わなきゃならない訳?」

 土足のまま俺の側に詰め寄って来たそいつを、鬱陶しそうに見下ろした。


 高良芹(こうらせり)。俺の幼馴染で、家も隣の腐れ縁。癖毛のショートボブを揺らしたごく一般的な女子高生。気が強くて、子犬みたいにキャンキャン煩い小姑みたいな奴だ。


「だって、折角一緒の高校なのに。なんで吹奏楽部に入らないの? よりにもよって、空手部なんかに入って、指でも怪我したらどうするのよ!」

 俺は道場の床が靴跡で汚れたのを見て不快感を露わにした。流石に俺の表情の変化に気付いた芹はびくりと肩を震わせた。

「出てけよ。お前が何部に入ろうが別にいいけどさ。土足で入ってきて謝りもせず、空手部馬鹿して、一体何様な訳?」

「ひっ、……だ、だってピアノ。指怪我し……弾けな……なくなっちゃう、じゃ」

 目尻に涙を浮かべた芹に冷たい視線を送ると、ひぐっひぐ、と嗚咽が漏れ出して来る。俺は唇を震わせた芹にタオルを投げた。

「いいから帰れよ。顔もみたくねーって言われたいの?」

 俺の言葉に今度こそ決壊した涙をタオルで隠して、芹は逃げ出した。

「馬鹿ぁぁぁっ!! 塔太なんて大っ嫌いっ!」

 行きと同じく勢い良く戸を閉めた芹。バァンッ!! と音が反響して床が揺れた。ギィギィと僅かに揺れて収まった戸を確認すると、俺は部長に振り向いた。

「すいません。責任持って俺が床拭きするんで」

「あ、うんそれはいいんだけど。い、いいの? あの子あのまま帰しちゃって……」

 何故かオロオロと困惑した表情で俺を見下ろす部長。それに先輩達も青褪めて固まっていた。

「あ、大丈夫です。あいつ去年もこんな感じだったんで。頭も鳥並みですから、また暫くしたらコロッと忘れて同じ事仕出かすんで、早めに躾けとかないと」

 何遍言っても同じような馬鹿するんだよな、あいつ。普段は普通なのに、頭に血が上ると猪みたいに突っ込んできやがる。泣いて逃げ出す内はまだいい。開き直ると俺じゃなく周りに迷惑振り撒くから、釘を刺しとかないと……。

 考え込みながら独り言を呟いた塔太の後ろで、多良木部長は何とも複雑な表情をした。

「う~ん、佐々君はSなのかな。それはそれで美味しいような、そうでもないような……」


「「「くっ、姐さんに蹴られて嬉しそうだったから、同士だと思ったのにっ!!」」」


 叶歌さんとの組手を思い出しながら、鼻歌交じりに雑巾掛けする俺を見て、先輩達は男泣きをしていたとか。

 

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