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私は、親友の逆ハーフラグをへし折ろうと思います。  作者: 義已暁
木瀬叶歌が遭遇する午後の授業のなれ果て

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15/23

私の後輩は知り合いらしいです。

 お待たせしました。十五話更新です。


 今回は叶歌視点で、空手部の後輩君のお話です。



 では、どぞ。

「おばんですー」

「まだ昼過ぎですけど」

 陽気な声で図書棟の扉を開けた叶歌に、ししょーの的確な突っ込みが返って来る。

 いつものやり取りに眼鏡の縁を直した司書の小暮は目元を綻ばせて笑った。

「お待ちしていましたよ。おや? 大人数ですね」

 そう言って叶歌の後ろの二人を見ると、少しだけ驚いた顔をする。ししょー、ぷりちー。いやいやそれは今は関係ないや。

「こっちが大・親友の滝川三崎ちゃんですっ!!」

 私が大きく手を広げて三崎を見せびらかすと、ししょーは瞬きを繰り返して小さく頷いた。

「ようこそ、図書棟へ。お茶でも飲まれますか?」

 ししょーの誘いは大変光栄だけれども、用事が詰まっているので、私は掌を前に突き出してそれを制した。

「いやぁ、しばきたいのは山々ですが、実は空手部の方に呼び出し喰らってて。三崎と友子も見学組なんで、顔出しだけしに来たんです」

「おや、それは残念。では又の機会ですね」

 然程残念そうでもない返答が返ってきて、私は振り向いて三崎の肩に両手を置いた。

「三崎」

「え、何? 叶ちゃん」

 ずいと顔を寄せられて戸惑った顔の三崎も美人です。私は構わず畳み掛けた。

「怖いお姉さま方に呼び出されたり、苛められたり、いやらしい男子に声を掛けられたりしたら、迷わず、直ぐにここに逃げるんだよっ」

 三崎の肩を揺らしながら私は、鼻息荒く叫んだ。

「ここは中立地帯。頻繁に先生の居ない保健室より、朝から終礼まで必ずししょーが居るここの方が安全だからね。騒がしい奴らは締め出してくれるしっ」

「騒がしい叶歌ちゃんは締め出されないの?」

 友子の素朴な疑問に、私はぎっと視線を向ける。

「ここで騒がしくした事なんか無いってばっ!!」

 ししょーの冷めた視線が背中にビシビシ伝わってきます。

 ちょ、ちょっと待ってししょー。直ぐ、直ぐ出てくからっ。ちょっとだけ勘弁して下さいっ。

 無言で頭を下げた三崎に、ししょーは目を丸くしてそれから笑みを零した。

「いえ、とても面白そうなので、構いませんよ」

 そ・れ・は・どういう意味ですかっ?! 黒い、黒いよししょーの考えてる事。

「木瀬さん?」

「はうっ?! 何でもないですぅぅ。ししょー、さよーならっ」

 何となく変な勘が働いて、私は三崎と友子の腕を掴むと、脱兎の如く逃げ出した。



「ぐれ先生は相変わらずショタ系だね」

「友子やい、キミは本当にブレないね……」

 道場までの道すがらで、友子は相変わらず妄想に顔を緩ませている。それに疲れた顔を向けながら、私は道場の戸を引いた。

「たのもー」

 全くやる気の無い声と共に、ガラリと引き戸を開けると、むわぁ……と男臭い臭いが充満する。三崎も思わず眉を顰める代物だ。

「「「お待ちしてましたっ姐さんっ」」」

「たわけがぁっ!!!」

 ざっと私の前に駆け寄って来た男連中に、思わず回し蹴りを繰り出してしまう。だって気色悪いんだもん。

「おぶぅっ……。はぁはぁ、相変わらず良い蹴りですっ」

 何でそんな良い笑顔で親指立ててるのよっ。鼻血、鼻血流れてるからっ。

「先輩達、私より年上でしょっ?! いい加減『姐さん』呼び止めてよ」

「あ~、来てくれたんだねぇ、木瀬ちゃ~ん」

 肩で息を切らせて、声を荒げた私に間延びした声で制止が掛かる。ええい、止めてくれるな部長。

「はぁ、癪ですけど。約束ですから」

「うんうん、わざわざごめんね~」

 そう言って、私に道着を手渡した多良木部長は、締りの無い顔でニコニコとしている。……何でだろう、この顔見てると殴りたくなって来るのは。会長の気持ちが分かっちゃうわぁ……。

 遠い目をした私を余所に、部長の背中からぴょこんと小柄な身体が現れる。


 短く切り揃えた短髪に、勝気そうな大きな目。私と同じか、少し低い身長の男子生徒は、まばゆい笑顔を向けて来る。


「叶歌さんっお久しぶりです!」

 元気一杯に声を掛けて来る少年に、私は首を傾げる。はて? 知らない子だな。

「誰?」

 疑問をそのまま口に出した私に、少年は驚愕の表情を浮かべた。

「塔太ですよっ。先週も挨拶したじゃないですか」

「先週? え~うちの道場の子じゃないでしょ。知らないよ」

 何かちらっと見た事はある顔なんだけどなぁ。思い当たらないなぁ。

 そんな私に業を煮やした後輩は声を荒げた。

佐々塔太(ささとうた)です。真城姉の弟のっ! 先週家の玄関先で挨拶しましたよねっ?!」

 おおっ、そうだ。思い出したよ。真城先輩に似てるんだ。


 成程、弟君ね~。宝英(うち)に入学して来たんだ。


 合点がいってぽんと掌を叩いた。

「ああ、とうたんじゃん。空手習ってたの? 何か思いもしない所に居るもんだから気付かなかったよ~」

「先輩……」

 呆れた顔でこちらを見て来る。おい、何だその顔。潰されてぇのか。……真城先輩の弟だから、我慢するけど。


 佐々塔太。去年からずっとお世話になっている真城先輩の弟。料理部に顔を出してはお菓子で餌付けされた身だけれど、お家にまで招待して貰ってなんやかんや仲良くしている愛すべき先輩の、弟君。

 正直、家で鉢合わせた時に挨拶するぐらいで印象無いんだけどなぁ。真城先輩が呼んでるもんだから、大して面識無いけど『とうたん』と呼んでいる。そう呼ぶといつも嫌そうにするのが可愛いらしい。


 うん、良く分からん。


 兎も角とうたんが、部長の言う私と対戦しないと入部しないとのたまっている『有望な後輩』なんだね。了解了解。

「おうおう、とうたんの癖に生意気じゃないの。いっちょ揉んであげるよ」

「認識した途端に、酷い扱いになった!」

「じゃあ、もう始めても良いかな? 良いよね~?」

 中々突っ込み気質なとうたんを無視して、部長は手を上げた。

「大丈夫、痛くしないよ~」

 手首を揺らして準備運動を始めた私に、外野から声援が上がる。

「叶ちゃん頑張って」

「叶歌ちゃん、くんずほぐれずをヨロシク!!」

 三崎、頑張るよ。友子、何を期待してるんだい?

「じゃ、ちゃっちゃと終わらせますかー」

 道着の襟を整えて、前を見据える。ふふん、お手並み拝見だね。

「どっからでも、どうぞ?」

 挑発的に顎をしゃくれば、とうたんの瞳に獰猛な色が宿る。おお、血気盛んじゃん。


「始め~」


 部長の気の抜けた合図で戦いの火蓋は切って落とされたのだった。なんてね。



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