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私は、親友の逆ハーフラグをへし折ろうと思います。  作者: 義已暁
木瀬叶歌が遭遇する午後の授業のなれ果て
13/23

私の後ろのセンパイは無視する方向でお願いします。

 叶歌視点で、午後のお話です。二話で出て来たあのキャラが登場します。


 では、どぞ。

 午後の7・8限目。特別補講室には、実に様々な生徒が席に付いていた。


 上は卒業単位を落とした、これまた筋金入りのお馬鹿である留年生の補講から、下は提出物を忘れた一年生が、必死に課題を終わらせるまで。まあ、多少の違いはあるけれど、要は残念な生徒の集まりなのである。

 優秀な生徒が自習として利用するのは、ごく稀だ。それこそテスト期間位なもの。

 色々な事情の生徒が、学年を越えて思い思いにそれぞれやるべき事をこなす。それが、この特別補講時間なのだ。


 ――――そんな中、反省文を書かされている叶歌の背中に、恨みがましい視線がひしひしと当たっていた。


(嫌ぁ~な感じ)


 私はひくりと口元を歪ませ、恐る恐る振り返った。

 教卓の前というアリーナ席の私とは反対に、一番後ろの席でじとりと黒い靄を生み出しながら睨み付けて来る、大人げない先輩の姿を視界に入れると、私は盛大に溜息を吐いた。

「はぁ……何ですか? 貴礼(きれい)センパイ」

「なんだじゃねぇよ。叶歌、お前何でいねぇんだよ。もう放課後じゃねえか」


 不貞腐れた顔で机に顎を乗せてこちらを見ているのは、巷で言う所のお馬鹿な留年生、豊永貴礼(とよながきれい)先輩である。真に不本意ながら私の大先輩に当たる人だ。


 センパイは私に向けてぶつくさと『朝から捜してんのに、全然遭遇しやがらねえ……』と呪詛の如く悪態を吐く。それに呆れて、私は胡乱な視線を後ろの席に送った。

「知りませんよぉ。私はいつも通り特に変な所に言った覚えはないんですけど」

「……道場行ったら、入れ違いだった。図書棟行ったら、雑用くれ先生に押し付けられた。お前の所為だ」

 全く関係の無い責任を押し付けてくるセンパイに、私は眉を下げた。


「ああ~、それはご愁傷様。私としてはラッキーでしたね」


「お前っ、ふざけんなよ! 今日は絶対生徒会で、滅茶苦茶に扱き使ってやるからなっ!!」

 ズカズカと私の傍までやって来たセンパイは、私の頭を乱暴に掻き混ぜた。おい、髪の毛ボサボサにすんじゃねえよと、私は内心舌打ちしつつ睨み付けてから、鼻で笑ってやる。

「はっはー、残念でしたっ。今日は部活に出るので雑用はお休みで~す」

「なにぃっ?!」

 声を上げて叫んだセンパイを余所に、私はにやにやと笑みを返す。まったく、毎回要らない雑用押し付けられたくないからねぇ。偶然だけどタイミング良いや。

「もう、本当に申し訳ないですぅ。貴礼センパイはご自分でお仕事されたらどうですかぁ?」

 微塵も悪いとは思ってないけど、私がそう言うと、センパイはぎゅっと顔を顰めた。へんっ、そう何度も扱き使われるもんですかい。

「気っ色悪い声出してんじゃねえよ……。おっまえ本当可愛げねえなっ。ちっとは敬え、俺様を」

「ええ? センパイ、私に可愛げ求めてたんですか? そんなの尊敬して無いから、頑張ったって無理ですよ~」

 何処に敬う要素が有るのか、逆に聞きたい位だよ。大体、何でセンパイの尻拭いせにゃならんのか、疑問だし。


 私、特待生だけど別に余分に単位とか要らない。正直過剰労働なんですけど。


「ああもう……うぜえ」


 センパイの心の底からの呻き声に、それはこっちの台詞だよと冷めた目線を送りつつ、机の上の原稿に取り掛かる。いけないいけない、留年生にかまけている暇は無いんだった。まだ三枚しか書けてないよ、後七枚頑張るぞ、お~っ!!

 私は拳を握って気合を入れ直したのだった。



「叶歌ちゃん、後どれ位掛かる?」

 しばらくして、隣から私の二の腕にシャープペンシルをつんつんしてくるのは、体育を見学したためレポートを書いていた友子の声だ。それに私は首を捻って唸った。

「ううーん、三十分位かなぁ。友子書き終わった?」

「まあね。でも授業時間一杯まで居ないと単位貰えないから本でも読んでるね」

 そう言って友子は隣の席で、薄い本をくふくふ笑いながら読み始めた。監督教諭のド真ん前で、良くその本が読めるね……。ある意味尊敬するよ。


「お前達ー、結構煩いよ。眠れない」


 先生は閉じていた瞼をうっすら開けて、私達に視線をやった。いや、寝てないでちゃんと監督してて下さい。

「先生、正当防衛は適用されると思うので、あと二枚で終わって良いですか~」

 私がそう言って手を挙げると、先生は首を鳴らしながら溜息を吐く。

「お前のは、過剰防衛に当たるので、反省文は十枚で変更無し。先生は悲しいよ、木瀬のお転婆がちっとも直らなくて。いい加減男子を蹴り倒すのは止めなさい」

 泣き真似をする先生に、私は肩を竦めて首を傾げた。

「心外だなぁ。お転婆じゃなくて、私のは天下無双だと自分では思うんだけど……」


「……なお、悪いわ」


 『胸を張るんじゃありません』と突っ込んでから、先生はがっくりと頭を抱えて教卓に潰れたのだった。


 先生、それはウチのスカウトシステムが問題なんですよ。私は何も悪くない。だって、ほら。後ろにも問題児は居るじゃないですか。そう心の中で呟きながら私は、センパイに半眼で視線を送った。

「お前は本当に、猪みてぇだな。清澄はなんでこんなのを……」

 わざと聞こえる様にされた呟きに、さすがの私もムッと、眉を顰める。

「貴礼センパイには言われたくないですぅ。柔道部のスポーツ推薦のくせして、全国大会前にバイクで事故って半年も休学するお馬鹿な先輩には言われたくないですぅ」

 ぶーぶー文句を言ってやれば、先生からの援護射撃がセンパイの胸に突き刺さる。

「まーなぁ、豊永も大概だな。休学明けたら三年は引退。その後のリハビリやらで単位は足らないし、その上グレるもんだから留年なんかしちゃって……。お前、室長に感謝しなさいよ。補講で単位貰うだけじゃ評価点あげられないんですからね」

 釘を差されてセンパイはぐっと喉を詰まらせた。

 分かったら大人しく自分で雑用して下さいね~、巻き込まれるのは真っ平御免だよ。生徒会は鬼門なんだよ、私には。あんまりパシらないで頂きたい。



 そんな風に実の成らない話に花を咲かせていたら、突然後ろでガタリと椅子が倒れる音がして、ぎょっとする。

「せんせ~、出来たよっ!! 傑作っ」

「ああ、竹岡悪いね。任せてしまって」

 顔に墨を付けて満面の笑みを浮かべながら、半紙を掲げる同じ特待生である竹岡さんに、私はほのぼのとした気分になる。


「平和だな~」


 三崎を待たせてるし、部長も煩いから早く終わらせてしまおう。

 私はおざなりになったままの原稿用紙に、文面だけは反省の色が見えるようにマス目を埋めつつ、乱れた髪を片手で撫でつけた。


 まったく、センパイにはちょっとは女の子の扱いってものを会得して欲しいものだ。



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