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私は、親友の逆ハーフラグをへし折ろうと思います。  作者: 義已暁
木瀬叶歌が遭遇する午後の授業のなれ果て
11/23

私と先輩を一緒にしないで頂きたい。

 叶歌編に戻ってきました。引き続きお昼で皆と話しています。


 では、どぞ。

 多良木部長は朗らかに手を振りながら、走り去る。

「じゃあね、ちゃんと部活来てね~!!」


 多良木部長を追い返して、カフェテラスにようやく落ち着いた空気が戻る。


 私のお昼はお弁当だ。


 東っちは和風定食で、由美香はAランチ。後から合流した友子はレバニラ炒めと炒飯のセット。私の親友、三崎はサンドイッチセットだ。少食だなぁ。

「三崎、放課後一緒に図書棟行こう? 会わせたい人がいるんだ~」

「良いわよ」

「叶歌、小暮先生の邪魔するなよ」

 東っちの小言に私は口を尖らせた。

「挨拶するだけだって~。なんか結局部活出なきゃならなくなったし」

 いやまあ別に良いんだけどね、三崎に良いトコ見せたいし。でも……空手部苦手なんだよなぁ。


 私の家は代々続く空手道場で、今はじっちゃんが九代目の師範をやっている。その所為か、物心つく頃には私も空手を習っていて、自覚無しに強くなってしまった。中学の大会で数々の賞を総ナメしてしまった私は、じっちゃんから『素人さんとは、本気で戦ったらならんぞ』と厳戒令が下されてしまったのだ。


 高校では部活動をする心算は、初めから無かった。


 中学時代の戦歴の所為で、学校の宣伝になると特待生で呼ばれた私は、『空手家木瀬師範の秘蔵っ子』と言う看板を背負ってこの学校に入学したんだ。


「たまには相手してやらないと、教室まで詰め掛けて来かねないわよ?」

 由美香の物騒な推測に私は身震いする。

「やめてよ~。去年みたいな悪夢は見たくないって」

 そんな私を口説き落とした、もとい拝み倒したのが多良木部長だ。


 当時、一部員だった先輩は、私が入学してきたと聞きつけるや、空手部に勧誘してきた。


 毎日毎日。休み時間置きに現れ、初めは道場から禁止されているとやんわり断っていたのが、いつの間にか、蹴っても、殴っても、落としても、諦めないんだよ。

 その内なんだか変な性癖を開花させちゃったみたいで、鼻息荒くなってきた先輩に付き纏われるのに嫌気が差して、渋々入部届を出したんだ。

「っていうか、叶歌ちゃん。図書棟に何の用事? ぐれ先生が優しいからって長居しちゃ駄目だよ?」

 友子が小首を傾げて炒飯を掬ったスプーンを持つ手を止める。友子も割と図書棟には出没するので、私が司書室でお茶を頂いているのを知っているのだ。失礼な、別にお茶をたかりに行ってるんじゃないやい。――――それも多分にはあるけども。

「三崎の緊急避難先だよ~」

「避難先?」

 サンドイッチを飲み込んで、三崎が目を丸くしていた。私の得意げな表情に、由美香は半眼で眺めながら同意してきた。

「なるー。滝沢さんモロやっかまれそうな容姿だもんね」

「ふふふ。既にファンクラブも開設済みなのだよ、諸君」

「うわ、何親友のファンクラブとか創っちゃってんの、アンタッ!?」

 お茶を噴きかけて、涙目になりながら由美香は呆れた声を出す。

「……授業中に回っていた不可解なプリントは、それか」

 東っちは頭を抱えて溜息を零す。いやあ悪いねぇ。何度も手間を掛けさせて。


 授業中、クラスの男子に粗方回したからね。明日には、二年のクラスには回るでしょ。三崎はモテるから、変な事考える奴も当然出てくる。だからある程度、ご褒美をチラつかせて行動を誘導するのだ。事前にクラスと名前が分かっていれば、ブラックリストも作りやすいしね。

 三崎が可愛くて、モテるのは変えられない事実なんだから、予め起こりそうな問題に、手を回して置く位の予防策は打っておかなきゃ。そうじゃなきゃ私が片っ端から蹴っ飛ばさなきゃならなくなるし、学校でそれは流石に自重しないとね。(既に、数名三崎のクラスの男子を退治したのはカウント外である)


 機嫌良くお弁当を摘まむ私を、東っちと由美香が冷めた視線を送って来るが、いつもの事なので気にしな~い。


「職員室の窓から見えたけれど、図書室に丸々一棟使ってるなんて、相当な蔵書数なんでしょうね」

 三崎の女神スマイルをにやにや見ながら私は頷いた。

「近くの大学からわざわざ本を探しに来る人も居るらしいよ? 私も生徒会の雑用でたまにお手伝いするけど」

「へえ、それは興味深いわね」

 三崎の才色兼備っ!! 古びた本に囲まれた空間で静かに本を読む様が絵になるわぁ~。うん。絶対三崎も気に入る事間違いナシだよ。

「放課後連れてってあげるね。その後は道場行くけど……三崎見に来てくれるんだよね?」

 私はおずおず三崎の顔を窺った。うう、あの変態達の空間に一人は嫌だ。三崎が狙われる心配は無さそうだけど、私の精神に大ダメージが被る事確実なんだよう……。

「寮の荷物受け取らなくちゃならないから、最後までは無理だけど……。叶ちゃんが組手やってる所は見たいから、ちゃんと行くわよ?」

「良かったぁーっ!! ほんとっ良かった!!」

 私はぎゅっと三崎に抱き付いた。三崎だけが頼りだよ。東っちは科学部があるから初めから無理だし、由美香はいつも付いて来てくれないからなぁ。

「叶歌ちゃん、叶歌ちゃん」

「ん? 友子さんや、どうしたんだい?」

 私が小芝居しながら聞き返すと、友子はビュッと手を上げて目を輝かせた。

「はいっ! 飛び散る汗と、男達の肉体のぶつかり合いを、私も一緒にみたいですっ!!」

 わくわくと好奇心を漲らせる友子に、私は死んだ魚の目をして答えた。

「……気色悪い言い方しないでくれるかなー。――――良いよ、好きに付いてきたら」

「やった。お供しまっすっ」

「ああそうかい。友子には、変態ですら御馳走ですかい」

 やさぐれた空気を吐き出す私に、東っちは珍しく気遣わしげな視線をくれる。

「叶歌、現実逃避するな。これは日常だ」

「…………うん。うん。分かってた。ししょーで充電してくるから、大丈夫。うん、きっと大丈夫」

 成人男性とは思えないししょーの可愛らしさを見た後の、空手部員は……正直目を逸らしたくなる代物だけど。しょうがない。無いよりマシだ。

「賑やかで、楽しそうね。放課後楽しみだわ」

 口元を拭った三崎が、気にした様子も無く優雅に笑っているのを、由美香は唖然とした顔で見ていた。

「滝沢さん、パネェ……」

 ふふふ。三崎ってば、可愛いんだからっ! ――――はぁ、癒されるなぁ。

 何だかんだ言っても、楽しみではあるから、私は考えたく無い物を頭の隅に追いやり、へらりと笑い返したのだった。



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