1st Song †The One†
†The One (ただ一つの)†
「てめえ、調子のってんじゃねえ!!」
その言葉と共に繰り出される右ストレートを難無く交わし、俺はそいつの顔面に左回し蹴りを入れてやる。
何の問題もなく、そいつは3m先に吹っ飛ぶ。
「‥‥いきなりインネンつけてきやがって。」
吐き捨てる様に呟く。
言い忘れていたが、俺の名前は黒坂 剣。
まあ、不良というヤツだ。
見た目のせいか、さっきの様に知りもしないヤツに喧嘩を吹っ掛けられるコトなんて、日常茶飯事だ。
俺の“売られた喧嘩は買う”というのにも原因はあるが。
俺から喧嘩を吹っ掛けたり、手を出したりしたコトは一度もない。断言する。
延びてしまったそいつを放置し、20分遅れてしまった授業に向かった。
私立茴高校。
それが俺の通う学校だ。
教室のドアを開け(ドアが音を立てて外れてしまったので直したが、俺はがさつなだけで、悪気はない。)、自分の席に着く。
既に始まっている授業だったが、内容は理解出来た。
理解しているというのに、あいつは俺が授業に遅れたり来なかったりする度に自分のノートを俺に貸してくる。
今回もあいつは俺が来たのを確認すると、何かを投げて来た。
飛んで来た何かは、小さいメモだった。
メモには“また喧嘩したの?本当毎回飽きないね。”と、冗談混じりのコトが書かれていた。
あいつの名前は、曲白 結時。
3人いる幼馴染みの1人だ。
割と大人しい性格で勉強は出来るのだが、どうも運動は苦手なヤツだ。
そして、天然だ。
おたまじゃくしは成長すると大きなおたまじゃくしになると、中学2年まで本気で思っていたヤツだ。(ここまでいくとただの馬鹿なのか。)
そしてもう一人の幼馴染みは、呆れた様な眼で俺を見ていた。
そいつは、薄墨 透固。
運動は出来るのだが、勉強はいまいちといった具合。
そんなコトを本人の前で言おうものなら、一瞬で気絶するだろう。
家が空手道場で、自身も空手をやっているからだ。
お互い口にしなくても気持ちが伝わる存在は、中々いるものではないだろう。
一人でも欠けたら、全ての保たれていた均衡が崩れてしまう様な、そんな存在だった。
代わりなんて、いない。
だから、“それ”を聞かされた時、俺は自分がどんな顔をしていたのか想像もつかない。