第5話
四条河原町阪急前、恋人達が次々と出会い去って行くのを尻目に、待ちくたびれた直斗のイライラは頂点に達していた。
“You don't have to worry,worry. 守ってあげたい!あなたを苦しめるすべてのことから!"(『守ってあげたい』から引用)
昨晩寝る前にユーミンの懐かしいラブソングを聴いて熱くなった自分が嘘のようだ。
約束の6時半を1時間過ぎ、時計の針は午後7時35分を指している。
1年でもっとも日の長い時期であるが、さすがに暗くなった。
始めは、携帯が鳴らないか気になっていたが、電波がいつ確認しても3本立っていてなおかつ着信音が鳴らなかった。
時間を彼女が聞き間違えたのではなかろうかと、雪絵に直接電話しようかと思ったりもしたが、もし緊急事態が起こったりしてた場合気の毒だなと思い差し控えた。
「ああ、虚しいな・・・」とつぶやき阪急前を離れる決心をする。
さすがにまっすぐ帰る気がせず、餃子の王将で大好物の餃子を5人前ほど焼け食いしようかなと思い河原町通りを北上する。
道行く一人歩きの若い女の子が全て雪絵に似ているように見えた。
ちょうどその頃、阪急前から100メートル離れた河原町通り沿いのパチンコホールでコンパ仲間の中岡伸浩と羽田浩介はCR海物語に自分達の青春をぶつけていた。
2人のあいだには2歳の年齢差がある。伸浩が二浪で入学したためだ。
少し寡黙な伸浩と甘えん坊タイプの浩介はとっても仲がよくまるで兄弟のようだ。
“類は友を呼ぶ”という言葉どおり、無類のギャンブル好きで、いつも友人に代返を頼んでパチンコホールに入り浸っている。
パチンコで負けた分をせっせとバイトで稼いでいるのが現状であるが、人生に授業料は必要なのであろう。
2人の共通点はギャンブルには積極的というか依存的であるが、恋愛には消極的である。
昨晩のコンパにおいても伸浩は加代、浩介はさくらを気に入ったのであるが何のアプローチもせずにいる。
『どうせ、俺達と直斗はいつまでたっても彼女出来ないよな』と自分達をなぐさめている。
今日のパチンコの調子は最初は2人とも好調だったのだが、確変が続かずに長期スランプに突入、これじゃ勝って“木屋町のセクキャバへ!”の合言葉を達成できそうにないムードが漂いはじめていた。
共倒れ寸前、パチンコは財布の中身が少なくなればなるほど熱くなるのは言うまでもない。
直斗が青ざめた顔でホールに入ってきたのは浩介が激熱リーチに突入した時、午後8時半過ぎであった。
餃子臭くって酔っ払っているのだが、顔が青ざめていていつもの直斗らしくない。
伸浩が「どうしたん、直斗?」と聞いても直斗は無言であった・・・