第4話
宮崎月子は坂上美穂からの電話を受け植物園デートのあらましを聞いて開いた口が塞がらなかった。
実は午前中、美穂から相談の電話があったのだ。
昨晩のコンパの帰り、突然将年から誘われたらしい。
何事にも慎重な美穂に迷った挙句、“石橋を叩いて渡る人生って面白くないよね。行ってらっしゃい”とうアドバイスをしてしまったのである。
5人のコンパ仲間の中で現在彼氏に近い存在がいるのは月子だけである。
厳密に言えば、まだつき合っている段階ではないのであるが。
ショートカットにジーンズ姿がよく似合う月子は東京出身である。
テニス同好会だけでなく演劇サークルにも所属している。
どちらかと言えば演劇のほうが彼女の性に合っているのであるが。
月子に猛然とアタックしてくる男性が現われたのは約1カ月前。
大阪出身の兼田俊彦というE大生である。
同じ高校でE大に進学した加納弥生の紹介で知り合って2人で会うようになった。
実は月子は先日俊彦と植物園に行ってきたばかりであった。
俊彦は演劇の製作担当である。
本人いわく、「俺は三枚目だから役者は無理だよ」と言っているのであるが、半分当たっているのでいつも返答に困る。
他にも小説を読んだり書いたりするのが趣味のようだ。
中でも芥川賞作家の川上弘美さんが昨年上梓した『センセイの鞄』という作品がお気に入りのようで、「作中のヒロインのツキコが月子ちゃんにそっくりなんだよ」と会うたびに話題にする。
本をプレゼントされたので読んでみると、かなり私のことを美化してるんだなと思ったりするのだけど、男の人って結構単純なのかな。
大学生になったら念願だった外国ひとり旅を必ず敢行しようと思っているのであるが、この調子だと俊彦に心配されたらどうしようかなと不安な面もある。
彼は本当に私に優しいだけに、昨晩のコンパでも人数あわせ的な役割に徹したつもりではあるが・・・
美穂との長電話が終わり申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
リラックスさせるつもりで言った言葉が大事に至ってしまった。
そこで人生に気分転換は必要であるということで四条河原町に出ようと決める。
目的は演劇関係の本を見るため。
右京区西院のワンルームを出たのが5時ちょっと前。
もちろんジーンズにポロシャツという定番のファッションである、あと薄化粧なのも月子の特徴だ。
ジュンク堂でかなり長時間演劇関係の本を立ち読みした。
時計を見ると6時20分。
レジにて文庫新刊1冊を買い、阪急に乗って帰ろうと思い店を出る。
明日は1講目から授業だ。
すると美穂から聞いた昼間の話の時以上に開いた口が塞がらない事態が目の前で展開されていた。
なんと20メートルほど先を将年と雪絵が寄り添って歩いているのである。
まるで恋人同志の如く・・・
月子は雪絵より美穂との方が親密である。
持ち前の江戸っ子の気風の良さで“どう言うことなの!”と問い詰めようかと思案したが、2人は寺町通りを左折したのでなんとか唇をかみ締める。
イライラしながら阪急前までたどりつくとまた見知った顔に出くわす。
確か直斗くんだったっけ・・・昨晩のコンパの男性メンバーのひとりだ。
やけにそわそわした素振りが目立つのと、コンパでほとんど話さなかったので無視して阪急電車乗り場に向かう。
どちらかと言えば恋愛には疎い方であると思う。
恋愛に生きるより自由奔放に生きたい性分だ。
これ以上、美穂を傷つけたくない。
とりあえず美穂には黙っておこうと決心する。
自分はいつも一生懸命生きているつもりだ。
でも恋に夢中になったことがない。
このあいだ俊彦に会った時“月子ちゃんって人生を達観してるね。”と言われた。
それって褒め言葉なのだろうか?
バスに浸かりながら「将年さんの行動って結構、男の人の単純さが露呈されたのかな?」と自問するが答えが出ない。
月子は“自分自身より周りの人間の方が青春しているのではないか?”と自信が揺らいで行くのであった。<