表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
P  作者: あると
4/11

第4話「メール」

警視庁の通信指令センターに監禁容疑事案のメールが着信してから、一時間あまりが経過していた。

メールの返信で詳細を調査することも考えられたが、着信音が被疑者を刺激するおそれがあるため、控えられていた。

続報はいまだ、ない。

所轄の警察署である墨田警察署の警察官が現場に急行した。だが、隅田川に面したマンションの窓にカーテンは引かれており、中の様子を窺うことはできなかった。

通信指令本部長の判断によって、刑事部捜査第一課特殊犯捜査係には緊急の連絡をしていた。Special Investigation Team――いわゆるSITである。


早見優悟は、墨田警察署の大会議室に設置された現地対策本部に入った。急ごしらえの部屋では、まだ机の配置を終えたばかりで、電話も準備している段階だった。

「早見」

小柄で色黒の男が携帯電話を口元から話して呼んだ。

「はい」

早見は上司にあたる麻生管理官のもとへ急いだ。今し方、現場で調査してきた内容をメモ書きして渡した。

麻生はメモを目で追い、携帯電話の相手に告げる。

「今判明した事項ですが、部屋の中には三人がいる模様です。男女の別は、男一、女一、あと一名はおそらくですが男です。生存しています。ええ、早見が確認しました」

麻生は、調査の継続と、人員を招集する旨を相手に伝え、携帯電話を閉じた。

「一課長だ」

早見は頷き、麻生の手招きに応じてパイプ椅子に腰を下ろした。

「休みのところ、すまなかったな」

「近場にいたので、急行できました」

早見は革ジャケットにジーンズという出で立ちの私服だった。外出先での呼び出しは日常茶飯事のことだ。もう、慣れた。

「管理官こそ、今日は久しぶりの休暇ではなかったですか」

先日、別の事件の捜査本部が解散したばかりだった。二ヶ月以上、休みはなかったはずだ。

「ああ」

麻生は皺の多い目尻を押さえ、音のない溜め息を吐いた。

疲れている。あと数年で退職する年齢だ。長い警察人生を送ってきた人間の重みのようなものが滲んでいた。

早見は同情しつつも、上司の存在が不可欠であることも知っていた。ベテラン捜査員は多くいても、特殊事案に対応できる警察官はそれほど多いわけではないのだ。指揮官となるとさらに少ない。

「制服ですが、マンションの直近からは下げられませんか」

制服を着た地域警察官は、このような現場ではあまり役に立たない。自分一人か、気心の知れた同僚でないと、万が一の時、足を引っ張るおそれがあった。

「そうしたいのだがな。ここの署長は同期でな」

墨田署長の強い希望もあって、署員を早見と同道させたのだ。

「しかし」

「皆を呼んだ。それまで、待て」

「わかりました」

SITの仲間がくれば、署員は嫌が応にも外周に回るだろう。それならば、問題ない。

「管理官」

麻生の秘書役の伊集院が小声で口を寄せた。会話に入り込むタイミングを計っていたようだ。早見に軽く頭を下げ、二人に聞こえるように告げた。

「いま、一陣が本部を出たそうです」

「わかった」

早見と同じように招集された隊員が、第一陣として出発した。そのほかの隊員にも連絡は行き渡っている。

長引きそうだ。麻生は悪い予感にとらわれていた。

通信指令センターに届いたメールの内容を反芻する。


助けて殺され、403


メールアドレスから携帯電話の契約者は判明していた。住所は墨田区で、マンションの部屋は403号室だった。

あわてて打ったのがわかる。本文はなく、タイトル部分に書かれていた文字だった。

麻生は伊集院が差し出してくれた缶コーヒーを飲みながら、現地本部に顔を出した同期に手を挙げて挨拶した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ