前日譚
私は今日、土屋先生の補助として、法廷に来ていた。
昨日の見合いの件、向こうは乗り気だったし、理想を語る姿は立派に見えた。
だけど、私の話はみじんも聞いてくれていない人だった。そう感じて断った。
他人を自分の理想の枠の中に押し込めようとする印象の人だった。
その事を、土屋先生にぼやいたら……。
「ちょっ……。それ、俺も見たかった!」
爆笑だった。
従兄に話したらげんなりした顔で、『おふくろ、人を見る目がないからなぁ』だって。
そう思うなら止めてほしかった……。
「あ、柳田先生」
「あれ、西園寺さん。こんにちは」
「こんにちは。間宮さんも、お久しぶりです」
「こんにちは」
奥の廊下から曲がってきたのは、中学・高校と剣道場に通っていた関係で知り合った、柳田弁護士と事務員の間宮さん。
私が大学時代にストーカーに遭った際、いろいろと助けていただいたコンビだ。
ちなみに、柳田先生は土屋先生の大学時代の後輩に当たるらしい。
あの土屋先生の後輩。……柳田さんの方が大人な感じがするから、不思議だ。
「土屋先輩は?」
「今、公判前整理手続に行ってます。私は別件の資料持ちで着いてきただけなので」
「そうなんだ……。そう言えば、昨日お見合いだったんだって?」
「……誰情報ですか?」
「先輩」
「……あの歩くスピーカーめ」
小さくぼやくと、柳田さんが苦笑した。間宮さんはいつも通り、にこやかだ。
「どんな人だったのかな?」
「……どんなと言われると、少し悩みます。ただ、一緒に過ごすと息が詰まって、苦しくなりそうだなと感じました」
「なるほどね。高校時代の『自称彼氏』くんと似たタイプだったわけだ」
「はい。そうですね」
そう、私、過去に告白を受けたわけじゃないのに、なぜか『彼女』扱いされて振り回された過去がある。
特別好きだったわけでもなく、ただグループで遊んでいただけだったのに、いつの間にかそう扱われていた。
「その前にも、二人ほどお見合いを、叔母のセッティングでしたんですけど……個性的すぎて」
「個性的?」
「はい。一人目は落ち着いた声で、第一印象は悪くはなかったんですけど……」
「うん」
「話の三分の二の主語が『母』だったんです」
「それはキツイな。年齢は?」
「私より八つ上だったと思います。だから、三十四歳かな?」
「……な、なるほどね?」
さすがに柳田先生も、間宮さんも引いている。
「もう一人の方は、よく分からないレベルの専門用語でマシンガントークでした。最初は無口な方なのかなと思ってたんですけど……喋りだすと止まらないタイプだったみたいで。話している内容の十分の一も理解できませんでした」
「……それ、かなりコミュニケーション能力に問題がありそうだね?」
「はい。苦手なタイプです」
すでに間宮さんの表情は、例えるならチベットスナギツネみたいになっている。
「西園寺さん。ただいま~。あれ? 柳田くんと間宮女史。久しぶりだね~」
「ご無沙汰しています、先輩」
「ご無沙汰しています」
「土屋先生、お疲れ様です」
このあとの別件の資料が入ったフォルダを手渡しながら、土屋先生を睨みつける。
「え、何々? なんで翠ちゃん、俺のこと睨んでんの?!」
「ご自分の胸に手を当てて、よ~っく考えてください」
「先輩、本人の許可なくプライベート情報は話してはいけませんよ。僕らは法律家なんですから」
「あ、翠の見合いの話? どうせ柳田くんに声かけられて、最近どうよとか聞かれたら、自分から話すだろう?」
「それとこれとは違います!」
間宮さんは土屋先生が苦手だから、さっきから沈黙。柳田さんも、苦笑を浮かべている。
もうこのおっさん、本当に腹立たしいわ!
「次のお見合いってなったら、どうするよ、翠」
「行きたくないです」
土屋先生が軽口でとんでもない話を振ってくる。
死んでも行きたくないに決まってるのに!!
「西園寺さんって今いくつだっけ?」
「え? 二十六ですけど……」
急に柳田さんに年齢を聞かれたので答える。
……なぜだろう、嫌な予感がした。
「ああ、なら、うちの九条くんなんて、年齢的に良いかもね」
「お! 何々、柳田くんが仲人でも務めるの?」
「九条くんから、少し相談を受けていましてね。それで、西園寺さんさえ良ければ……と。一応、叔母さんあてに釣書送っておくね」
「……ええ~。要りませんよ~」
予感的中。最悪だ!
本編はコチラ↓
マリッジ・コントラクト
https://ncode.syosetu.com/n5933md/




