エピローグ「緑の楽園と変わらぬ愛の証」
私たちがこの荒野の真ん中に独立国家を建国し、平穏な日々が続くようになってから、数ヶ月の時間が静かに流れ去っていた。
季節の巡りとともに、カレンが築き上げた純白の城壁は、私が生み出した巨大なツルと鮮やかな花々によって完全に覆い尽くされ、遠くから見れば巨大な緑の山にしか見えないほどの威容を誇っていた。
街の中も活気に満ち溢れており、難民だった住人たちは今や立派なこの国の国民として、互いに助け合いながら豊かな生活を謳歌している。
石畳の道を歩けば、獣人の子供たちが笑い声を上げながら駆け回り、エルフたちが美しい声で豊穣の歌を響かせている。
ポムをはじめとするシロモチグマたちは、街の至る所で巨大な白い毛玉となって昼寝をしており、住人たちは彼らを避けるどころか、その柔らかな腹を枕代わりにして一緒に眠りについている光景が日常となっていた。
その日の午後、私はカレンに手を引かれ、街の喧騒から少し離れた果樹園の奥深くへと歩を進めていた。
頭上を覆う巨大な果樹の枝葉が太陽の光を遮り、心地よい木漏れ日が私たちの足元の黒土に複雑な模様を描き出している。
風が通り抜けるたびに、枝がこすれ合う柔らかな音と、熟しきった果実が放つ濃厚な甘い匂いが私たちの間をすり抜けていく。
「ここなら、誰にも邪魔されないわね」
カレンが立ち止まり、私に向かって極上の微笑みを向けた。
彼女の視線の先には、純白の木材を複雑に組み合わせて作られた、小さな美しいガゼボが建っていた。
その内部には、極上の肌触りを持つ分厚い布が敷き詰められており、周囲には私の生み出した夜咲きの花が昼間から淡い光を放ちながら咲き乱れている。
カレンが私を喜ばせるために、内緒で作り上げてくれた私たちだけの秘密の場所だった。
私は嬉しさのあまり彼女の首に両腕を回し、その滑らかな頬に強く自分の頬を押し付けた。
「ありがとう、カレン。本当に素敵な場所だわ。あなたの作るものは、どれも魔法みたいに美しくて温かいのね」
私が耳元で囁くと、カレンは私の腰を抱き寄せ、そのままゆっくりとガゼボの中へと私を導いた。
柔らかい布の上に横たわると、カレンは私の体を覆い隠すようにして上に乗り、その深く澄んだ瞳で私の全てを見透かすように見つめてきた。
周囲の果実の匂いよりも強く、カレン自身の甘く清潔な香りが私の鼻腔を満たし、それだけで私の心臓の鼓動が耳の奥で痛いほどに跳ね上がり始める。
「魔法なんかじゃないわ。私がこれを作れたのは、ミユリへの愛が私の手を通して形になっただけ。あなたが私に、無限の力を与えてくれているのよ」
カレンの透き通るような声が、私の中の柔らかな部分を的確に撫でていく。
前世で冷たいアスファルトの上に倒れ、薄れゆく記憶の中で二度と彼女に触れられないのだと絶望したあの瞬間が、今では遠い昔の幻のように感じられた。
私たちは今、確かにこの世界で息をして、互いの体温を分け合い、命の重みを感じ合っている。
「私も同じよ、カレン。あなたが隣にいてくれるから、私は乾いた土からいくらでも命を生み出すことが出来る。あなたは私の太陽で、水で、空気そのものなの」
私の言葉を聞いたカレンの瞳から、一筋の透明な涙がこぼれ落ち、私の頬を温かく濡らした。
彼女はゆっくりと顔を近づけ、私たちの唇は重力に引かれるように自然に重なり合った。
最初の触れ合いは羽毛が落ちるように優しく、しかしすぐに彼女の腕が私の背中を強く抱き締め、息もできないほどの密着へと変わっていく。
唇がわずかに開き、互いの吐息が混ざり合い、甘い唾液の味が舌先から全身へと駆け巡る。
私は彼女の柔らかな髪に指を絡ませ、さらに深く彼女の温度と匂いを自分の中に取り込もうと貪欲に口付けを返した。
布擦れの音と、荒くなった二人の呼吸だけが、静寂に包まれた果樹園に響き渡る。
カレンの手が私の衣服の隙間から滑り込み、直接私の素肌に触れた。
その指先の熱さと滑らかな動きに、私は小さく喉を鳴らして体を震わせ、彼女の存在を全身で受け入れていく。
「ミユリ……愛しているわ。この命が尽きる時が来ても、私の魂は必ずあなたを見つけ出す。永遠に、あなただけを愛し抜くわ」
唇をわずかに離したカレンが、熱を帯びた吐息とともに狂おしいほどの愛の言葉を紡ぎ出す。
「私もよ、カレン。どんな世界に生まれ変わっても、私は絶対にあなたの隣を選ぶ。私たちは、ずっと一つだわ」
私は涙で視界をぼやませながら、最高の笑顔で彼女に答え、再びその美しい唇を自分のものにした。
木漏れ日が優しく私たちを照らし、風が花々の香りを運んでくる。
遠くからは住人たちの穏やかな笑い声と、ポムの低く心地よい喉鳴りが微かに聞こえていた。
私たちを取り巻く全てが平和で、豊かで、そして底知れぬ愛情に満ち溢れている。
二度目の人生で手に入れたこの奇跡のような楽園で、私たちは決して色褪せることのない永遠の誓いを胸に抱きながら、いつまでも互いの温もりの中で溶け合い続けていたのだった。




