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掌編

勇者

作者: 綴 詠士
掲載日:2025/12/16

 俺こそが勇者、らしい。

 

 もう何度も創作物で見飽きたものだが、俺は召喚された勇者らしい。

 で、俺に何ができるというのだろう。当然何もできないのは分かってる。

 

 だけどそんなことは王女には全く関係ないらしい

 災厄が迫っていて、それを倒してほしいのだそうだ。

 

 どう考えてもそんなの無理なのだけれど。

 

 とはいえ、張りぼてでも勇者は勇者だ。

 どれだけ張りぼてで、どれだけ酷かろうと、それでも戦わないといけない。

 

 俺はそれがすごく嫌だったけど、帰るには王女の許可が必要なのだから、戦わないわけにはいかなかった。

 戦わないという選択肢はない雰囲気だったからだ。

 

 だから俺はここで戦うことになる。


「災厄はもうすぐそこにいます」


 王女がそんなことを言う、

 

 どうもそんなぎりぎりのタイミングで、起死回生の策として俺を召喚したらしい、なんと無駄なことをしているのだ彼女は。

 

 俺はそんな状況の絶望感を感じながらも、もう戦場に出向くことにした。

 

 このまま死のう。

 そうすればいい。どうせ夢なんじゃないかこれ?

 

 王女と共に戦場に出る。

 

 化け物の軍勢と戦う人間軍たち。

 

 魔法の炎が飛んでくるのを、こちらの魔法で迎撃する。だが、火の粉はこっちに降ってきて、俺の服に燃え移る。

 

「あっつつ! あぶな!」

 

 慌てて火を消した。これは本物だ。まずい。

 

 とはいえ、結局俺はそのまま災厄と戦いに行った。


 思いっきり敵を無視して相手の親玉の方に駆け抜ける。


「人間がいるぞ! 殺せ!」


 怖いことが聞こえるが、完全無視。とにかく親玉だ。


 殆どの敵は人間軍の方に夢中で、俺の存在は無視しているようだった。こんなのを気にしていられないのかもしれない。


 そうしてようやく敵の親玉のところに行く。


 そこには巨大な椅子に座ったでかい化け物がいた。


 こんな戦場のど真ん中にわざわざこんな椅子を持ってきたのかよ。腰でも痛いのか?


 俺はそう思いながらも突撃する。とにかく叫べ叫べ、後は野となれ山となれ!

 

「お命頂戴ーーーーーーー!!!」


 剣を振りかざし、突っ込んでいく。


 呆然とする化け物たち。親玉も不意を突かれたのか、目を見開いて俺を見てとまっている。ハイさよなら。


 俺は思いっきり剣を親玉の胸元に突き刺す。


 剣が肉をえぐり、できるだけ深く刺さったうえで止まった。


 感触がきもいきもい。叫び声がうるさい。周りも大音量で叫んでいる。


 ああもう知るか知るか。


 俺はそのままダッシュで人間軍の方に走っていく。


「うおーーーーー」


 後ろから敵討ちの化け物たち。沢山の犬を引き連れる飼い主のようだ。


 俺はそのまま人間軍の方に行く。


「敵の突撃だーーーー! まて! 戦闘は人間だ!」


 なんか妙に冷静な人の叫びで俺は見逃される。


 そしてそのまま王女の元に戻る。


「親玉を倒しました。返してください」


「え?」


 王女が呆然としていると。


「敵が引き返していくぞ!!!」


 そんな声が聞こえてきた。


 そして王女は驚いたまま、とりあえず俺を部屋に連れていって、いったん休んでくださいという。


 俺はそのままその部屋で休んでいた。


 そしてやがて王女が戻ってきた。


「ありがとうございます! 本当に本当に感謝します!」


「いえ。俺もよくわからないんですよ。鍛冶場の馬鹿力ってやつですね」


「ところで、あのー」


 王女が申し訳なさそうに言う。


「実は元の世界に戻れません。ごめんなさい!」


「えええええええ」


 俺は驚いたまま。硬直し、終わった。


 その後は勇者として崇められながらも、俺自身はこの国で生涯を終えることになった。


 勇者として。


 なんでやねん。














 

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