表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Slaughter  作者: はく
5/26

Laughter

「さぁー今日は張り切っていきましょー!」


あれから一夜が開けた。

ゼオは随分と楽しい奴だった。

本名は藤堂是雄。

日本人で歳も17歳と同い歳であった。

517歳と言うべきか。

打ち解けていくうちに自然と笑顔も増える。

だがまだ部屋の中だけだ。

しかも地下。

地上に出たら苦笑いや作り笑いですら、出来なくなるかもしれない。


「なんだどうした辛気くさい面して、寝れなかったんか?」

「考え事とゼオの寝相のせいでね、同じベッドとかどうにかならないの?」


ダブルベッドだがゼオの寝相の悪さは素晴らしいものだ。


「1つしかないし増やすのもめんどくせぇから我慢してくれ、つか俺そんな寝相悪く無いぞー」

「ゼオの手で窒息しかけたぞ…」

「はっはっはっ死なねぇから大丈夫だ」

「便利なもんだ…」

「さて、街の現状でも見るか?」

「そうだね、見ないからには解らないし、ここはなんて街なの?」

Laughterラフターって名前の街」

「ラフター…ねぇ…」


笑い…か。


「じゃあ清掃服に着替えるか」


街の実態を見る事になり、昨日渡された服を着ることにした。


「んだこれ…」


普段から長ズボンや半ズボンを履いたりはするが太股を強調するようなズボンは履いたことがない。

簡単に言えば女性が履くような物。


「ぎゃはは!まるっきり女じゃん!ほらここ、絶対領域ってやつ?」

「ゼオみたいな七分袖のにしてよ」

「いやいや、ダブるだろー、それに似合ってるからいいじゃねぇか」


似合うとかじゃなくて……


「納得いかないなぁ……で、着替えたのはいいけど、手から煙出して武器にするのどうやるの?」


手から煙なんて出した事はない。

幼い時に母の料理の邪魔をして裾に火が燃え移ったくらいしかない。

あの時は心配されながらこっぴどく叱られたものだ。


「イメージすればいい」

「イメージ?」

「手から煙がでて、どういう形になるか…ってな感じで」

「…まったくわっかんない」

「本当そうなんだって、簡単だし」

「まぁ…やってみるよ」


手から煙が出る…か…

手のひらを見つめながらイメージしていると、肘から先にかけて濃さを増していくように黒い煙が腕を纏う。

己が、身の光景に言葉も詰まる。


「ほらなっ、刃にしてみなよ」

「お、おお…」


煙をブレードにするイメージ…

すると煙はうねり、刃のような形になる。


「すっげぇ…」

「できたろ?ほら、自分の首斬ってみなよ」


悪戯な笑みを浮かべゼオは言ったが、そんな勇気は持ち合わせていない。


「いやそれは怖い…」

「大丈夫だって死なねーから」

「死なないと解っていても怖いものは怖い、てか死なない保証がないから怖い」

「日寄ってんなぁ…だから死なないってぇ、ま、実戦でやられれば解るか」

「そ、そうだそうだ…」


流石に不死身と解っていてもとてつもなく勇気がいる。

慣れるとゼオみたいに見せびらかす事も可能なのだろうか。


「さて、街に繰り出すか」


ゼファーは昨日ゼオに連れられてきたエレベーターに乗り、エントランスに着いた。

社内は白衣の研究者達の活気で溢れている。

2人を見るや手を挙げて挨拶する者や軽く会釈する者もいる。

それを後目に玄関の外へ出た。


「ここが街の現状だ」


その街はゼファーが思ってたより

ずっと酷かった。


まず始めに目につくのは放浪者、ホームレスってやつだ。

俺の横に転がってるホームレスは、生きているのか。

目の前でチンピラに殴られてるホームレスはもう死ぬだろう

昼だと言うのに立ちんぼ(娼婦)だっている。

目の前の看板には皮肉なように、街をキレイにしましょうと書かれているが、酒の瓶は転がってるわ、ゴミだらけだ、注射器まで落ちている。


「酷い…」

「日常だよこれが、ここで生まれたガキは男は売人になるか、女は娼婦になるか、もしくはホームレスになるかだ」

「どうにか…ならないのかここは…」

「ふふっ…俺たちが変えるんだよ」


俺たちが変える。

とてつもなく強大な事だ。


「おいおっさん」


ゼオがホームレスを殴っていたチンピラに声をかける。

あたかも安っぽい紺色のスーツを高く見せようと見栄を張った服装だ。

ほつれが彼の生活を語っている。


「あんだガキィ…?」


ホームレスはもう息が無いだろう、顔の形が解らないぐらい腫れている。


「そのホームレスもうくたばってる、それともおっさんは死体を殴るのが好きなキチガイか」


薬の中毒者なのか、あらぬ方向を向いていた目がゼオを睨んだ。


「そぉーだねぇー…丁度ここに殴りやすそうなガキが2匹いるみたいでおじさんは嬉しいなぁ…」


ホームレスを馬乗りで殴ってたチンピラが立ち上がりゼオの胸ぐらを掴む。


ビュッと風切り音がすると同時ビヂャビチャと地面が音を立てた。

漂う鉄の臭い。

男は自分の両腕が喪失していた事に気づくのにそう時間はかからなかった。

地面に落ちたその腕は一瞬ピクリと指を動かす。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?!?」


男の絶叫と共にゼファーは思わず口を覆った。

腕の切断面は今まで口にしてきた牛肉らと何ら変わりはなかったのだ。


「早く殴れよ ほら」


ゼオはだらしなく落ちた両腕を拾い上げ、男の元へ放り投げる。


「いぃぃぃぃぃっ!!…あぁぁぁぁぁ!!!」


男は苦痛でジタバタともがき苦しむ。


「…ったくよー」


ゼオの両腕から黒煙が纏い始める。


「殴るってんのはこうするんだぜ?」


もがく男に馬乗りになったゼオの黒目はリング状に広がりその真ん中にぽつんと赤い点がある。

黒煙は刃とは違い歪な塊へ形を変える。


「ひえっっ!!助けっ!」


バゴン

今まで聞いたことの無い、人の顔を殴る音ではない音が聞こえた。

鼻と上顎が眼窩より奥に凹む。

男の顔は陥没したのだ。


「ゲボォ…ひゅー…」


ガッブチィ ビジャ


2打目は男の下顎を吹き飛ばした。

抉られた顎下から血の泡をブクブクと垂れ流す男は未だ死に至っていない。

どんな痛みなのだろうか、どんな苦しみなのだろうか、死を悟った人間はどんな感情を思うのだろうか。


ドクン


ゼファーの中で何かが疼いた。

気持ちが悪いとか衝撃だとかそうじゃない。

自分の中で何かが湧いてきそうな感じ。

しかしその症状の正体は分からない。


ゴッ バシャン


3打目は地面に脳漿の花を咲かせた。

くるりと振り返ったゼオの顔は無邪気な子供の様な笑みを浮かばせていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ