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星は僕を見ていない  作者: 雪道 蒼細
八章 誰かの願い編
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誰かの願い part7

 「さてと・・。フィルア嬢を保護できたとは言っても、出口がなきゃ意味がない。それにここら一帯、さっきよりも霧が濃い。魔物がいるのかも・・ルチャード、気を抜かないようにね」

 「・・はい」


 少し緊張した声でルチャードは言った。ーールチャードには気を抜かないようにって言ったけど、それは僕の方だ。


 目眩や頭痛が酷い。ちゃんと魔法が使えるのかも怪しい。これじゃあ難しい計算ができない気がする。そうなると詠唱が必要な魔術を使わなければいけない。魔術でも詠唱が長いものだと難しい気がする。ーー僕はどうなってもいいから、せめてフィルア嬢とルチャードだけでも助けなきゃ。


 ・・ルチャード。ティルディーが大切にしていた人・・僕も守るよ。『ティルディー』であり続ける限り。


 グアァァァ


 「!?」


 かなり近距離から魔物の鳴き声が聞こえた。ーーこれは非常にまずい。僕は焦りからか呼吸が早くなる。落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃいけないのに。

 頭の中では分かっているのになかなか行動に移せない。ーー僕は一度深呼吸をした後、恐怖に駆られ動けなくなっているルチャードに向かって叫んだ。


 「逃げるよ!ルチャード」

 「に、逃げるってどこにですか?!」


 確かに出口を探さなければと言いながら逃げるのもおかしいが、とにかく逃げなければ。見渡したところ木や草なら腐るほどある。茂みにでも隠れればやり過ごせるだろう。


 「どこか!隠れられる場所まで!」


 僕はそう叫んで走り出した。だんだんと足音は近づいてくる。もうそこまで来ているのだ。フィルア嬢はルチャードが抱えてくれているが、それでも上手く走れない。仕方がない。ここは僕が時間稼ぎしてルチャード達には先に行っててもらうしか・・


 だんだんと呼吸が荒くなる。もう息が続かないし、視界ももう・・


 「!姉様!危ない・・!」

 「えっ・・・?」


 ぼやけた視界。ガンガンする頭。ぼんやりとしか聞こえない耳。そんな中ルチャードの声はしっかりと聞こえた。だけど聞こえた時には遅かった。


 「ーー痛ーーっ」


 何かに背中を引っかかれた。背中を触ると手のひらに真っ赤な血が付いていた。


 『ルチャード。逃げて、今の僕じゃ君を守れない』


 そう言おうと思って口を開いたが声が出ない。きっと力がもうないのだ。これじゃ魔術の詠唱だって出来ない。僕は重くなってきた瞼をゆっくりと閉じた。


 ーーーー


 「姉様!」


 俺は一旦フィルア嬢を地面に横たわらせ、姉を魔術で引き寄せた。目の前には茶髪で黒目の大柄な男がいる。魔術師とは思えない雰囲気。・・・きっと魔物・・いや、魔人なのだろう。さっきだって詠唱をしていなかった。

 俺は姉をフィルア嬢の横に横たわらせた。そして二人の前へ立ちふさがった。俺がここで逃げるわけにはいかない・・!


 「精霊よ 氷の世界のように 我らを閉じ込めん」


 俺は急いで氷の結界を張った。1番得意な魔術が氷系なのだ。それに他の結界魔術より防御力が高い、ーーだが目の前にある魔人には通用しなさそうだ。

 もうピキピキと音が鳴っている。後十数秒ほどで壊れてしまうだろう。


 「ーっぐ」


 俺は意識を集中させ結界の維持に努める。ずっと敵からの攻撃が続くせいで結界を解除できない。

 それに俺は攻撃魔法があまり得意では無い、できないわけでは無いのだが実践経験が少ないために対処できる自信がない。


 「あっ」


 そうこうしているうちに氷の結界が壊れた。それに氷の結界を使われ逆に攻撃されようとしている。俺はもう一度結界を張りる。今回は氷ではなく炎の結界だ。それも少しだけ威力の高い・・


 「炎の精霊よ 炎に愛されし者たちを 守り給わん」


 魔力が普通の結界より多く消費されるが、そんなこと言ってられない。どうせ俺は結界魔術で二人を守るしか術がないのだ。


 「軟弱な・・」


 ーーボウッ


 魔人が指を鳴らすと俺の結界は消え、さっきの俺の結界を使った攻撃が来た。急いで氷の結界の詠唱をし、部分的な結界を作り出した。部分的だったため氷の塊が俺の腕や足に刺さる。ポタポタと血が出てくるが気にしてらんない。

 せめて・・せめて二人だけでも守らなくてはと思い残りの魔力を全て使い強力な氷の結界を作り出す。詠唱を終えると俺の後ろに大きな氷の家ができる。もう魔力は残っていない・・視界がぼやけてもう・・・

 俺は氷の家に手を伸ばし倒れた。

 せめて・・・依頼だけは・・・成功しないと。それに俺がいなくたって姉様がいればトバッシュ家は安泰なはず・・二人だけでも生きて帰さないと・・


 「・・・」


 ーーーーー


 「こっちだ。何かの声がした!」


 俺たちは先程魔物のような大きな声を聞き、その方向へと向かっていた。3人で話し合ったところここは誰かが作り出した空間の可能性が高い。という結論が出たので主犯を探していたのだ。犯人さえ見つかれば、この空間から出ることができると考えたからだ 

 なぜ作られた空間か分かったかというと数時間たっても影の向きが変わらなかったから。それと森のわりには虫も動物も何もいなかったから。魔物の縄張りでも虫一匹ぐらいはいるはずなのに、ここは何もいない、

 そんなさなか先程の声が聞こえた。俺たちは急いでその現場へと向かっていたが・・・


 「ーーっ!?」


 俺は目の前の光景をみて声が出なかった。血だらけの地面と血だらけトバッシュ子息。それに手を伸ばしている謎の男。・・その後ろにある大きな氷の家。氷の家の中には背中に傷を負ったティルデイーとフィルア嬢がいた。二人とも眠っているようだ。

 ーー状況を理解しようと思ったがそれよりもトバッシュ令息の安全を確保しなければ。血だらけで生きているのかも分からない。


 「はぁぁぁっ」


 俺は剣を抜き、男に向かって振り下ろす。がその瞬間。俺の目の前に炎の雫が落ちてきた。魔法かと思い横に避ける。炎の雫が落ちた地面を見れば、その地面は焼け焦げた。どのくらいの温度かは分からないが、とりあえずあの雫の温度は高いということだけは分かる。


 「ソアンさん!避けてください」


 俺の攻撃が止まると分かると、キラが短剣を男に向かって投げていた。俺は短剣の行方を見守っていると見事に短剣は男の太ももに刺さった。あの短剣の先には毒が塗られている、効くかはその人次第だが、こいつはどうか・・

 俺たちが魔物と応戦している間、スフィーニアはトバッシュ子息の手当てをしていた。俺とキラが男の相手をしていれば十分だと思ったのだろう。

 

 「軽い応急処置ならできるけど・・思ったより傷が深い・・」


 スフィーニアはそう言うとスカートの裾を千切り、ルチャードが怪我をした部分をグルグルと巻き付けていった。だが、それも気休めにしかならない。せめて少しでも回復魔術でもかければどうにかなるのだろうが、ティルディーは意識がない。


 だんだんと氷の家が溶けてきて中も透けている。様子が見れるようになってもティルディーの瞼は閉じたままだ。ティルディーも背中の怪我がひどいからスフィーニアは手当したそうにしていたがスフィーニアでは結界を破ることは不可能そうだった。


 ーーティルディー・・死ぬなよ・・


 

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