魔物と・・。
魔物討伐の依頼を受けた俺とティルディーは魔物の目撃情報があった森へと来ていた。
「魔物が出るって言ってもギルドの依頼ボードには張り出されてなかった気がするし目撃者も村の人だけなんだよな・・。」
「そうだね・・。特徴を聞いてもあやふやだったし何か大きな動物と見間違えたとかかな?ほら、暗いところだと熊とか魔物に見えなくもないし!」
いや熊でも危なくないか・・?と思ったがまぁ魔物に比べればそんな危険性も無いか?と思いツッコむのもやめた。そもそも魔物が最近数を増やしているせいで野生の動物はレアなのだ。
最近は家畜か保護しているかぐらいでしか動物を見たことがない。人間も魔物の存在に困っているが動物もまた魔物に困っている。
「「・・・・・・・。」」
・・・・というかそれにしてもだ。本当に魔物がいないあまり頭を悩ませている。だが突然ガサガサッと音がした。
「!?なんの音だ?」
「あ、あそこに何かある!黒いやつ!」
ディルディーが指を指した方向を見ると確かに黒い何かがいた。まじで魔物か?と思い身構える。
「ガルルルル」
「出てこい!もういることは分かっている。」
俺がそう叫ぶと黒い何かが草むらから飛び出してきた。
「ディルディーゴホッゴホッ来る・・・ぞ・・?」
「ええって。ん?これは・・」
そこにいたのは黒い布を被った赤毛の少年だった。
「お前何してんだ?こんなところで。」
「・・もしかして魔物っていや、もしかしなくてもあなたのこと?」
ディルディーがじーっと少年をみると少年は怯えたようにゆっくりと首を縦に振った。
「で?なんでこんなことしたんだ?村で困ってる奴もいたんだぞ。」
俺は少年の視線に合わせて尋ねた。
「だって・・この道の先で本当に大きな足跡があって・・。魔物だったらみんな喰われちゃうと思って。もうこの村には依頼するお金もないから・・。だからここの道に魔物が出たって思わせればあの魔物に会わずに済むと思ってそれで・・。」
泣きながら少年はそう言った。だが足跡は気になる。本当に魔物ならば放置することはできない。
「そうか・・。でもなんでみんなに言わなかったんだ?お金がないと言っても緊急の場合なら街とかのギルドにお願いすれば来て魔物倒してもらえるぞ?」
「・・・一回頼んだんだけど。その時魔物がいなかったみたいで。冒険者さん魔物は嘘だったって言って帰っちゃって。そしたら俺が嘘ついたって。村の人も俺が嘘つきな奴だって。だからこうやってでしかみんなを守れないんだ。魔物なんて信じてもらえない。」
「・・・?でも足跡は・・?」
ちゃんと証拠があるのに魔物がいない、というか依頼放置したのなら大問題だ。というか依頼書というものは魔物討伐に限らず悩みなど全て解決して依頼完了なはずなのに。
「一日たっても現れなかったから冒険者さんが足跡を埋めたんだ。でもその一週間後にまた新しい足跡ができてて。フィニー姉には相談したんだけど前に一緒に魔物のこと大人に相談しに行ったからフィニー姉でも信じてもらえなくて。」
・・・だからフィニーは俺に頼んだんだろうか。あの時なにか含みがあってよろしくと言っていた気もするし。
「分かった。じゃあ行こうか。君名前は?」
ティルディーは少年を抱き上げてそう聞いた。・・そう言えばまだ名前を聞いていなかった。
「俺はジーク。よろしくな。冒険者さん。」
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そうして俺たちはジークが見たという足跡に来た。
「うわぁ。大きい・・・。」
ティルディーは足跡を覗き込んだ。それ以上覗き込むと落ちるぞと思うが魔術で体を固定しているようで見た目は危険だが安定している。
「でも。本当だな。なんでこれを放置したのか聞きたいぐらいだ。」
「よくわかんないけど『大した報酬でもねぇしハズレ依頼だ』とは言っていた」
・・まぁ本来依頼書のお金は街・村単位で依頼するものだから個人依頼で村ともなると大した額でもなかったのだろう。だがそれでも依頼放置していい理由にはならない。
「んー。魔法の気配はするけど。ここ一体にしてて場所特定まではできない・・。」
眉間にしわを寄せながらティルディーは唸っていた。ティルディーが分からないとなるとどうやって見つけるかが問題なんだが・・。
「・・・・。」
ふと思い出したことだが。魔物は基本的に人か動物の気配などがすればすぐに襲いに来る。でも縄張りに入られて一日ここにいたジークは襲われもしなかった。数時間開けているのは分かるが縄張り意識が強い魔物が一日も開けているとは思えない。
・・となると考えられる可能性は・・・。
「もしかしてここの魔物人とか襲う気がないんじゃない?」
・・言おうと思っていたことをティルディーに言われた・・。
「どういうことだ?」
この中で一人だけ分かっていないジークはティルディーに説明を求めた。
「えーとね、魔物って縄張り意識が強いの。だから基本的に自分の縄張りから出ることはない。でも不法侵入したジークたちは一日もいたのに襲われなかったでしょ?」
「ふ、不法侵入・・。まぁ。でも確かに。」
不法侵入という言葉に思うところはあったようだが飲み込んでいる。
まぁ魔物とはいっても縄張りはほぼ家だしな。不法侵入っていう言葉は正しいか・・。
「じゃあどうやって会うんだ?」
俺はティルディーに聞いた。襲う意思がなくても放置するわけにはいかない。倒さないにしても話さなければいけない。
「簡単だよ。一旦ここから離れればいい。」
「「ほう・・・?」」
俺とジークは声を揃えてそう言った。
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まぁそういうわけで一旦俺たちは魔物の縄張りだと思われる場所を離れた。まぁすぐ戻ってもいるわけがないので一時間程度草むらに身を潜めた。
暑いな・・虫やだなぁと集中力が切れぶつぶつと呟いていると大きな足音が聞こえた。
「「「!!!!」」」
俺たちは音に反応しそっと草むらから魔物の縄張りを除く。
すると目の前にいたのはこの世の物とは思えないくらい綺麗な毛の魔物だった。見た目はトナカイのような感じだ。魔物というより神の使いのような・・。
「あ、あの!!!!!トナカイさん!!!」
ジークはおもいっきり大声でトナカイの魔物に声をかけた。
相手はびっくりしたのか逃げようとしている。
「あ、違うんです!!僕達お話ししに来たんです!」
ティルディーは慌てて大声を出しそう言った。魔物もこちらに敵意が無いと気が付いたのかその場に座った。
俺たちはそっと近寄り座った。
「すみません・・。急に・・。」
俺はぺこぺこと頭を下げた。トナカイの魔物もご丁寧に頭を下げてきた。
「いや・・・。いい・・。」
「僕達。あなたのことを知りたくて。村の人を襲う気とかはないんですよね?」
おぉティルディー直球だなと思いつつ口には出さない。
「無い・・。それに我にはそんな力もない。ただでさえ失敗作と言われた者だしな・・。我はただ静かに暮らしたいだけなんだ・・。」
そう切なそうにトナカイの魔物は言った。
・・・時々こういう魔物もいる。戦う意思がなく静かに暮らしたいと願う者。人と一緒に暮らしたいと願う者。
だがそれを可能にするほどまだ人間と魔物の間には溝がある。
魔物が星を喰う限り俺たちが共存することはあり得ないと思っている。だが・・・・。
「静かに・・・・。でもお前寂しくないのか?仲間もいないんだろ?」
ジークはトナカイの魔物に近づいてそう言った。
「そうだな。だが言っただろう。失敗作だろうと。星を食べることを恐れ人を襲いたいとも思えない。魔物からは嫌われ人からは敵認定だ。もう誰ともかかわりたくはない・・。」
「「・・・・・。」」
俺とティルディーはなんと声をかければいいか分からなかった。ティルディーは分からないが俺にとって魔物は敵でしかない。ただ人を襲いそれを討伐する。魔物には意思がないと思っていて悪いやつだと思い込んでいた。だからこう会話しているのも不思議で・・。なんと言葉にしていいかが分からない。
沈黙が流れ続けたがそんな沈黙を破ったのはジークだった。
「・・・・ならさ!俺と友達になってよ!俺も村の人から嘘つき呼ばわりで。信用されてなくて。境遇が似ている気がするんだ。だから!友達になろう!そうすればお前は一人じゃない!」
ジークはそう言ってトナカイの魔物に手を差し出した。
トナカイの魔物の方はびっくりしているのかじっとジークを見ている。なにを思っているのかはわからないでもその瞳はとてもやさしそうな眼差しだった。
「あぁ・・・。そうだな。友達。友達か・・。」
「へへっ!」
・・・俺たちはもしかしたらすごいものを見たのかもしれない魔物と人間の友情というものを。
ティルディーはどんな顔をしているのだろうと思い視線を向けるとなんだか懐かしそうな切なそうなそんな感情がごちゃ混ぜになった顔をしていた。
「・・・・・・友達・・・・・・かぁ。」
そうティルディーが一人ポツリと呟いた。
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魔物と人間の友情成立の現場を見た後俺とティルディー、ジークは村へ戻った。
ジークは「また明日来るからな!」と言っていた。
村の人たちには魔物はいなくなったとだけ伝えておいた。まぁ襲う魔物はいなかったわけだしギリギリ嘘はついていないよな。・・・え?嘘言っている?そんなことは気にするな・・。
そして依頼主のフィニーに会いに行った。
「あの。解決していただきありがとうございました。」
「いや、いいって。あ、あとほらジーク。」
「あ、あのフィニー姉。」
もじもじと手を後ろに隠しフィニーに何かを伝えようとしている。
「なぁに?ジーク。」
そんなジークをゆっくりと見守っている。
「俺ね!友達ができたんだ!大きくてきれいな」
「!!そうなの?よかったぁ!お友達できたんだ!今度私にも紹介して!」
「だーめ。でも友達がいいよっていったらいいよ!」
笑顔でジークはそう言った。まぁフィニーならそのうち合わせてもらえるだろう。
あの心優しい魔物に・・いや心優しいジークの友達に。
俺はなんだか嬉しくなり笑ってポンポンとフィニーの頭を撫でた。
そんな俺の手を笑ってフィニーも撫でられ続ける。・・・そう言えば余談だがフィニーとジークは本当の姉妹ではなく幼馴染らしい。
俺たちは立ち話をし続け気づけば日も落ちかけていた。そうしてフィニーも思い出したように話題を切り出した。
「あの、馬車はどうしますか?もう今日は夕方ですから明日の早朝出発になりますけど。」
フィニーは首を傾げて聞いてきた。
「それだとどのくらいで関所につくんだ?」
「そうですね。三、四時間ってところですかね。」
「分かったじゃあ、じゃあ明日で!」
「分かりました。ではまた明日!」
そう言うとフィニーは自分の家の方向へ走って行った。ジークも走って家へ帰っていった。
それをディルディーと二人でほほえましく見守っていると。
「あれ?雨?」
ポツポツと雨が降ってきた。