誰かの願い part5
ちょっと端折りすぎたが緊急だ仕方がない。私が大声で言うと二人は飛び起きた。
「すふぃ・・スフィーニア。それは本当か?」
「はい。侍女さんから聞きました。外出してから帰ってきていないって・・」
「・・まさか、何かあったのか!?」
ソアンさんは慌てたように外へ出た。・・が。ソアンさんは部屋を出たところで侍女とぶつかってしまった。ソアンさんは急いで侍女に手を伸ばして立ち上がらせようとしたけど、侍女はそれどころではないようだった。
「あの!お嬢様がどこにもいないんです!まだ夜じゃないのにいなくなってしまわれたんです!」
侍女は血相を変えてそう言った。まだフィルア家で騒ぎになっていないということはこの侍女はフィルア嬢の専属侍女なのだろう。
「じゃあニ人行方不明になっているってことでいいんですかね?」
「そうだな・・・じゃあ侍女さんフィルア当主に伝えておいてくれ。お嬢様は必ず見つけるってな」
ソアンさんはそう言うと近くにあった窓を開き窓から飛び降りた。私と兄さんもそれに続いて飛び降りる。三階からだがそんなこと気にしている場合じゃない。ティルディー様とフィルア嬢が危ないかもしれない。私は無我夢中で走った。
ーーーそんな時私たちを呼び止める声が後ろから聞こえた。
「お待ちください。皆様どこへ行かれるのですか?」
ーー呼び止めたのは私たちを最初に案内した使用人だった。
「ティルディーが外出してから戻ってきていないらしく・・今から探しに行くところです・・それとフィルア嬢も・・」
「そうですか。なら私もお供いたします。ここ近辺の地理は皆様より詳しいかと・・・」
地理。確かに昨日はフィルア嬢について行っただけだし、今日の朝フィルア家に戻ってきたのも明るくなってからだった。日が落ちている時にティルディー様を探しに行くなら使用人さんがいたほうがいいかもしれない。
「あぁ助かる」
ソアンさんも同じ考えだったのか承諾した。ーーーそれにしても、この使用人フィルア嬢がいなくなったって聞いても反応薄かったな・・さっきの侍女から話でも聞いていたのだろうか。ううん、今はそんなこと気にしている場合じゃない。
・・ティルディー様・・。
ティルディー様に何かあったら私・・また守れない。大事な人を。だから絶対無事でいてくださいね・・ティルディー様・・。
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♪♬♪~♪
心地よい音楽。ずっと聞いていたい。でも聞いていちゃダメな気がする。なんでダメかもわからないまま僕は歩く。
僕どうしてここにいるんだっけ?記憶を辿ろうにも辿れない。それに思い出してもきっと苦しいだけ。だから・・
「待って!!」
「・・?」
小柄な少年が声をかけてきた。見覚えがある気もするけど分からない。・・でもなんで、少年はなんで悲しそうな顔をしているのだろう。
♪〜♪♪♬
「あの、俺・・姉様に・・言わなくちゃいけないことがあるんだ」
姉様?それって僕のこと?
♫♪〜♪♪
「あの・・君は・・?誰?」
「え、姉様?あの、俺ルチャード!姉様の弟の・・」
弟。弟。そもそも、自分が誰かすら分からないのに相手のことが分かるはずもない。だけどなんとなく目の前にいる人が怖い。足が震えている・・手も。
怖いけど。話さなきゃいけない気もする。どうしてだろう。怖いなら話さなければいい、逃げればいい。簡単なことなのになんで僕は逃げないんだろう。
♪♬♪~♪
疲れているわけでもない、魔力がないわけでもない。逃げようと思えば逃げられる状況なはずなのに、なのに。
「僕は、君と話をしなければいけない気がするんだ」
涙がポタポタと落ちてくる。僕は涙をぬぐって前を見る。顔を見ても思い出せない、思い出せないけど。話をしたい。・・・話を・・
「姉さま。・・俺も。話したいんだ。姉さまと、どうしても。話を聞いてくれますか?」
「うん。聞くよ。いくらでも、いつまでも。聞くよ、満足するまで」
僕が微笑むとルチャードという少年も泣きながら笑った。不器用な笑顔で笑った。その笑顔は勇気をだした者の笑顔だった。
♪~♬♬♪
「俺さ、姉さまをトバッシュ家で殴ったことを謝りたかったんだ。ごめんなさい・・・。本当にごめんんなさい。ごめんっ・・うっ・・」
「で、でも・・ルチャードにも何かあったんじゃないの?その、理由が、そうしてしまった何かが」
分からなくても知りたい。思い出せないけど誰かが言っていた「人は理由もなく傷つける人もいるけど生きていた環境、そのときの心情・・色々理由が重なって傷つけてしまう人もいる。だから傷つけられたら傷つけた人の話を聞いてあげてね?見方がいる・・話を聞いてくれる人がいる。それだけで心は少し軽くなるから・・」
なんでそう言われたのかは思い出せない。あともう少しで思い出せそうだけど・・・何かが足りない。
「・・俺、親から認めてもらえなかった・・頑張っても褒めてもらえなくて。少しでも間違うと殴られて。いつも、いっつも姉さまと比べられて・・辛くて。姉さまが憎くて。だから・・八つ当たりしたんだ姉さまに。でも。その後姉さまに回復魔術かけたとき後悔した。俺、魔術の先生に言われてたのに。『魔術は誰かを守るため、助けるために存在する』って。俺が殴った傷を俺自身が治して、ただの自己満足のために・・」
「うん」
「俺。もう分かんないんだ。学校でもずっと勉強して、同級生が話しかけてきてもキツイ言葉かけて突き放して。学校でも・・・家でも自分の居場所が無くて。怖くて。どう、どうしたらよかったのかな・・俺。俺・・・」
ルチャードはそこまで言うと地面に座り込んで泣き出してしまった。僕はその背中をさすることしかできない。でも・・この感覚・・どこかで。いや・・されたことがある・・気がする。
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「ほら、泣かない。もうお前を虐めてたやついねぇぞ」
「うぅ・・だ、だってぇ・・」
一人の子供が泣いている子供にそう言うと、泣いている子供は余計に泣き始めてしまった。こうなってはどうしようもないので1人の子供は泣いている子供の背中をさする。
「君は怖くないの?あの子たちのこと」
僕はさすってくれている子供を見た。その子供は僕の視線に気づくと不敵に笑ってこう言った。
「俺があんなガキのこと怖いわけがないだろう。お前は優しすぎんだよ、馬鹿」
「ば、馬鹿って!?」
「馬鹿だろ。あんなこと言われただけで泣くんだ。・・ま、次言われたらすぐ呼べよ。そのために俺がいんだからさ」
「うん・・・・」
僕はそんな君の顔が好きだった。頼りになって・・・だから・・・助けたかったんだ。
ーーーー
「そうだ・・・僕は・・・」
思い出した・・・僕は君を助けたくて。助けたくて・・どうなったんだろう。ここから先は思い出せない。だけど今までの「ティルディー」としてのことは思い出せた。
・・・そして、思い出したからこそ向き合わなければいけない現実。
僕はゆっくりとルチャードを見る。今の話を聞いていて思った。・・僕はルチャードは幸せな人生を歩んでいると思っていたけど違った。両親の圧や期待・・色々なことが重みとなっていた。
・・
・・・僕は君の本当の姉ではないけれど・・嘘をついている偽物の姉だけど・・これだけは言いたい。
「大丈夫だよ・・ルチャード。僕・・私は怒ってない。ルチャードの味方だし、大好きだよ」
「!」
さっきのことを思い出したのと同時にティルディー(星になった方)としたかつての会話も思い出した。ルチャードとティルディーは関りこそなかったけど心配はしていた。そして「私。ルチャードのこと大好きなんだ!可愛い弟だし」といつかに言っていた。
もうティルディー本人からは伝えることのできない言葉だけど・・この言葉だけはティルディーとしてルチャードに伝えたい。本当の姉からの言葉を・・。
ごめんね・・・本当のティルディーじゃなくて・・ごめんね。偽物で・・でも、それでも・・僕もルチャードのことは嫌いじゃないよ。
本当の姉弟にはなれないけれど・・言葉を積み重ねて。せめて・・ルチャードの味方にはなりたい。




