誰かの願い part2
ーー俺達四人はシリルの依頼を受けフィルア家へとやって来た。トバッシュ家の者は予定が合わず今日は来ていないらしい。
ティルディーのこともあったので内心ホッとはしている。それにティルディーがトバッシュ家の人と関わらなければいけない依頼を引き受けるとは思わなかった。だってティルディーあの事件の後すごく嫌がっていたし・・。
なんか心境の変化でもあったのか・・・それとも今はトバッシュ家のことなどどうでもいいと思うくらいに何か悩んでいるか・・。どんなに聞いても様子を見てもティルディーの様子は良くならなかった。
正直言って連れて行きたくはなかったが「僕は行く!」ってずっと言われ続けたから俺が折れた。あんな一日中言われ続けるとは思っていなかった・・。おかげで俺の方が寝不足だ・・。
「もしかしてソアン様御一行でしょうか?」
「はい。シリ・・第二王子から依頼されて参りました」
思わずシリルって言いそうになった。あれ?でもこういう時第二王子でいいんだっけ?シリル王太子?シリル王子様?やば・・呼び方が怪しい・。う・・ここはスルーしてくれ!
「・・・奥で旦那様がお待ちです」
お。大丈夫だったようだ。使用人の男は俺たちに一礼をした後奥の部屋へと案内してくれた。ーーそれにしてもこの男・・めっちゃイケメンだな。貴族じゃないのか?と思うほどだ。黒髪に少し赤毛が混じっていて身長は百七十後半。すごくスタイルがいい・・。
羨ましい・・と思いつつ使用人の男を見てると「ここで旦那様がお待ちです」と部屋の前でそう言った後一礼してどこかへ行ってしまった。・・めっちゃくちゃ見ていたがやばいやつだと思われてないよな?
普段人からどう思われるか気にしすぎるあまり頭の中で反省会が始まろうとしていた。うわぁ!中止だ中止!さすがに今頭の中で反省会をしていたら依頼どころじゃなくなってしまう。
俺は頭を横にぶんぶんとふり目の前にいる四十代くらいの男に頭を下げた。
「俺・・私は冒険者のソアンと申します。第二王子の依頼で参りました。そしてこちらが・・」
「・・・・」
俺はぎこちない挨拶をしティルディーに言葉のバトンを渡したが・・
「おい。ティルディー?」
「・・・・」
地面を見つめて言葉を話そうともしないので小声で話しかけた。どうしたのだろうか。いつもなら真っ先に挨拶するのに・・
このままじゃ相手に失礼になると思い代わりに俺がティルディーの名前を紹介した。
「えぇ・・っとこちらはティルディー・トバッシュです。そして・・」
「キラです。以前はトバッシュ家の使用人でした」
「妹のスフィーニアです。兄と同じく前はトバッシュ家の使用人でした」
続いてキラとスフィーニアが名乗る。さすが貴族の使用人だっただけあり所作が綺麗だ。俺も勉強しておけばよかった。
ちょっとだけ後悔した。・・ちょっとだけな?
「私はカルド・フィルアだ。遠いところから来てくれたこと感謝する」
フィルア当主は俺たちに向かって会釈をした。遠いところ・・まぁ遠いが南の国から東の国に来るよりかは近い。フィルア領は東の首都から馬車で三十分ぐらいで着く。結構首都寄りの領だ。
「いえいえ。ええっとそれで依頼内容は・・」
「あぁ・・娘が最近夜に外出することが増えてな。夜中こっそりと自室の窓からどこかへ出かけるらしいんだ。私も直接見たわけではない。護衛騎士が目撃したらしく私に報告してくれた。この前はトバッシュ令息に呪いの反応が無いか調べてもらったんだが呪いの類ではないらしくてな。私が直接聞こうにもなかなか話してくれず・・」
夜中の外出か・・親にも言わないとなると逢瀬か?呪いの反応はないわけだし。ーー無事に帰ってきているあたり危ないことはしていないようだけどもしもってこともある。それに第一王子の婚約者だしな。依頼を受けた以上しっかりと任務を遂行しなければ。
「分かりました。一回お・・私たちが張り込んでみます。フィルア嬢が外出するようならつけてみます」
「ーー助かる。だが娘は急に消えるらしいんだ。つけていた護衛騎士も途中で見失ったと言っていた。見張ってもらうのは助かるが・・」
消える・・か。じゃあ魔術か?それとも魔物?こっちにも魔術師・・魔法使いはいるがティルディーは本調子じゃないしな。働かせすぎるとティルディーが倒れてしまうかもしれない。ここは休んでてもらった方がいいか?ーーだけどティルディー頑固だし・・あとで決めるか。
「大丈夫です。ちゃんと見張ります。それに私たちは冒険者です。対象を見失わずにつけるのは得意です。お任せください」
「そうか・・客室は二階に用意してある。場所は使用人から聞いてくれ。・・・どうか娘を頼む」
「はい」
「・・・・・」
「・・?あの・・他に何かありますか?」
なんでか分からないがずっとフィルア当主が見てくる。え?俺何かしたか?それとも何か怪しまれている?
「・・お前のその顔・・私の姉と似ている・・・遠縁のものか?それとも・・・」
!!??まさかのばれている??いやでも似ていると思われているだけだ。それに俺は貴族出身でもなんでもない。さすがに素性がばれるのは避けたい。
「い、いえ。私は平民で冒険者です。お貴族様と血がつながっているはずがありません」
俺は愛想笑いを浮かべ否定した。夜逃げした令嬢の息子なんてきっとよく思われていない。それに平民だ。親戚だなんてきっとこの人も思われたくないはず。
フィルア当主は「そうか」と言って部屋を出て行った。
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『夜』
俺たちはフィルア令嬢の部屋の下の草むらに身を潜めていた。かれこれ二時間外にいる。東の国は夜少し寒い・・。上着買っておくんだったな。
「あ・・フィルア令嬢の部屋の窓が開きました」
俺が体を震わせているとスフィーニアが上を見上げながらそう言った。スフィーニアの言う通りフィルア令嬢の部屋の窓を見る。
フィルア令嬢はキョロキョロと辺りを見回した後バルコニーに出てロープを垂らした。フードを被っていて顔が・・あ。今月明かりに照らされて少しだけ見え・・。
「・・あの子・・・僕見たことあるかも」
今まで地面を見ていたティルディーが小さな声でそう呟いた。
「え!?ティルディー様令嬢と知り合いなんですか?」
キラも驚いたようでティルディーを見た。ティルディーはこくりと頷いた。本当に面識があるらしい。でもどこで?あの令嬢がトバッシュ家にでも来ていたのだろうか。
「あの子・・ルビア・・・シリルの件でお城を調べていた時に会った。色々教えてくれて・・それで・・。僕。あの子を・・」
あ。シリルの時のか・・。俺はふとその時のことを思い出す。確かあの時は俺が宿に残ってティルディーとキラが城で情報収集をしていた。恐らくティルディーがフィルア嬢出会ったのはその時だろう。ーーーなんてことを思い出しているとスフィーニアが焦ったような声を上げた。
「!みなさん!フィルア嬢もう屋敷の外行っちゃいました!急いで追いかけないと!」
「え!?」
俺はフィルア嬢がいたはずの窓を見る。がもう縄が揺れているだけで肝心のフィルア嬢がいない。俺は急いで立ち上がってフィルア嬢を追いかけた。ティルディー達も立ち上がってフィルア嬢にばれないように尾行している。
そしてフィルア嬢が道の角を曲がったと思ったとき・・
「え」
フィルア嬢は消えていた。代わりにそこにいたのは・・
「あ・・」
金髪で紫色の瞳の少年だった。そしてどこかティルディーと似た顔つきをしていた。
「・・ルチャード・・」
そうティルディーが呼んだ名前はトバッシュ令息の名前だった。
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【ルチャード】
今回フィルア家から依頼が来たのはたまたまだった。魔術師としての能力が認められてきたと言ってもトバッシュの嫡男である俺は冒険者になることができない。
魔術師としての名を売るには冒険者として名声を稼ぐのが一番手っ取り早いのだがしょうがない。
そんななかこの依頼は魅力的だった。この依頼が達成できたら魔術師としてもっと認めてもらえるかもしれない。そしてら姉とだって比べられなくて済む。もうあの言葉を聞かずに済む。そう・・思っていたのに。
「ルチャード!依頼が達成できないとはどういうことだ!?お前はトバッシュ家の跡取りなのだぞ!」
「ご・・ごめんなさい。次はやります・・ちゃんと。ちゃんとします」
依頼はそう簡単に達成できなかった。手こずっているうちにとある冒険者達と共同の依頼となった。・・・そんなの許せない。俺一人でもどうにかできるはず・・だから急がないと。先に解決されてしまう。
そう考えた俺は勉強をすぐに済ませ徹底的に張り込んだ。・・だけど見失った。ここ周辺の魔術の痕跡を調べるかと考えていた時足音が近づいてきた。顔を上げればそこには見覚えのある顔が一人いた。
俺は思わず下を向いた。
ーーまた姉と比べられる。
・・そう思って。




