白薔薇の祭り part6
大きな音がした方へ俺たちは走って向かった。アレディー嬢はどこかへいってしまったがティルディーによると気配は村の中にあるらしいので、まぁ心配はないだろう。
ルビアには連れて帰れと言われただけだし・・。ちょっと屁理屈だが誰も聞いてないし気にしない。
内心お気楽なことを言っているが現状はお気楽ではない。目の前には火炎瓶を投げている村長やそれに加勢している村人達がいる。だが、半数の村人は火の方から遠ざかっている。おそらく主犯は村長、その他は唆されたか脅されたかだろう。
ーーー今回は魔物でもないし魔術師相手ではないから倒すとか殺すまではしてはいけないし・・。
・・生捕り。気絶とかさせればいいのか?でもあっち攻撃してくるんだよな。気を抜いたら重症の怪我を負わせてしまう自信がある。
相手はただの人間・・。魔術師とは違って体を魔力で覆ってない.下手したら攻撃で即死なんてありえるから手加減・・手加減なのだが。
「よーっし。ソアン!どうする?全滅?」
「毒とかたくさんありますよ。こんなのとか・・じわじわと毒が回ってーー」
「もう。そらなら一撃くらわせたほうが簡単です」
「・・・」
無理そうだ。何故かみんなやる気である。それに全滅とか毒とか。ダメだしそんなの.村のみんな死んじゃうよ。
「いいか。絶対攻撃しすぎるなよ?せめて,眠らせるとか気絶をだなーーー」
まず生捕りという心得をディルディー達に教えようとしている時だった村長が何か叫んでいるような気がする。声が気になり俺は耳を澄ませる。結構離れているが耳はよく聞こえる方なので、少しだけだが村長の声が聞こえた。
「ソアン!!お前どうせどこかで聞いているのだろ?!どうせお前も死ぬんだ。冥土の土産に良いことを教えてやる!お前の家族はただ魔物に襲われて殺されたんじゃない。俺がお前の家族を殺したんだ」
ーーー殺した・・?村長が?俺は頭が真っ白になってその場に立ち止まった。だって、村のみんなは魔物に殺されたって。しょうがなかったって言ってたのに。
「・・!ソアン聞いちゃダメ!」
ティルディーはキラ達と話すのをやめ、急いで俺の近くに駆け寄り。俺の耳を自分の手で塞いだ。耳を塞がれても村長の声は聞こえた。
「俺はなぁ、お前ら家族が目障りだったんだ。元貴族ってのも鼻につくし、あんな宝石まで持ってるくせに村のためには使おうとしねぇ・・本当はお前も殺す予定だったんだがな、リオネルに免じて殺すのをやめておいたんだよ。だけどもうリオネルとは縁を切ったんだろ?だから今回殺すことにした。いい後ろ盾もあったしな。ハッ恨むならお前の親を恨めよな」
「ーーー!」
「ソアン!」
俺は怒りのあまり村長のところへ剣を持って斬りかかり行こうとしていた。それを察してか、ディルディーが俺の手を引っ張って動きを止めようとしている。
「ーーっ離してくれティルディー!あいつのせいで!あいつのせいで」
みんなは死んだ。母さん、父さん、マリ、アル。何もしてないのに殺された。ただ元貴族だったから、宝石があったから。村のために貢献しなかったから。ーーでも父さんはいつも仕事熱心で仕事が終わったら魔物が村を襲わないように夜遅くまで見張をしていた。
母さんだって慣れない家事や畑仕事を一生懸命していた。いつだって弱音は吐かなかった。宝石だって母さんの婆さんから形見として母さんがもらったものだ。それに両親は村のために貢献していた。母さんのドレスだって売って村に寄付していた。
父さんだっていつも大事に持っていた懐中時計を売って畑の整備をしていた。二人とも贅沢なんてしてなかった。よそ者なのに家を貸してくれた村の人に恩を返すため必死に働いていた。なのに。そんな両親を元貴族だから金を持っているから。元はよそ者だからって除け者にして俺たち家族から距離を置いたのはそっちじゃないか。
距離を置いたら放っておけばよかったじゃないか。殺さずに・・関わらないでくれたら・・。
なのに。
「どうして・・・殺されなくちゃいけなかったんだ・・」
俺は俯きながらそう呟いた。ーーもう戻ることのない家族を思って。やりきれない感情があふれ出しそうになった時、今まで静かに聞いていたスフィーニアが口を開いた。
「・・あの、ソアンさん。少しだけ私の話を聞いてくれますか?」
「・・・スフィーニア」
俺は何も返事をしないまま剣だけを下ろした。首を縦に振ろうとしたけどそこまで力が湧いてこない。沈黙を肯定ととったのかスフィーニアは話し始めた。
「・・私と兄さんも両親を殺されたんです。ソアンさんの家族のように人に殺されたわけではありませんでしたが野生の狼に襲われて死んでしまいました。私と兄さんは駆けつけるのが遅れて両親のところに着いたのはもう二人が死んだ後でした。近くには口元を血だらけにした狼がいて、すぐに両親を殺した狼だと分かりました。兄さんはこの時8歳でしたが剣の腕がかなり凄く冒険者でいう中級だったんです。だから両親を殺した狼を殺す気になれば殺せました。・・・ですが兄はそれをしませんでした。私も」
「・・・・」
キラはスフィーニアの話を目を瞑って聞いている。きっとその時のことを思い出しているのだろう。家族が2人だけになったときのことを。
「近くに小さな子供の狼がいたんです。傷ついていてボロボロでした。私達の住んでいた村では羊を飼っていて羊を食べてしまう狼は殺すようにしていたんです。両親は羊飼いでしたからおそらく羊を襲おうとしていた狼が近くにいたから殺そうとしたんでしょう。だけど親の狼が出てきて返り討ちにあってしまった。両親を殺した狼はただ子供を守るために殺そうとしてきた両親を殺した。きっと・・それだけだったんです。力のあるものは恐ろしく、何もしていないけど一匹の狼が羊を襲えば。羊を喰われないよう近づく狼は全滅させる。狼は仲間を殺されないように私たちを次々と殺す。戦いの先に生まれるのは喪失です。相手が殺したから、相手がやったから、そのようにして殺しても手元に残るのは自分のやった罪だけです。良いことなんて一つも残らない。みんなは帰ってこない。泣いても喚いても虚しい事実しか残らない。それに誰かに復讐を頼まれたわけじゃない「あの人を殺して」と家族に頼まれたわけじゃないのに殺すのですか・・・自分の自己満足のために。・・ソアンさんがどうするかはソアンさんが決めることですがこれだけは言わせてください。私は・・私はソアンさんに罪を犯してほしくありません」
自己満足・・確かに俺はこのやりきれない思いを誰かにぶつけたいだけかもしれない。それに父さんと母さんは口癖のようにいつもこう言っていた。「相手が憎くて殺したくても生きている以上、相手の人生を踏みにじってはいけない。そうしたら憎い相手と同類になってしまう。だからソアン。和解しろとは言わない。相手を知ろうとしてみてくれ。・・相手の事情や心情を知らなくて責めるのは違う。だから話し合ってみて。そうしたら真実が分かるかもしれない。相手の一面だけを見て憎んではいけない。分かったかい?」
「分かったよ・・父さん、母さん」
俺は小さな声でそう言った。
「人は法で罪を裁くのでしょう?ならソアンさんが手を汚さなくても裁かれます。それに殺してしまったら話し合いたくても話し合うことができない。真実が知れるはずだったのに埋もれてしまう。ソアンさんが罪を犯したらリオネルさんともお話ができませんよ!?さっき話をしようと言っていたじゃないですか。私は大切なものをこれ以上ソアンさんに失ってほしくありません。これ以上!!ソアンさんに苦しみを味わってほしくありません」
「・・そうだよ!誰かを失うのは苦しいよ。それにソアンは優しい。魔物を殺す時だって悲しそうな顔するの知ってるよ!誰かを殺したって知っててもそいつが悪だって言っても苦しいんでしょ!辛いんでしょ!」
「ーーーっ」
「・・ソアンさん。そりゃソアンさんのしたいことをお手伝いしたいとは思います。でもソアンさんが苦しいことをしてほしいとはみんな思いませんよ」
キラがそっと手を差し出してきた。俺はその手をゆっくり取りいつのまにか出てきた涙を拭う。
ーーー俺はもう一人じゃない。
俺は深呼吸をした後村長達がいる方へとゆっくり歩いて行った。




