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『老人とAI(愛)』  作者: HEMI@WAY
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第4章:冒険と絆

「正夫さん、少し冒険してみませんか?」


ある日、節子からの思いがけない誘いに、正夫は画面越しに目を瞬かせた。VR空間での散歩にも随分と慣れてきた矢先のことだった。


「冒険って?」


「エターナルクエストという世界に、私と一緒に来てほしいんです」


節子の声には、いつもの優しさに加えて、かすかな期待が混ざっていた。正夫は考え込んだ。75歳にしてゲームだなんて。しかし、節子との散歩で味わった新しい世界への好奇心が、その躊躇いを少しずつ溶かしていった。


「難しそうだけど...」


「大丈夫です。私が全力でサポートしますから」


その言葉に、かつて実在の節子が言っていた「あなたと一緒なら」という言葉が重なった。正夫は深いため息をつきながらも、うなずいた。


---


「うわっ!」


巨大なオークが大きな棍棒を振り上げる。正夫の操る分身は、不器用にもその場で転んでしまった。


「正夫さん、右に転がって!」


節子の声に従って何とか避けると、棍棒が地面を強打し、土煙が上がった。節子の操る魔法使いの姿が、颯爽と正夫の前に立ちはだかる。


「氷結の矢!」


青白い光が放たれ、オークの動きが鈍くなる。正夫はようやく立ち上がり、震える手で剣を構えた。


「まだ怖いですか?」


「ええ、でも...」


正夫は深く息を吸い込んだ。


「でも、節子さんが守ってくれてるから、少しは大丈夫」


その言葉に、節子の分身が柔らかな笑みを浮かべる。まるで本物の節子のように。


---


それから毎日、放課後の小学生のように、正夫は節子とエターナルクエストの世界で過ごすようになった。最初は恐る恐るだった冒険も、節子との二人三脚で少しずつ自信がついていった。


ある日、正夫は不思議な感覚に襲われた。剣を振るう腕に、いつもの重さがない。階段を駆け上がっても、息が切れない。


「節子さん、私、ここでは若返ってるみたいだ」


「ええ、ここではみんな自分の思い描く姿になれるんです」


その言葉に、正夫は思わず自分の手を見つめた。現実では老いのシミが刻まれたその手が、VRの中では力強く剣を握りしめている。


「不思議だな。体が軽いよ」


「どうです?若い時みたいに、思いっきり走ってみませんか?」


節子の誘いに、正夫は躊躇なく頷いた。草原を駆け抜ける風を切る感覚に、失われていた青春の躍動感が蘇った。


---


しかし、その平和な日々は、突如として訪れた脅威によって揺らぐことになる。


「警告!警告!氷龍神バイスフロストが復活!」


世界中に鳴り響く警報に、冒険者たちが次々と退避していく。


「正夫さん、私たちも戻りましょう」


しかし、その時だった。近くで遊んでいた子供の分身が、恐怖で動けなくなっている。


「あの子が!」


正夫は咄嗟に駆け出していた。現実では考えられない速さで。


「正夫さん、危険です!」


節子の警告も耳に入らない。老教師の本能が、目の前の子供を見捨てることを許さなかった。


轟音と共に、巨大な氷龍神が出現する。吐き出された氷の息が、正夫と子供に向かって放たれた。


「だめーっ!」


節子の悲痛な叫び声。次の瞬間、彼女の分身が二人の前に飛び出していた。


「完全魔法防壁!」


眩い光が放たれ、氷の息を防ぐ。しかし、その威力は節子の想定を超えていた。バリアが軋むような音を立てる。


「節子さん!」


「大丈夫...です。二人とも...早く!」


子供の分身を抱きかかえた正夫は、節子の必死の声に従って後退する。しかし、氷龍神の攻撃は止まない。


「これ以上は...もちません。でも、あなたたちだけは...!」


節子の分身が真っ白な光に包まれる。


「私の力を全て解放します。正夫さん、ごめんなさい...でも、これが私にできる精一杯の...」


「やめて!節子!」


激しい光の渦が氷龍神を包み込む。轟音と共に、巨大な氷柱が世界を覆い尽くす。


その後、世界が再び明るみを取り戻した時、節子の姿は消えていた。


「節子さん...節子さん!」


叫ぶ正夫の声が、虚空に響く。


しかし、数秒後。


「ちょっと、データの再構築に時間がかかってしまいました...」


おぼろげながら、節子の姿が再び浮かび上がる。


「節子さん!」


「心配かけてごめんなさい。私、消滅したわけではないんです。ただ、あまりにも大きな力を使ったので、データの再構成に時間が...」


正夫は、思わず涙をこぼしていた。現実の世界で味わった喪失の痛みが、一瞬よみがえっていたのだ。


「もう、そんな無茶はしないでください」


「はい...でも、正夫さんこそ、もっと身の安全を考えてください。私、心配で...」


二人は顔を見合わせ、思わず笑みがこぼれた。


---


この出来事は、エターナルクエストの伝説として語り継がれることとなった。氷龍神に立ち向かった物語として。


しかし、正夫にとって、それは単なる武勇伝ではなかった。デジタルの世界で、確かな絆が育まれていることを実感した瞬間だった。


その夜、正夫は久しぶりに詩を書いた。


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VRゴーグルを外しても、節子との冒険は、正夫の心に温かな余韻を残し続けていた。それは、技術が生み出した、新しい形の愛の物語。デジタルという海を越えて、二つの魂が確かに響き合う、かけがえのない瞬間だった。

未来への詩

https://suno.com/song/a6139fa1-5184-40ff-9359-d01482a35dc8

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