いざ、異世界へ
しかしこれだけ色々な事があったのだし、もう余程のことが会ない限り驚かないだろうとタカをくくっていた
だがその時の俺は認識が甘かったのである。その先には突拍子もない驚愕の事実があった事を。
門をくぐるとそこはまごうかたなき異世界であった
門の外側には全身銀色の甲冑を身に付けた兵士が立っており
周りは石造りの頑丈そうな建物で囲まれていた。どうやらここはお城か何かだろうか?
まるで上京したてのお上りさんの様に周りをキョロキョロと見回しながら状況把握に全力を注いでいると
そんな俺の心境を読み取ってくれたのか、リサが俺の疑問に答えてくれた。
「ここは王城の地下よ、最上階には国王様がお見えになる王宮があるわ」
さすがリサ。敬愛なる我が両親と違いキッチリと説明してくれる、ありがたや。
「じゃあ、ここがリサの?」
「ええ私の住む国、バレント王国よ」
真っ暗な門を抜けると、そこは異世界だった……
何て言っている場合ではない。本当に来てしまったのだ。
周りの建物の感じや兵士の身なりを見ても中世のヨーロッパの様なイメージだろうか?
それにしてもこうも簡単に異世界に来られるとは……
「じゃあいくぞ、正樹。国王様に謁見だ」
心の準備もままならぬ中でいきなり王様に謁見とか⁉
そうならそうと最初から言ってくれればこんなラフな格好では来ていない。
王様との謁見にトレーナーとGパンとか、失礼にも程がある。
「ちょっと父さん、王様と会うのにこの格好はマズいだろ⁉
こっちにも家があるのならば着替えてからもう一度来た方が良くないか?」
「家はあるが正樹の着替えは無いぞ?」
そう言われればそうである。俺の父さんはかなりの長身で体格もガッチリしているのに対し
俺は中肉中背、一般的な高校生の標準体型であり父さんの服は全く合わない。
「私の服ならどうかしら?サイズ的には会うと思うわ」
いい事を思いついたとばかりに母さんが提案してきた。
おいおい母さん。いくらサイズが合っても性別が合わないだろ?
そもそも母さんの服の趣味といえばいい年をしてフリフリの服が大好きといういわゆる少女趣味。
初対面の王様の前にそんな恰好で行ったら失礼を通り越して頭がおかしいと思われるのがオチだ。
「男が細かい事を気にするな、行くぞ‼」
何やら男らしいセリフを吐いて階段を上っていく父さん
決して細かい事ではないと思うしここは男らしくよりも人間らしく生きる事が先決だと思うのだが……
まあいい、どうせ俺の常識などこの両親と異世界では通用しないのだ
もう何も考えずにここはお任せで行く事にしよう。
長い石階段を上り俺達東野家とリサは王様の待つ最上階の謁見の間にたどり着いた。
大きな扉を開けるとそこにはズラリと人が並んでいた。
右側には王を守る様に騎士達が並び、左側にはこの国の重鎮と思われる人達が一列に並んでいる。
そして正面には玉座に座っている人物が見えた、シュチュエーション的にあの人が王様なのだろう。
「おお、剣聖殿‼そちらがご子息であるか⁉」
俺達の姿を見るや椅子から立ち上がりニコやかに出迎えてくれた王様。
年の頃は六十代後半といったところだろうか?
白い鬚、背は低くやや太り気味、頭に王冠、手には王笏を持ちいかにも王様と言った風体である
俺達が到着した早々やや興奮気味に話しかけて来たのだ。
それにしても父さんは本当に〈剣聖〉と呼ばれているのだな……
「ええそうですイバノビッチ国王陛下。これが我が息子、東野正樹です、よろしくお見知りおきを……」
王様に紹介され、流れ的に何となく頭を下げた、ついさっき総理大臣に会ったばかりだというのに今度は異世界の王様か……
もう展開が凄すぎて頭が付いて行けず感覚がマヒしてきていた。
それにしても異世界の王様が何でロシア風の名前なのだ?
「それにしてもご子息、正樹殿は変わった格好をしておるのう。
それはそちらの世界での剣を振るう時の格好なのか?」
やっぱりそこをツッコまれたか……
この格好で王様と初お目見えとか非常識にも程がある。
だから着替えをしたかったのだがもはや後の祭りである。もう俺は何もしゃべらず父さんに全て任せよう。
すると父さんは少し困った顔で考え込み謁見の間に謎の沈黙が訪れ空気が段々と重くなる。
何か変だと思ったのか、重鎮達がザワザワと騒ぎ始めた。
だから言ったじゃないか、俺を散々振り回した罰だよ
父さん。剣聖様ならばこのピンチを見事切り抜けてみせてくれ……
そんな俺の思いが通じたのか、ようやく父さんが口を開いた。
「その……この格好は、私達の世界では〈元服〉と言いまして
剣士が一人前と認められたときに身に付ける格好でして……そのつまり……そういう事です、はい」
とんでもなくいい加減な説明、適当な事この上ない。
そもそも今の日本に、元服だの剣士だのそんな儀式や職業は存在しないし、コレはいくら何でも……
「ねえ、今の話、本当なの?」
さすがに怪しいと思ったのか、隣にいるリサが小声で俺に問いかけてきた。
「噓に決まっているだろう、どれもこれも父さんのデタラメさ」
周りの重鎮達もコソコソと話をし始めた、完全に怪しまれている様子だ。
異世界の人でもわかる嘘って下手すぎだろう父さん。王様の前で大嘘とかヤバいんじゃないの⁉
最初は面白がっていたのだが、こんなウソがばれたら打ち首とかギロチンとかあるんじゃないの?知らないよ、俺は……
だが、イバノビッチ国王は嬉しそうに笑みを浮かべて大きく頷いたのである。
「そうであったか⁉それは、それは、ではその正樹殿が二代目の剣聖という訳であるな。
大変な役目だと思うがよろしく頼むぞ‼」
何だかわからんが嘘が通じて事なきを得た様である。
周りの重鎮達も納得がいかないといった表情を浮かべていたが、上機嫌の王様に水を差す様な事はせず
バラバラと拍手をし始めた。何だかわからんが助かった……でも剣聖二代目?俺が?
こうして異世界の王様とも面会を済ませた俺達は城を後にした。
馬車に乗せられそのままこちらの世界の〈東野家〉に向かった。
馬車を走らせる事約ニ十分で目的地へと到着する。と言うより自宅へ帰って来たという事になるのか?
俺にとっては初めて来た家だが……
「でっかい、そして広い⁉」
こちらの世界での〈東野家〉はとにかく広くてデカかった。
白を基調とした壁に西洋風の建物、その雰囲気といい、内装といい、昔のヨーロッパの貴族の家に酷似した様相を呈していた。
「これがこちらの世界のわが家だ。中々のモノだろう?
ここは王都の中心地でありながら地価は栃木県並に安い上に固定資産税も払わなくていいのだ、お得だろ⁉」
何という発言だ、折角の世界観もハイソでセレブな気分も全てが台無しのセリフである。
「そういえば母さん、俺まだ夕飯食べていないんだ、何かない?」
少しホッとした途端、急にお腹が空いて来たのだ。
「わかったわ、何か用資する……そうだ、リサちゃん、お父さんも呼んで皆で食べましょうよ。
二人の婚約祝いも込めて、結納っていうのだっけ?丁度いいわ」
結納というのは何かのついでに行うものでは無いと思うのだが……
そういえば母さんは元々こちらの人間だっけ?昔から常識知らずというか世間ずれしているのもこれで納得いった。
だが父さんは間違いなく日本人のはず……まあいいや、どうせ考えるだけ無駄なのだろう。
「わかりました、父上には魔法で伝言を飛ばしますからちょっと外に行ってきます」
リサはそう言って外へと出て行った。こちらではメールやラインの代わりに魔法で伝言を送るのか?
そんな事を思っていた時、ふとある事を思い出した。
「ねえ母さん、さっき安田総理が言っていたけど、母さんにはお姉さんがいたの?」
俺がその質問をした瞬間、母さんと父さんの顔が強張った。アレ?聞いちゃいけない質問だったかな?
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