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ファントム

慌てて入って来た父さんは何やらひどく慌てている様子だった。


「二人で話しているところをすまない、緊急事態だ‼︎」


 何事だろうか?呆気に取られている俺たちは思わず顔を見合わせた。


「事情は移動しながら車の中で説明する、急いでくれ‼︎」


 俺たちは事態を把握できないまま、車に乗り込み移動を開始した。


窓から見える東京の夜景がとても美しい、そんな光景を車の窓からリサが目を丸くして食い入る様に眺めていた


リサがいる世界には車とか夜景とかないのだろうか?


そんな素朴な疑問を抱えていると運転していた父さんがようやく口を開く。


「正樹、リサちゃん、今の君達は事態が把握できなくて困惑している事だろう。


無理もない。だが今から話す事をよく聞いてくれ、荒唐無稽な話に聞こえるかもしれないが、全て事実だ」


 真剣な口調で仰々しい前置きを聞かされ思わず身構える俺とリサ、一体なんの話だろうか?


「今俺たちがいる世界とリサちゃんが住んでいる世界は別であるということは聞いたよな?


現在日本政府とバレント王国では平和的な友好条約を結んでいるのだけれど


その中で最重要なのが【対敵性安全保障条約】だ。平たく言えば〈お互いの敵を助け合って倒そう〉というものだ、わかるな」


 正直何を言っているのか理解しがたいが、ここで流れ的にわからないとは言えないし


早く肝心な事を知りたいという気持ちもあるので、とりあえず頷いておいた。


「今から約二十年前、アナザーゲートというモノが突如発生し


この日本とバレント王国とをつなぐ異世界ゲートが開かれた。そのおかげでお互い様々な文化交流や技術交換が行われた。


日本からは科学、バレント王国からは魔術といったまるで違う技術を交流させることによってお互い発展をとげ


いわゆるウインウインの関係になっていた



だがそれと同時にとある問題が発生し始めた。


この日本では〈未確認霊的敵害生命体〉、通称【ファントム】と呼ばれる正体不明の化け物が出現し始めたのだ。


その発生原因や生態は謎に包まれており一切不明、ファントムは突然発生して見境なく暴れるという厄介な代物だ。


しかも奴らには通常の武器は効かない、警棒だの拳銃だのといった物理的な攻撃は全て無効化されてしまうのだ。


奴らに唯一対抗できるのは陰陽師や神父といった霊的能力を持つものだけ。


しかし彼らの力を持ってしても動きを止めるのがやっとというのが現状なのだよ。


力の弱いファントムならばそのまま封印することもできるが


力の強いファントムに対しては時間稼ぎしかできない。


そこで白羽の矢が立ったのがバレント王国の魔法使いというわけだ」


 魔法使いというワードにビクリと反応するリサ、どうやらようやく話がつながってきたぞ。


「もしかして、私はそのために呼ばれたのですか⁉︎」


「ええ、その通りよ、さすがリサちゃん、話が早くて助かるわ」


 にこやかに微笑む母さんだが当然リサは納得できないといった表情を浮かべていた。


それも当然だろう。何の説明もないまま連れてきておいて


いきなり正体不明の怪物と戦えとか、我が親ながらひどい話にも程がある……


「そんな……無理ですよ‼、私はまだ正式に魔法使いに認定されたわけではないし


そもそもそんな化け物相手に魔法使いの戦闘力でどうこうできるとは思えません‼」


 リサは必死に訴えたが俺はその言葉に違和感を覚えた。魔法使いの戦闘力では無理?


 どういう事だ?魔法使いといえばゲームや漫画ではバンバン派手な魔法をぶちかまして敵を倒していく花形職じゃないか⁉︎


もしかしてバレント王国の魔法使いって弱いのか?


 不安げな顔を浮かべるリサに対し、ゆっくり首を振り、なだめるように諭す母さん。


「大丈夫よ、リサちゃん。あなたは私の教え子の中でもとびきり優秀な生徒だもの。


そしてこれは卒業試験よ、これが終了したらあなたを正式な魔法使いに認定してあげる。


だから頑張って、いざとなったら私がフォローするから精一杯やってみなさい‼︎」


「わかりました……先生がそうおっしゃるのでしたら……」


 母さんの言葉に納得はできないが渋々承諾した感じのリサ。


何だか彼女が可哀想になってきて、俺は思わず運転中の父さんに小声で問いかける。


「ねえ父さん、もしかして魔法使いって、弱いのか?」


 すると父さんは上を見上げ、少し考えるそぶりを見せた。


「そうだな、どう説明すればいいやら……あちらの世界


つまりバレント王国での魔法使いは戦闘においてはあくまでも補助的な役割だ。


仲間の肉体的な強化、防御、治癒、支援、牽制、援護、探査などがメインで基本戦闘に直接介入することは少ない


だがそれはあくまであちらの世界での話だ……」


「何だよ、その含みのある言い回しは?」


「まあ、話すよりも見た方が早い。百聞は一見にしかずというだろう?」


  父さんはそう言いながらニヤリと口元を緩めた。


出たよ、また訳のわからない秘密主義というか、俺の反応を見て楽しむつもりなのだろう。


どう見ても空気的にはそんな事をやっている場合じゃないと思うのだが……


考えてもわからないし聞いても答えてくれないのだから、もう考えない事にしよう


【剣聖】殿には何か深いお考えがあるのだろう、知らんけど……


 俺と父さんが声を潜めて話している時、母さんはリサに話しかけていた。


「いいリサちゃん、これから私が言うことをよく聞いて。


今からそのファントムとの戦闘が始まるけれど、何があっても動揺してはダメよ。


あなたは頭もいいし魔法使いとして申し分のない才能を持っているけれど


感情の起伏が激しくて魔法の効果にムラがあるというか、安定しないのが唯一の欠点よ。


そういう意味では今回は絶好の相手という訳よ、それを心に刻んで戦いなさい」


「あの先生、それってどういう意味ですか?」


 母さんが何をいっているのか理解できない様子のリサ。


そのまま流れでききかえしたのだが、母さんはニコリと微笑むだけであった。


「それは後のお楽しみね⁉︎」


 もちろんリサは唖然としている。今から実戦だというのに状況説明の助言どころか事実上のゼロ回答なのだ。


母さんは一体何を考えているのだろうか?もしかして父さんと母さんは、俺達に手の込んだドッキリを仕掛けたとか⁉︎


正直、今でも異世界とか正体不明の敵とか信じきれないでいるのは確かだ。


しかしいくら何でもドッキリにしては大掛かりすぎるし


リサ自身も異世界人で魔法使いを目指しているといっているのだからこの期に及んでリサまで騙す必要はないはずだ。


そう考えると父さんや母さんが言っている事は真実だと考えた方がいい。


そうであれば必然的にリサに対して何か凄く申し訳ない気分になった。


リサにしてみればいきなり異世界に連れてこられて見ず知らずの男が婚約者だと言われ


その上いきなり正体不明の敵と戦えと命じられたのだ。


俺と同じ十七歳、こちらの世界ならまだ女子高生だ


そう考えるといたたまれない気持ちになる、ウチの馬鹿両親が本当にすまない……


現場は港の埠頭、いくつものコンテナが並び重ねられている場所であった


すでに幾人かの警察が駆けつけており、関係者以外は立ち入り禁止となっている。


現場に到着すると素早く車から降り駆け出す父さんと母さん、俺達も父さんたちに続く。


「ここは関係者以外立ち入り禁止だ、危険だから離れなさい‼」


両手を広げ、現場に入ろうとする父さんを強い口調で静止する警官達。


「私は〈ファントム対策チーム〉、【FMT】の者だ、ここを通してくれ」


「し、失礼しました。どうぞ‼」


父さんの一言で警官の態度は一変し、背筋を伸ばして敬礼をした。


どうやら一般的には報道されていないだけでファントムの存在は警察や政府機関では周知の事実という訳か……


俺達は立ち入り禁止のテープをかいくぐり中へと入って行く。


夜の埠頭は特に明かりも無い為に薄暗く、気味悪さを感じさせ微かな波の音と磯の匂いが鼻をつく。


現場に近づくにつれザワザワとした人の気配がしてきて、近くで戦闘が起きている事をいやでも感じさせた。その時である。


〈グモ―――‼〉という唸り声の様な音が聞こえてきて俺とリサは思わず身構えた。


「な、何ですか、今の音は⁉ダークベアーの断末魔みたいな声でしたけれど……」


 リサの顔に恐怖が走る。無理も無い。十七歳の女の子には酷な話だ。


「大丈夫、リサちゃんなら余裕よ。私を信じなさい」


 こちらは緊張感のカケラも見えない我が母親。何をもって大丈夫と言っているのかは知らないが俺の経験上


母さんの大丈夫は半分以上大丈夫じゃなかった記憶がある。

もちろんそんな事はとてもリサには言えないが……


いよいよ現場に到着すると袈裟を着た数人のお坊さん風の人と神父さんらしき人が二人いて



数珠や十字架を掲げながら何かを取り囲む様に円陣を組んで奮闘していた。


「何だよ、アレ……」


その人たちが取り囲んでいたモノとは、体が半透明の人型の化け物であった。


体長は3m以上あり、フワフワと不気味に揺らめきながら動いている。


その姿はまるでクラゲを人型にして巨大化させたかの様な異様な風体であった。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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