この笑顔の為に
「ねえ正樹、どういう事なの?」
母さんが事情説明の為に俺から離れて皆の所へ行った後
俺とリサの二人だけになった時、事情が飲み込めないリサは近づいてきて小さな声で問いかけてきた。
「ああ、実は……」
俺は包み隠さずリサに事情を話した。俺は母さんの本当の子ではない事、それを知ったのはつい最近だという事
そして俺を心配する本当の母親の思念が先ほどの巨大なファントムの正体だという事を。
「そう、そうだったの……」
リサも流石に驚きを隠せない様子だったが、すぐさま優しく語り掛けてくれた。
「でも死んでまで子供の事を思うって……母親の愛って凄いね、愛されていたんだ、正樹」
少しイタズラっぽい口調ながらも優しい目でこちらを見てくるリサ
その瞬間何だかよくわからない感情がどっと押し寄せて来た、何だ、これ⁉︎
「あ〜あ、どんな形でもいいから私ももう一度ママに会いたいな……」
そんな俺の気持ちを知る由もないリサはふと夜空を見上げそう口走った。
そうだった、リサと純平の母親は小さい頃に病気で亡くなっていたのだ。
そんなリサの姿を見て益々おかしな感情が湧き上がってくる、心臓が高鳴り体温が上昇していくのがわかる。
おかしいぞ、俺は美穂ちゃんが好きなはずだろ⁉︎なぜリサにこれほどドキドキする、静まれよ、俺の心臓‼
そう思えば思う程頭が正常な働きをできずに益々困惑する。
何だ、コレ⁉︎何だ、コレ⁉何だ、コレは⁉
その時俺の頭にある事が浮かんだ、そうだ今この瞬間にあの質問を聞けばいいじゃないか。
そもそもリサの好きなのはロイド先輩なのだ、ずっと聞けなかったあの質問を今ここでして
俺がキッパリとリサにフラれてしまえばこのおかしな感情に振り回されることはなくなるはず
すべて解決万々歳、ノープロブレムの無問題だ、よしいい機会だ、今こそ‼︎
「なあ、リサ、聞きたい事があるのだが……」
俺は意を決して切り出した、もちろんあくまで重くならずさりげなく聞くことを精一杯心がけながらである。
「何よ、改まって?」
リサが不思議そうな目でこちらを見て来る。
「いや、その……そんな事絶対にないとわかっているのだが……リサ、お前、俺のことを好き……とか無いよな?」
何とも言えない微妙な言葉選びになってしまったがようやく聞けずにいた質問を
リサにぶつける事ができて少し安心する俺。これでキッパリとフラれれば全てが……って、あれ?
その時、俺は信じられない光景を見た。リサは両目を見開き、顔を真っ赤にしながら小刻みに震えているのである。
完全に固まりながら耳まで赤くなったリサの態度は明らかに普通ではない。
おい、ちょっと待て、この反応はまさか……嘘だろおい⁉︎
正直俺だって少しも期待していなかったわけではない、でも流石にそれは無いだろうと思っていたし
何より俺は美穂ちゃんが好きだったからだ……あれ?好きだった???
明らかに挙動不審だったリサは俺から視線を逸らすように突然背中を向けると声を震わせながら返事をした。
「な、な、なんでそんなこと聞くのよ?」
「いや、その……もしかしてって……」
こちらも激しく動揺していた為に返答にもならない返事を返すとその後リサは背中を向けながら沈黙した。
何だかわからないが微妙で重苦しい沈黙が俺たちの間を漂う
その訳のわからない静寂は俺に喉の渇きと息苦しさすら感じさせた。
時間にして十秒程だったのだろうがとてつもなく長く感じた、多分リサも同じだろう。
しばらくそんな悠久の時を共有した俺達。するとリサは何かを吹っ切ったのか、沈黙を破るように会話を再開した。
「ええ、そうよ、私は正樹の事好きだけど……悪い?」
「えっ⁉いえ、悪くは無いです……て、いうかありがとう。でもお前、ロイド先輩の事が好きじゃなかったのか?」
「乙女には色々あるのよ……でも正樹は美穂が好きだって事知っているし気にしなくていいわ」
どうやらリサも俺と同じくフラれる前提で話しているようだ。
「男にだって色々あるんだよ」
俺は少しすねたような口調で言った。
「それどういう事よ?」
くそっ、リサの方から好きだっていってくれたというのに、俺もお前が好きだということが言えない
とにかくめちゃくちゃ恥ずかしい、何だよこれ⁉世の中の彼女持ちの男どもはみんなこの試練をくぐり抜けて来たのか⁉︎
世の中どれだけ強者揃いなのだよ。
しかしここでヘタレていたら流石に男としてかっこ悪すぎるぞ俺‼︎
「お、俺もリサの事が、その……」
くそっ、恥ずかしくて切り出せない、死ぬほど情けないぞ、俺‼︎
「何?」
背中を向けながら少し苛立ち気味に問いかけてくるリサ、どうしてお前がキレ気味なのだ?
女心というのは本当にわからん。え〜い、もうどうにでもなれだ‼︎
「俺もお前の事が好きだって言っているんだ‼︎」
俺がようやく吐き捨てる様にこくはくすると今まで背中を向けていたリサが驚いた顔でこちらに振り向いた。
「は?だって、正樹は美穂の事が好きだって言っていたじゃない
美穂もまんざらでもなさそうだったし……もしかして美穂にフラれたの?」
「いや、そんな事ないよ。逆に付き合ってくれって言われた……」
「じゃあ何で付き合わないのよ?」
「お前の事が気になっているからに決まっているだろうが、それぐらいわかれよ‼︎」
今度は俺がキレ気味に返してしまった、完全な逆ギレというやつである。
「何でキレているのよ、アンタ本当に私の事が好きなの⁉︎」
「だからそう言っているじゃねーか‼︎」
俺がそう返すとリサは真っ赤な顔で目を丸くしながら口をつぐむ、そして再び背中を向けた。
「そうなんだ……へえ〜、アンタ私の事が好きなんだ……」
どうにか感情を表に出さないように頑張っているリサさんだったが
震えている声の端々から喜びの感情を隠しきれない様子がうかがえる
それは表情も同様で口元のニヤけ、目じりの緩みがどうにも表に出てきているのだ。
そんな様子を見せつけられるとか反則だと思う。
リサは見た目だけでなく態度も性格も本当に可愛い、最高じゃねーかコイツ。
そう考えるとなぜか急に笑いが込み上げてきたのだ。さっきまで泣いていた俺がその笑いを抑えきれず思わず笑った。
「あはははははは」
「何がおかしいのよ⁉︎」
突然笑い始めた俺に違和感を覚えたのだろう。少し苛立ち混じりの口調で聞いてきた。
「いや、悪い、別にリサを笑ったわけじゃねーよ。でもお前みたいないい女がどうして俺を?
言っておくが俺は女の子と付き合ったこともなければ好きですと告白されたこともない
ロイド先輩と違ってあまりおすすめ物件とは言えないぜ」
完全に開き直った俺は堂々と自分の無価値ぶりをプレゼンした。
美穂ちゃんに〈付き合ってみない?〉と言われた事はあったが好きと言われたわけではないのでこの際それはノーカウントとした。
「そうなんだ……誰とも付き合ったことも告白されたこともないんだ……へえ〜」
ニヤニヤしながらもこちらを覗き込むように見ているリサ。
何だろう、本来腹立たしさを感じてもいいこんな仕草ですら可愛く見えるのだから
今の俺は完全に正常な判断力を喪失しているとい事なのだろう、恋は盲目とはよく言ったものである。
「仕方がないわね、じゃあ私が正樹の初めての彼女になってあげるわ」
弾けるような笑顔でそう言った彼女の姿はまるで天使のようであった。
俺はこの時の笑顔を一生忘れる事はないだろう。
父さん達の思惑通りにはまってしまったわけだがもうそんなことはどうでもいい
理屈じゃない、それほどまでに俺はリサに惚れてしまったのだ。
俺はこれからもこの歪な二重生活を送っていくことになるのだろう。
世界の平和を守る覚悟とか人類の命運を握っている責任とか未だに全然ピンとこないが
このリサの笑顔だけはどんな事をしても守りたいと思った。その為に俺はこれからも剣を振り続けるのだろう。
この作品は主人公たちが現実世界と異世界の両方を行き来するという設定で書いたものです。最近ではわりとありがちな設定だとは思いますが、一度書いてみたかったので……というのが偽らざる本音です。私の他作品でもありがちなのですが、私はリサのような女の子が大好きなので100%私の好みでリサをヒロインとして書きました。それと姫乃樹美穂をなるべく嫌な子にしないでおこうと努力したつもりですが美穂やエミリも気に入ってもらえると嬉しいです。〈男どもはスルーで〉。また次回作も投稿しますので、また見ていただけたら幸いです。
次作も投稿していますので良かったら読んでください。では。
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