巨大ファントムの正体は
「くそっ、何てデカさだ。この場から移動しないでいてくれるのはありがたいが……」
父さんがボソリと呟いた。俺たちは急いで巨大ファントムに近づいていく
すると十数人の退魔士の人たちがファントムの周りを囲んでいるのが視界に入って来た。
皆険しい表情を浮かべ大声で叫びながら巨大ファントムに対峙している姿が事の重大さを如実に物語っている。
誰もがファントムの動きを抑えようとし必死で食らい付いていたがその思いとは裏腹にかなり苦戦している様だった。
「なんて奴だ、まるで動きを封じられない‼︎」
「もの凄い力だ、今までの奴とは桁が違うぞ」
歯を食いしばり額に汗を滲ませながらも必死で押さえ込もうとしている退魔士の人達を尻目に
それらをまるで意に介さない巨大ファントム。
その見た目にそぐわないお坊さんや神父さんの必死の形相とただならぬ緊迫感が事の深刻さを示していた。
「大丈夫ですか、皆さん‼︎」
父さんが声をかけると退魔士の人達の顔がぱっと明るくなる。
「おお東野さん、やっときてくれましたか⁉︎」
「待ちくたびれましたぞ」
「我々では足止めすることもできませんでした、あなた方に頼りきりで申し訳ないがよろしくお願いします」
少しホッとしている退魔士たちの言葉に父さんは小さく頷いた。
「ここからは我々にお任せください、マヤ、リサちゃん、頼んだぞ‼︎」
「ええ、任せて‼︎」
「はい、頑張ります‼︎」
父さんの言葉に力強く答える母さんとリサ、二人はすでに魔法の準備に取り掛かっていた。
「リサちゃん、まずは二人で雷撃系の魔法を食らわせるわよ」
「はい先生、ぶちかましてやりましょう‼︎」
二人の周りに雷の精霊が集まりどんどん魔力が収束していく。肌がピリつき、背筋が寒くなるような様な感覚。
俺は思わず息を飲みその行く末に注目し退魔士の人達も縋るような目で二人の行動を見守っていた。
「ギガンテックボルト‼︎」
母さんとリサが同時に叫ぶ。〈ドカーーーン〉という爆発音と共に二人が放った雷撃魔法は
夜の埠頭に巨大な落雷となって現れた。
まるで神の鉄槌が如き凶悪な雷撃は光と音の暴力となって辺りを真っ白な世界へと誘う。
爆音を伴いながら目標に直撃した雷撃の衝撃は同時に爆風を巻き起こし大量の砂煙が舞い上がる。
凄まじい光によって見ていた者達の目はチカチカし本来の機能を放棄してしまい
そのあまりの轟音に耳までもが正常の機能を果たさないほどである。
落雷による爆風と衝撃で周りの視界はほぼゼロになり目の前にいる巨大なファントムですらどうなったか判らない状態だった。
「どう、やった⁉︎」
リサが思わず口走る。よほど手応えがあったのだろう、見ている俺たちすら衝撃的な光景だったからだ、その時である。
「避けて‼︎」
まだ視界の悪い中で母さんの叫び声が響き渡った。
「えっ⁉︎」
何が起こったのか判らないリサは呆気に足られ立ちすくむ。
次の瞬間リサの前に母さんが立ち塞がり防御魔法のシールドを展開した
その瞬間、防御シールドをファントムの巨大な拳が直撃した。
「がはっ」
防御シールドごと吹き飛ばされる母さん、奇しくも母さんが盾になる形で割り込んだために
リサは無傷で済んだが吹き飛ばされた母さんはかなりのダメージを負った様で地面に蹲りながら起き上がれないでいた。
リサは目の前で起きている一連の出来事に頭がついていかないのか呆然としている。
「何、何が起こったの?」
段々と視界が戻ってくると巨大なファントムが徐々にその姿を表す
あれほどの凄まじい雷撃を喰らったのにもかかわらず巨大な厄災は何事もなかったかのようにそこに立っていたのだ。
「無傷?あの雷撃魔法を喰らってノーダメージって嘘でしょ⁉
私の得意なギガンテックボルト、しかもマヤ先生との合体魔法なのよ、それを……」
あまりに予想外の結果に呆然と立ちすくむリサ。しかし巨大ファントムはその後
攻撃を仕掛けてくるわけでもなく何故かそこに止まりながらキョロキョロと辺りを見回していた。
「何だ、このファントムは……何かを探しているのか?」
父さんは巨大ファントムの不可解な行動に目を細める。
巨大ファントムの拳によって吹き飛ばされた母さんは気を失ってはいないもののそのダメージでまだ起き上がれないでいた。
「大丈夫か、母さん‼︎」
俺が声をかけると母さんはゆっくりと顔を上げ無理やり笑顔を作って答えた。
「だ、大丈夫よ、正樹ちゃん……ちょっとびっくりしただけ、心配ないわ」
明らかに強がりとわかる言葉だったが俺は何も言葉を返すことができなかった。
そして次の瞬間、巨大ファントムは狙いを変えたのかゆっくりとリサに近づいていく
あまりの恐怖で固まってしまうリサ、顔から血の気が引きガタガタと震えている。
その時、俺は反射的に動いていた。持っていた竹刀を構えてリサを守る様にファントムの前に立ち塞がったのだ。
「俺が相手だ、このクソファントムが‼」
俺は自分を奮い立たせるように叫んでいた。だがこの戦場において俺は全く役に立たない
リサや母さんの魔法でさえ効かない相手に竹刀で立ち向かうとか自殺しに行くようなモノである。
しかし俺に迷いはなかった、怯えるリサを見ていたら体が勝手に動いたのだ。
勝ち目のない戦いを挑みながら俺は目の前の巨大な脅威を睨みつけた
すると今まで暴れまわっていたファントムの動きが急にピタリと止まったのだ。
一体何が起きたのかまるで状況がつかめない為に誰もがファントムの不可解な行動を見守る。
動きの止まったファントムはジッと俺の方に視線を向けたのである。
「な、何だ?急に……」
ファントムに見つめられた俺はどうしていいか判らない
無機質で温かみの無い目がジッとこちらを見てくる光景に思わず背筋が寒くなる。
そんな俺の心情を無視するかのようにファントムは何をするでもなく動きを止めたまま俺の事を凝視していた。
突然の事で頭が混乱しその場で硬直してしまい動けない。
周りの者達も警戒を強めファントムの一挙手一投足に注目している。
するとしばらくジッと俺を見ていた巨大ファントムが真上を向くと天に向かって咆哮を始めたのだ。
「ウウォーーーーン‼︎」
この甲高い叫び声は夜の埠頭に響き渡り東京中に聞こえるのではないかというほどの音量で周りに拡散していく。
「何て声だよ‼︎」
あまりの音量に俺たちは思わず両手で両耳を守ように音を遮断しようと試みる
しかしそんなことはお構いなしに悲痛とも思えるファントムの方向は俺達の鼓膜を襲った。
「これは音響攻撃だとでもいうのか⁉︎」
父さんが吐き捨てるようにつぶやく、もちろん周りの人には聞こえていない
だが次の瞬間俺の頭の中に女の人と思える声が飛び込んできた。
〈マサキ……〉
確かにそう聞こえた。何だ、これは?まさかファントムが俺の事を、いやそんなはずは……
十秒ほど叫んでいたファントムは咆哮を止め再びこちらをジッと見つめてきたのである。
「今、確かに聞こえた……このファントム、マサキって俺の名前を呼んだ」
俺は今起こった不可解な事実をそのまま父さんに報告すると父さんは驚いた表情でこちらを見た。
「何だと⁉︎どうしてファントムがお前の名前を……はっ、まさか⁉︎」
それを聞いた父さんは驚愕の表情を浮かべ目の前の巨大なファントムを見上げた。
「田沼さんの推理では魔族は殺された人間の未練や心残りが怨念の形となって具現化したのだと言っていた
そしてその力は生前の人間の力に比例するとも……
報告書で見たところ魔族と化した人間は全員男だった。
もしその理屈がファントムにも当てはまり殺された男が魔族に、そして女がファントムになるのだとしたら……」
父さんの独り言のような言葉だったが母さんもすぐにその意図に気がついたようで
唇を震わせながらファントムをマジマジと見つめた。
「じゃあまさかこのファントム、姉さんなの?」
衝撃の事実を聞かされ俺は思わず言葉を失ってしまった。
父さんと母さんの推理が正しければこの目の前にいる巨大なファントムの正体は俺の本当の母親ということになるのだ。
「嘘だろ……」
俺は思わずつぶやいた。
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