問題の原因と勇気ある決意
それから二日後、田沼のおじさんは例の報告書を自らの手で持ってきた。
俺たちも同席する中でその報告書をマジマジと見つめる父さんと母さん。
だがそこに書かれていたのは衝撃的な内容だったのである。
「何という事だ……これは事実ですか⁉︎」
「こんな事って、魔族の正体が……」
報告書を見た父さんと母さんは言葉を失っていた。気になった俺達もその報告書に目を通す
そして衝撃的な事実を知ったのである。そこにはこう書かれていた。
〈急増した魔族の正体は魔族やファントムとの戦いで命を落とした者達の無念や心残りが実体化して怪物化したモノ
そしてその者のレベルに応じた強さの魔族へと変貌すると推測される〉
「これって……魔族の正体は死んだ人間の魂という事か?」
「じゃあ正樹が聞いたマリアって声は……」
おじさんは無言でコクリと頷いた。
「今から十八年前、当聖騎士団の隊員で将来を嘱望されていたマクシミリアンという若者がいたのですが
そのマクシミリアンは魔族との戦いで不運にも命を落としました。当時彼には婚約者がいましてその女性の名前が……」
「マリア、という訳ですね」
おじさんは再びコクリと頷いた。
「じゃあ今までの魔族も?」
「ええ、当時死んで行った騎士や戦士の強さが魔族の強さに比例すると考えるとかなりの確率で当てはまるのです。
そもそも本来魔族は縄張り意識が強い分あまり人里には降りてきません。
にもかかわらず近年人の地に魔族が現れる様になった原因は人間だった頃の記憶がどこかに残っているのか
それとも執念や未練がそうさせるのか……いずれにしても死んだ者達の魂がそういった行動を取らせるのでしょう」
とんでもない報告を聞いた父さんは唇を噛み締め、母さんは悲痛な表情で俯いた。
「このことを総理や国王陛下には?」
「まだ報告しておりません、まずは東野さんに見ていただいてどう思うか検証してもらおうと思いまして」
重苦しい空気が辺りを包み込み誰も言葉を発しようとはしなかった。
そんな空気に耐えきれなくなったわけではないが俺は気になったことをおじさんに聞いてみる。
「ねえおじさん、今ほどではないけれど魔族との戦いは昔からあったのだろう?
でもその頃は人間の魂が魔族になってしまうなどということは無かったのだよね?
どうして急にそんなことになったのですか?」
俺の質問におじさんは神妙な面持ちで答えた。
「おそらくアナザーゲートの影響だろう。
ファントムの発生時期もアナザーゲートの出現時期にピッタリと符合するし、まず間違い無いだろう」
おじさんは険しい表情を浮かべながら静かに語った。
「だったらアナザーゲートを封印してこれ以上魔族やファントムの出現を抑える方がいいじゃないか。
大勢の被害が出てからじゃ遅いだろう」
だがそんな俺の意見を否定する様に父さんが首を振った。
「今、アナザーゲートを封印したとしても本当に魔族やファントムの大量発生が収まるのかわからない。
そんな不確定な状況では両政府はそんな決断を下さないだろう」
「でも大勢の被害者が出たらそんな事を言っていられないだろう⁉︎
日本とバレント王国の国交が途絶えるのは残念だけれど
人の命には変えられないと思う、ここは一度試してみてもいいじゃないか‼︎」
俺は必死で訴えたが、父さんもおじさんも思い詰めた表情で俯いた。
「もう今となっては無理だ、今やバレント王国の医療体制に日本の医療技術が欠かせないものとなっているし
日本側にしても今抱えているエネルギー問題は深刻だ。
まだ大した被害が出ていないこの状況で両国の国交を断絶することになるアナザーゲートの封印を決行するとは思えない……」
元々父さんもおじさんも日本政府の人間だから、上の意向には逆らえないということか……
「ちぇっ、大人の事情ってやつかよ……そのせいで大勢の人が死んだらどうするつもりだよ」
俺はやりきれない気持ちでつぶやいた。
「そうしないために我々は戦うのだ。日本の医療は大勢のバレント国民を救っているし
バレント王国からもたらされた魔力発電は日本の家庭の経済を支えている。
それによって助かっている人間はたくさんいるのだ。わかってくれ正樹」
長年謎だった魔族の大量発生原因が判明し一歩踏み出した俺達だったが、どうにも釈然としない結末となった。
その翌日、ファントム問題とは別に俺の中では大きな問題が解決できていなかった。
ようやく普通の会話ができる様になってきた俺とリサだったが、俺はまだ肝心な事を聞けずにいたのである。
「くそっ、どうして一言聞くぐらいのことが出来ないんだ、とんだヘタレだな、俺は‼︎」
自分自身に対して怒りが込み上げてくるがそんな事で問題が解決する程世の中甘く無い。
美穂ちゃんからも〈お返事まだですか?〉という催促のメールが来てしまったし
これは何としても早く確かめなければ……しかしここまで引き伸ばしてしまうと、何かきっかけが欲しい。
「そもそも二人きりになれる時があまり無いからなあ……」
日本の高校でもリサとは同じクラスなのだがリサの周りにはいつも大勢の女子がいて常にワイワイと楽しそうに話している。
そこに強引に割って入って〈リサ、ちょっと話があるから来てくれ〉とはとても言えない
もしも俺にそんな勇気があるのならばもっと早く美穂ちゃんとお近づきになっていただろう。
部活終わりの帰り道とかが一番いいのだろうが、そこには純平とエミリがいる。
最近この二人は妙に俺とリサの事をニヤニヤしながら生暖かい目で見ている気がして話を切り出す勇気を持てないのだ。
「しかしいつまでも美穂ちゃんを待たせておくのも悪いし、何と言っても情けない。
よし、今日こそは聞くぞ‼︎そもそもリサが俺のことを好きとか有り得ないし
サラッと聞いてキッチリとフラれればいいだけの話じゃないか⁉︎」
自分を言い聞かせるように決意を固める。もしかしてリサが本当に俺の事を……
という思いを無理やり打ち消し、今日の部活終わりの帰り道で聞いてみることにした。
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