秘密の同盟
「ねえ、あなた……名前何だっけ?」
「東野正樹だ、呼び方は正樹でいいよ」
「じゃあ正樹、あなた彼女とかいないの?」
何だ、その質問は、急に合コンみたいになってきたぞ⁉︎とはいえ合コンとか行った事ないからよく知らんけど……
「俺は、彼女はいないけれど……その、君はどうなのだよ?」
「私も呼び方はリサでいいわ……私も彼氏はいないけれど、その困るのよ……」
リサは目線を逸らし言葉通りの困った顔でボソリと言った。
「困るって、何が?」
「その……私、好きな人がいるの、そりゃあマヤ先生には凄くお世話になっているけれど
いきなり見ず知らずの男の人と婚約者とか言われても困るのよ……だから……」
何だ、異世界の伯爵令嬢で魔法使いを目指しているとか聞いたからどんなお嬢様かと思っていたけれど
この子も普通の女の子じゃないか、何だか少しホッとした
安心した途端、緊張感が解けたのか何故だか急に笑いが込み上げてきて俺は大声で笑ってしまった。
「ハハハハハ、そうか、好きな人か、ハハハハハ」
突然笑い始めた俺の姿に最初は呆然としていたリサだったが、ふと我に返ったかの様に怒り出した。
「何がおかしいのよ‼︎」
「いや、ごめん、ごめん、別にリサの事を笑った訳じゃないよ
異世界とか魔法とか聞かされて戸惑っていたけれど、リサも普通の女の子なのだなって思ったら、ちょっと安心してさ」
「何よ、それ、やっぱり私のことを馬鹿にしているじゃない?」
「そんな事ないよ、人を好きになるっていいことじゃないか
実は俺も今好きな人がいてさ、立場的には全くリサと同じというわけさ
俺も婚約者云々の話を聞かされたのも今朝だしね」
「そうなの?」
「ああ、だからリサの気持ちは痛いほどわかるしその恋も応援するよ。
そもそも今時見ず知らずの人間と婚約とかあり得ないだろ。
盛り上がっている大人達には悪いけれど、俺たちは俺たちだ、親の道具じゃない。
親達をどう説得するかはまだ何も考えていないけれど、それはこれから二人で考えようぜ
だから俺たちは婚約者ではなく協力者となるというのはどうだ?」
するとリサはようやく厳しかった顔を緩め、クスリと笑った。
「正樹、あんた思ったよりいい奴ね、少しは見直したわ。じゃあこれからどうするか二人で考えましょう‼︎」
リサは微笑みながら右手を差し出してきた、女子の手を握るのは中学校時代の臨界学校以来だ。
そっと彼女と握手を交わすと何とも言えない感触が手から伝わってくる
柔らかい……女の子の手って、こんなに柔らかいモノなのだと改めて思い知った。
「やっぱり男の子の手って違うのね、大きくて硬くて、ゴツい感じがするわ
父上以外で男の人の手を握ったのはあなたが初めてよ、正直最初の相手が正樹っていうのがちょっと不本意だけれどね」
そう言ってリサはイタズラっぽく笑った、その天使か小悪魔のような笑顔に眩しさすら感じる
やっぱりコイツ可愛いな……俺の心の中に姫乃樹さんがいなければ、惚れていたかもしれない
こうして俺たちは奇妙な同盟関係を組み、婚約者としてではなく協力者として行動することを決めたのである。
「ねえ、正樹の好きな子ってどんな人なの?」
先ほどとは打って変わって砕けた態度で話しかけてくるリサ
俺の顔をニヤニヤと見つめながら興味津々と言った感じで聞いてきた
世界は違えどやはり年頃の女子というのはこういう話が大好物らしい。
どうして女という生き物はこういう恋バナが好きなのだろうか?
「別にいいだろ、そんな事……」
「何よ、照れちゃって、可愛いじゃない、顔赤いわよ」
リサはクスクス笑いながらからかうような口調で俺に話しかけて来る。
「うるせーよ、そんなこと聞いてどうするんだよ」
「協力者として正樹の力になってあげようとしているのよ、私が女性としてのアドバイスをしてあげるわ」
先程までの不機嫌な態度は何処へやら、もうすっかりノリノリのリサお嬢様
協力者として話を聞くというより、どう見ても〈この手の話が好きだから〉としか見えないが……
「多分アドバイスを受けても参考にならないよ
俺の好きな子はどちらかというと控えめで大人しいタイプだからな、つまりリサとは正反対というわけさ」
するとリサは急に怪訝そうな子を見せ、目を細めて俺をジッと見てきた。
「何よ、それ、もしかして私の事をディスっているの?」
「そういう訳じゃないよ、ただタイプが違うから参考にはならないだろうと言っているだけだ」
もちろんこれは建前である、いくら協力を約束した相手とはいえ
初対面の女子に好きな女の子のことを話すとか絶対に嫌だった、嫌だというより恥ずかしい
そんなの無理ゲーもいいところである。それにしても異世界でもディスっているとか言うのだな。
「控えめで大人しいか……いかにも男好きするタイプの女ね、男はすぐそういう女に騙されるものだから。
でも気をつけなさい、そう見えるタイプの女に限ってとんでもない腹黒だったり地雷女だったりする事もあるのだから」
コイツ見た目の割には結構口悪いな……
でも姫乃樹さんの事を話さずに済むならば多少の誹謗中傷には目をつぶろう、ゴメン、姫乃樹さん……
「俺のことはもういいよ……で、リサの好きな男ってどんな奴なのだ?」
俺が質問で切り返した途端、急に顔を赤らめ視線を逸らすリサ。
「べ、別にいいじゃない、そんな事……」
コイツ、俺の話をあれほど聞きたがったくせに、いざ自分の話になると照れて言いたくないとか、どんだけだよ。
「リサの言葉じゃないけれど、男としてアドバイスできるかもしれないだろ?ホレ、言ってみ?」
攻守逆転の瞬間だった、この気の強そうなお嬢様が恥ずかしがって答えたくないと判明した途端
俺の中で何かが目覚めその質問をあえて投げかけた
それはどこかサディスティックであり、何とも言えない高揚感を覚えたのである。
「アンタとその人は全然違うの‼︎だから参考になんかならないわ、だからこの話はもう止め‼︎」
強引に、そして一方的に話の打ち切りを宣言するリサお嬢様だったが
それで終わってやるほど俺は優しい男ではない、俺の姫乃樹さんを〈地雷女〉呼ばわりしたことも含めて追撃の一手を放った。
「おいおい、それはフェアじゃないだろ、俺は一応〈控えめで大人しい子〉という情報を提示したのだ
これから協力者として対等の関係を築くならばそちら側も最低限の情報は開示してもらわないと公平じゃないだろ
これは正当な主張だと思うけれど、どうだ?」
俺の言っていることは滅茶苦茶だが、筋が通っていそうな気がするというのがミソである。
それが証拠にリサは唇を噛み締め、何やら考え込んでいた
どうやら俺の言葉がかなり効いているようだ、コイツ意外と単純だな。
「わ、わかったわよ……何が知りたいのよ?」
「まずはお前が好きだという男の情報だ、どんな男なのだ?」
別にリサの好きな男とかに微塵も興味ないのだが
本当は言いたくないリサに無理矢理言わせているというこの状況に何故か楽しくなってきていたのだ。
「年は一つ上、学校の先輩に当たる人よ……お父さんが騎士団の団長をしていて
そんな父親を尊敬し自分もそうなりたいと努力している素敵な人……
強くてカッコ良くて、みんなの憧れなの……もうこれぐらいでいいでしょ⁉︎」
リサはものすごく恥ずかしそうに自分の恋を告白した
最初はちょっとした仕返しのつもりで軽く言ってみただけだったのだが
こんな彼女の姿を見たら自分が凄く悪い事をしている気分になってしまったのだ。
「あ、ああ、もういいよ。何かゴメン……」
俺の謝罪の言葉にも答えずプイッと向こうを向いてしまったリサ
耳まで赤くして本当に恥ずかしかったのだろう、申し訳ない……
だがどこかホッコリした。コイツはコイツでキッチリと恋する乙女をやっているという訳か……
そう思うと何故か温かい気持ちになり今更ながら心から応援してやりたくなった、頑張れリサ。
その後、俺たちは会話もないまま気まずい空気が流れる
こんな時どうすればいいのかさっぱりわからない
今更〈いい天気ですね〉とか〈ご趣味は何ですか?〉とか言ってもかえって不自然だし
どうしたものかと頭の中で考えを巡らせていた時である
ふとある事が気になってジッとリサを見つめた
彼女とは初対面のはずなのに何故かどこかで会った事があるような気がしてきたのだ。
「何よ、人のことをジロジロと見て」
「いや、ちょっと気になったのだが、俺とリサって初対面だよな?過去に会った事とか……」
「無いわよ、正真正銘の初対面‼︎」
どうやらリサお嬢様はご機嫌斜めのご様子である、まあ、それも当然と言えば当然か……
俺がそんな事を考えていた時、いきなり部屋のドアが激しく開きバタンと音を立てながら誰かが入ってくる。
何事かと思いドアの方に視線を向けるとその正体は父さんであった。
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