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初恋の君、そして告白

「まあ続編だし、あんな感じかな」


 姫乃樹さんは気だるそうな口調で呟くように言葉を発した。


俺達は映画を見終わり、おしゃれな喫茶店に入って会話を交わしている。


「そうだね、大ヒット作の続編で一作目より面白かった映画ってあまりないからね。


姫乃樹さんはよく映画とか見にいくの?」


「そうでもないよ、タブレットで配信サービスの映画をたまに見るぐらいかな」


「へえ〜そうなんだ……」


 デート初心者の人間でも映画を見ればその内容でしばらく話が持つから良いという話を聞いた事があるので


セオリー通り映画にしたというのにもう話題が尽きそうだ、もっと頑張れよ、ハリウッド‼︎


「ところで東野くんは女の子とよくデートとかするの?」


 何の前触れもなく姫乃樹さんの口から突然質問が飛んできた。


「そんな訳ないよ⁉︎デートするのもこれが人生で初めてだよ‼︎」


 慌てて否定する俺、もしかして学のように軽い男と思われていたのかな?


「ふ〜ん、そうなんだ、これが初めてなんだ……」


 ふと視線を逸らし何やら意味深な言葉を口にした姫乃樹さん。


この質問は何のテストですか?そして俺の回答は間違っていませんでしたか?


 そんな俺の気持ちを察したのか姫乃樹さんはニコリと微笑み語り始めた。


「ごめんね、変なこと聞いて。ほら軽くデートに誘う男の子っているじゃない。


たかがデート如きで何をそこまで……って思うかもしれないけれど


やっぱりデートって特別な人としたいから、だからもしかして軽い気持ちで誘われたのなら何か嫌だなって思って……


あっ、ごめんね、初デートでこんな話して、重たいよね、忘れて」


「いやそんなことないよ、俺だってそんな軽い気持ちで誘ったのではないし、俺はずっと姫乃木さんの事を……」


 それ以上は恥ずかしくて言葉にできなかった。ていうか今でも恥ずかしくて死にそうである。


エミリ、お前のいう通りお兄ちゃんここで殉死するかもしれない。


「ありがとう、嬉しい。ごめんね、デート早々にこんな話して」


 嬉しそうに笑った後、ペコリと頭を下げる姫乃樹さん。


「いや大丈夫だよ、姫乃樹さんが謝るようなことじゃあ……」


 慌てふためく俺の姿は側から見ればさぞかし滑稽に見えることだろう。


しかし今の俺にはこれが目一杯なのだ。


「ねえ東野くん、そろそろお互いの呼び方を変えない?」


「えっ⁉︎」


 姫乃樹さんからの唐突な提案に俺は驚いてしまった。


「だって私達一年の時から同じクラスだしこうしてデートする仲なのにいつまでも東野くん姫乃樹さんじゃあ何かね……


リサちゃんだって正樹って呼んでいるじゃない。リサちゃんとは幼馴染だから仕方がないのかもしれないけれど……」


 いや、本当はリサとはまだ知り合って一ヶ月ぐらいしか経っていないのだけれど……


そういえばあいつには初対面の日に正樹って呼び捨てにされたな、だから俺もリサって呼ぶようになったし。


「じゃあどうやって呼ぶのがいいかな?」


「私の事は下の名前で呼んでくれればいいよ」


 いきなり美穂って呼ぶの⁉︎それはいくら何でも……


「じゃあ美穂ちゃんで……」


「うん、じゃあ私も正樹くんって呼ぶわ。さあ次の予定に移りましょうか正樹くん」


 そう言うとテーブルの上の伝票を手に取りスッと席を立つ美穂ちゃん。


咄嗟に〈ここの払いは俺が……〉と言いかけたが美穂ちゃんはニコリと笑って無言のまま首を振った。


 またまた彼女主導で次の予定地へと移動することになった俺達。


何とも情けない話だがこれが現実なのだから甘んじて受け入れるしかない


ていうか美穂ちゃんに引っ張られるのも悪くないと思い始めていた。


 俺達は予定していたボーリング場に行き楽しんだ後、ゲームセンターやカラオケといった定番スポットを回った。


それは予想通り、いや予想以上に楽しくあっという間に時間が過ぎた。 


そして今日発見した事が一つあった。美穂ちゃんは俺が思っていた無口で大人しいという印象とは違い


明るくて思ったよりも積極的でよく喋る女性だった。


「楽しかったね、正樹くん」


一通りデートプランを消化し公園のベンチに座る俺達。


目の前には子供づれの家族が仲良く手を繋いで歩いているのが目に入ってくる。


もう時刻も夕方になり、すっかり空も赤みを帯びてきていた。


「俺も凄く楽しかったよ、ただ美穂ちゃんはもっと無口で大人しい子だと思っていたから少し意外だったよ」


 何気ない一言のつもりだったのだが、美穂ちゃんは一瞬顔をこわばらせそのまま俯いた。


「私ね、この性格のせいでクラスの女子から嫌われているの。


裏表があるあざとい子だって……男の前でだけ媚を売っているとか計算高い嫌な女とか……」


 彼女は辛そうに語り始めた。まさか美穂ちゃんが他の女子から


そんな事を言われていたとは想像もしていなかっただけに俺は少なからずショックを受けた。


「そんな事ないよ、美穂ちゃんは凄くいい子だよ‼︎」


 取ってつけたようなフォローだったが美穂ちゃんはそんな俺の言葉にニコリと微笑んだ。


「ありがとう正樹くん。私そこまで親しくない人にはどうしても距離を置いて喋ってしまうの


ズケズケと距離を詰めてくる人が苦手だからそう思われたくなくて……


でも、親しくなった人とか心から親しくなりたいと思った人には積極的にいくことにしているのよ


だから裏表があると思われているのだろうけれど……」


 美穂ちゃんはそう言ってチラリと俺の方を見た。


「えっ、それって俺と親しくなりたいから積極的にきてくれたという事?」


 俺のデリカシーのない馬鹿丸出しの質問に対し、美穂ちゃんは少し恥ずかしそうに無言のままコクリと頷く。


そしてそのまま上目遣いで俺をジッと見つめて来きたのである。


「えっ、何?」


 ただならぬ雰囲気を感じ思わず問いかけると、彼女は予想もしていなかった言葉を発した。


「ねえ正樹くん、私達付き合ってみない?」


美穂ちゃんの方からまさかまさかの交際の申し込み、あまりの事に頭の思考が追いつかない。


「えっ⁉︎俺と?」


 随分と間抜けな質問だが考えなしに出て来た言葉がそれだったので仕方がない


いいとか嫌だとか以前に交際経験もなければ告白されたこともない俺にとって


この告白は予想の範疇を遥かに超えていたからである。


「私とは嫌?」


「いや、まさか、そんなことは全然ないけれど、少し意外で……


ほら、俺って全然モテ要素ないし、女の子との交際経験もなければ告白されたこともない


美穂ちゃんみたいな可愛い子が彼氏にしたいって思うような男じゃ……」


 俺はバカなのだろうか?憧れていた人の方から告白されたというのに何だ、この対応は⁉︎


「そんな事ないよ、正樹くんは見た目も悪くないし全国大会に出るくらいの剣道部のエースじゃない。


性格も優しいし。正直、正樹くんを狙っている子結構いるよ」


 まさかの真実発覚、俺本当はモテていたの?そんな自覚は全くなかった。


野球部やサッカー部のエースがモテるのは常識だが


剣道という競技は女の子にモテる要素は皆無だと思っていただけに少し意外だった。


「私もずっと正樹くんの事いいなって思っていたの


だからリサちゃんから〈正樹が美穂をデートに誘いたがっているけどどうする?〉


と聞かされた時は二つ返事でOKしたもん。リサちゃんだって本当は……」


「えっ⁉︎リサがどうかしたの?」


 何か美穂ちゃんの意味深な言い方が引っかかり思わず問いかけた。


 彼女は少し躊躇するような素振りを見せたがすぐに答えてくれた。


「だってリサちゃんだって正樹君の事が好きなのに私にデートを勧めてくれたから……


リサちゃんは数少ない友達だしいい人だと思っているわ、でも恋って戦いだもん。


リサちゃんがどういうつもりかは知らないけれど私は負けたくない


正樹くんと付き合いたいと思ったからこうして勇気を出して告白したの」


 なんじゃあそりゃあーーー。ただでさえ頭がパニック状態なのにとんでもない情報を聞かされ俺は益々困惑してしまった。


「リサが俺の事を⁉︎いやいやそんな事はない、何かの勘違いだよ、あいつには他に好きな人がいるし……」


「そう?正樹君がそう思うのならそれでもいいけれど……で、どうかな?私と……」


 美穂ちゃんは目を潤ませてジッとこちらを見ている。


言葉は平静だが緊張しているせいか心なしか少し震えているようにも見えた。


俺自身、女の子にここまで言わせて男として情けなさを感じていた。


「俺は……」


 すぐにOKの返事をしようと思ったのだがなぜか言葉が出なかった


どう考えても断る理由が見当たらない。何を迷う、美穂ちゃんが俺の彼女になるのだぞ⁉︎


一年の時から大好きだった。中々話しかける勇気も持てず遠くから見ていることが多かった。


美穂ちゃんとのキスを頭の中でどれだけ想像した事だろう


もし付き合うとなればキスどころかその先だって……


 俺は思わず息を飲んだ、純情と妄想と期待と欲望


よくわからない思いが波のように押し寄せてきて身体中の細胞が早くOKの返事を出せと脳に訴えかけてくる。


だが俺は返事を躊躇した、もちろん美穂ちゃんが思っていた女性と少し違っていたということが理由ではない。


なぜ?と自分に問いながらも自分では理由はわかっていた。


そう、さっき美穂ちゃんから聞かされた〈リサが俺の事を好き〉という言葉である。


どう考えてもそんな訳はない、あいつはロイド先輩が好きなのだ。そんな事は有り得ない。


もし仮にそうだとしても美穂ちゃんとリサを天秤にかけようとか微塵も考えてはいない


ただ気になって仕方がないのだ。もしそれが本当ならば


リサは俺のことが好きな癖に俺と美穂ちゃんとの仲を結びつけてくれようとしているのだ。でもどうして?……


 おそらく〈婚約者としてではなく協力者としてお互いの恋を応援しよう〉という俺と交わした約束のせいだろう。


それを考えた時、リサの思いに応えるとかは別として確かめずにはいられなかったのだ。


「ごめん美穂ちゃん、返事少し待ってくれないかな?」


 俺の口から出てきた言葉はこれだった、本当に大馬鹿者である。


おそらく今の俺は日本一の愚か者だろう。こんなチャンスは二度とない


何せ恋焦がれた初恋の人からの交際の申し込みなのだ。

 

 もしも今神様が俺の目の前に現れて〈何か願いを一つだけ叶えてやろう〉


と言われたら俺は間違いなく〈美穂ちゃんとお付き合いしたいです‼︎〉と願うだろう。


にもかかわらず俺は返事を一旦保留したのだ。


どう考えても頭がおかしいとしか思えなかったが今の俺はこの言葉しか思いつかなかったのである。


 そんな俺の煮え切らない言葉に対し、美穂ちゃんは少し微笑みながら目を閉じた。


「わかった、でもなるべく早めに返事くれないかな?」


「うんわかった。ごめんね、こんな曖昧な返事で」


 すると美穂ちゃんはゆっくりと首を振る。


「ううん、いいよ。断られた訳じゃないし……でも期待しているから、じゃあね、正樹くん」


 美穂ちゃんは俺を気遣うように笑うと手を振ってそのまま帰って行った。


俺はそんな彼女の後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた、本当にいい子だと思う。


そして自分の情けなさに段々と腹が立ってきた。こうして俺と美穂ちゃんの初デートは幕を閉じたのである。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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