うつろいゆく恋心
その翌日の朝、ロイド先輩は約束通りリサに謝罪するために俺たちの教室に顔を出した。
クラスの、者達は何の話だろう?と思春期特有の妄想を膨らませ、あれやこれやと噂話で盛り上がっている。
そんな連中の人目を避けるためにリサを廊下に連れ出し、皆に話が聞こえない距離を保って話し始めるが
何人もの野次馬が遠目で二人を覗いていた。
「リサ君、昨日は本当にすまなかった」
昨日デートをすっぽかした事を素直に詫び深々と頭を下げるロイド先輩。
「いえ、急な式典への参加で来られなかったのですから、仕方がないですよ」
明るい口調で言葉を返すリサ。その姿は妙にサバサバとしていて、どこか達観しているようにも見えた。
そんなリサの態度に少し拍子抜けしたような表情を浮かべたロイド先輩だが、何かを思い出したかのように目を見開いた。
「そうか、昨日僕と彼との決闘を隠れて見ていたのはリサ君だったのか⁉︎」
「えっ、気がついていたのですか?」
リサは驚いてロイドを見るとロイドはニコリと微笑んだ。
「まあね、暗くて誰かまではわからなかったけれど、あの大雨の中で傘が雨を弾く音が微かに聞こえてきていたから。
まあ彼はひどく怒っていたので気がつかなかったみたいだけれど」
「そうですね、アイツは集中すると他が見えなくなるみたいですから」
リサはそう言ってクスリと笑った。
「彼は強かったよ、僕はまた高くなりかけた鼻をへし折られた。
あの後父さんに事情を話したら説教されたよ、男子たるもの女性との約束をすっぽかすとは何事か‼︎ってね。
父さんも若い頃は母さんとのデートの為にしょっちゅう訓練をサボったらしい。
あの父さんにそんな過去があったとは驚いたけれどどうやら僕は視野が相当狭くなっていたみたいだ」
遠目から見ると二人は微笑みながら言葉を交わしており非常にいい雰囲気である。
「昨日の謝罪も込めて改めてリサ君をデートにお誘いしたのだけれど、どうかな?」
ロイド先輩が優しく右手を差し出すがリサは笑みを浮かべながらゆっくりと首を振った。
「せっかくのお誘いですが、すいません……」
「そうか……そうだよね。自分から誘っておいてデートをすっぽかす様な男は願い下げだよね」
「いえ、そのことについては本当に怒っていないし気にしていませんから」
「じゃあどうして、理由を聞いてもいいかな?」
するとリサは優しく微笑みながら答えた。
「他に好きな人ができたんです」
一瞬呆気に取られるロイド先輩だったが全てを悟ったのか、目を閉じ小さく苦笑した。
「そうか、どうやら僕はとびっきりの大魚を逃したようだ」
「ええ、残念でしたね、先輩」
二人は目を合わせ、思わず笑った。
ロイド先輩がリサとのやり取りを終え、そのまま帰って行った。
そしてリサが教室に帰って来た途端クラス中の女子から矢の様な質問が待っていた。
「今の何よ、リサ⁉︎」
「昨日ロイド先輩と何があったの‼︎」
「ロイド先輩と付き合うの?ねえリサ⁉︎」
まるでスキャンダルを起こした芸能人のように周りを囲まれ質問攻めを受けるリサだったが
何があったのか、何を話したのかは最後までお茶を濁していた。
嵐のような質問攻めを何とかクリアしたリサは大きくため息をついて席につく。
そんなリサに今度は俺がそれとなく話しかけた。
「朝からお疲れさま。で、ロイド先輩とはどうなったのだ?」
しかしリサは俺の質問には答えず、無言のままじっとこちらを見てきた。
「な、何だよ。何か怒っているのか?」
「何でもないわよ、散々色々な子から質問されてうんざりしていただけ。
それとロイド先輩とは何もないわ、改めてデートに誘われたけれど断った。それだけよ」
「断ったのか⁉︎まあデートをすっぽかされた訳だし、気持ちはわかるが……いいのか?」
「いいわよ、別に……ロイド先輩は、何というか単なる憧れだったというか
改めて考えたら恋人の対象ではなかったというだけよ。大体正樹には関係ないじゃない」
「まあ、そりゃあ俺には関係ないけれど……」
何だろう、怒っている感じではないしどことなく嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか?
「リサ姉にはもっといい人が現れるよ」
「俺もそう思うぜ、姉貴にはもっとふさわしい男がいるって」
外野のエミリと純平が根拠のない無責任なフォローを入れていた。
「ありがとう、そうだといいわね」
嬉しそうにエミリや純平と言葉を交わすリサの姿を見るとどうやらすっかり元気を取り戻した様である、良かった。
「まあリサは美人だし裏表のない明るい性格だから男は放っておかないだろう
その気になれば誰だって……って、何だよ?」
俺もエミリや純平のようにフォローを入れたつもりだったのだがリサはなぜかこちらを睨みつけてきたのだ。
「何でもないわよ‼︎」
なぜか急に怒り出しプイッと向こうを向いてしまったリサ、一体何なのだ?
何はともあれリサは立ち直った様だし少しホッとした。
だがその瞬間、別のことが頭に浮かんだ。それは昨夜ロイドとの決闘を終え家に帰った時の事だった。
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