誇りと感情の終着点
俺がロイドの家に向かっていた頃、ライトハルト伯爵邸では着替えを済ませたリサが部屋から出て来て帰って来た父親に挨拶していた。
「おかえりなさい、父上」
「ああ、ただいまリサ。さっき正樹君を見かけたが、もう帰ってしまったのか?」
「そういえば正樹が来ていたわね……もう居ないのなら帰ったのでしょう?」
そっけない返事だったが特に気にすることも無く聞き流していたリサだったが
そこに純平が割り込む様に話に入って来る。
「さっき正樹兄がロイドの事を聞いて来たけれど何かあったのか?
ロイドの奴こちらのパーティーに急遽参加していたせいで姉貴はデートをドタキャンされたのだろうけれど。
もしかしてそれの腹いせに正樹兄に八つ当たりでもしたのか?」
するとリサは目を伏せ静かに口を開いた。
「そうなんだ……ロイド先輩はそちらのパーティーに行っていたのか……」
明らかに様子がおかしいリサを見て純平も何かに気が付く。
「おい、それどういう意味だよ?もしかしてロイドの奴……」
その時である、ライトハルト家の扉が激しく開き、息を切らせたエミリが入って来た。
「リサ姉‼ちょっと聞きたいことがあるの⁉」
かなり慌てた様子のエミリを見て尋常ではないと感じたリサは小走りで近づいた。
「どうしたの、エミリちゃん?」
「さっき……兄貴がびしょ濡れで帰ってきて……ロイド先輩の家を教えろって……」
「どうして正樹がロイド先輩の家を?」
「タダ事じゃなかった……あんな怖い兄貴始めて見た……何かものすごく怒っていた……何があったの、リサ姉⁉」
その時リサは正樹が何をするつもりなのか直感的に理解した。
「正樹はロイド先輩の家に行ったのね?」
「うん、傘もささずに出て行った……」
「じゃあ私が連れ戻しに行くから二人は来なくていいわ。アナザーゲートの十時までには帰って来るから」
リサはそう言い残し、傘を片手に夜の闇へと消えて行った。
雨の降りしきる中、ロイドの家に向かって走り続けた俺は少し迷いながらもなんとか目的地へと辿り着いた。
ロイドの自宅は父親が聖騎士団の団長というだけあってなかなか立派な屋敷だが今はそんな事どうでもいい
俺は到着するなり息を整える間もなく玄関の扉を激しく叩いた。
「はい、どちら様でしょうか?」
都合のいいことにロイド本人が出て来た。他の人が出てきた場合、どう説明しようか悩んでいただけにこれは好都合である。
「君はシンゴ先生の……確かマサキ君だったね、こんな雨の中どうかしたのかい?」
なぜ俺がここに来たのかまるで見当がつかない様だ。
冷静に考えればそれも至極当然なのだが今はその態度すらも俺を苛立たせた。
「一つだけ聞く、なぜリサとの約束をすっぽかした⁉」
怒りを抑えつつその質問をぶつけた時、ロイドもようやく俺の訪問目的を察したようだ。
「なぜ君にそんな事を答えなければいけない?」
「いいから答えろ‼︎」
俺は感情に任せて怒鳴るように言い放つと、ロイドはやや呆れたような素振りを見せ静かに口を開くよう。
「どうやら君は上級生に対しての口のきき方というものがわかっていないね
そんな不作法な人間の質問に答える義理はないと思うのだけれど」
「うるせーよ、アンタが尊敬に値する人間だとわかればいくらでも敬語を使ってやる、だから俺の質問にさっさと答えろ‼︎」
なぜだかはわからないが俺は無性に腹が立っていた
自分でも不思議だが今までの人生においてこれほどの怒りを感じたことはない。
しかも怒りの原因が自分のことではなくつい先日知り合ったばかりのリサの事なのだ。
俺の怒鳴り声の様な大きな声とただならぬ様子にロイドの家の他の人が集まってきた。
「何かあったのか、ロイド?」
奥の方から四十歳半ばくらいでやたら威厳のある男性が出てきた、おそらくこの人が父親の聖騎士団長なのだろう。
「いや、何でもないよ、父さん」
ロイドはその場を取り繕うような笑顔を見せると俺にだけ聞こえるような小声でささやいた。
「外で話そう……」
俺はとりあえずその提案に乗りロイドと共に外に出る。
漆黒の夜空からは未だ雨が降り続いており一向に止む気配はない。
しかし元々雨できていた服はびしょ濡れだったのでそんなことはどうでも良かった。
ロイドの家から少しだけ離れた場所で二人向かい合うとロイドを睨みつけるように怒りの視線をぶつける。
だがその時俺は頭に血が上っていて気がつかなかったのだ。俺とロイドのことを心配して駆けつけたリサがすぐそばで見ていた事を。
「どうして僕が君にリサくんとのことを話さなければいけないのか理解しかねるが
そこまで言うのなら答えてやろう。聖騎士団の式典に急遽僕も出なければいけなくなったからだ」
さもそれが当然とばかりに言い放つロイドの態度が益々俺の感情を逆撫でる。
「だったら誰かを使ってリサに〈今日は急用で行けなくなった〉と誰かに伝言を頼めばいいだけの話だろうが‼︎」
「家の者は出払っていて誰にも頼めなかったのだ」
「だったら自分でリサに会いに行ってそれを伝えた後でその式典とやらにいけばいいだろう‼︎」
「式典の開始時間とデートの待ち合わせ時間が同じだったのだ、式典に遅れていくわけにはいかない。
リサ君には悪いが聖騎士団の名誉ある式典に参加するのと、たかがデートでは重みが違うのだ」
ロイドの言葉を聞いて俺は益々怒りがこみ上げて来た。
「たかがデートだと?自分から誘っておいて何だ、その言い草は‼
リサがアンタとのデートをどれほど楽しみにしていたと思っているんだ
敵が攻めてきて仕方がなく戦いに行くとかならともかく、
たかが記念式典に親父さんのオマケで参加することにどれだけ価値があるというのだ‼︎」
俺の言葉に対し、さすがにカチンときたのか、常に冷静だったロイドの顔色が変わる。
「たかが記念式典だと?この九十年間、国民の生命と幸せを守ってきた聖騎士団を愚弄するとは……
いくらシンゴ先生の息子でも許さんぞ‼︎」
「一人の女の子との約束も笑顔も守れないで何が聖騎士だ。
リサはな、この雨の中でアンタをずっと待っていたんだぞ‼︎少しは悪いと思わないのか⁉︎」
「待ち合わせ時間は午前十時、雨が降り出したのは午後だろう?そこまで待って来なかったら普通は諦めて帰るだろう」
まるでリサが悪いとでも言うような口ぶりに俺の怒りは最高潮に達する。
「ふざけるな‼︎それが自分からデートをすっぽかした男の言うことか⁉︎リサに謝れ、誠心誠意、頭を下げてだ‼」
俺が感情に任せて言い放つとロイドは少しムッとした顔で返してきた。
「嫌だと言ったら?」
「ふざけるな‼︎それが聖騎士の心得というのならば、聖騎士団もアンタの親父さんも大したことはないな」
「何だと、僕のことだけならばともかく聖騎士団と父さんのことまで愚弄するのは聞き捨てならない、今の発言は撤回しろ‼︎」
「嫌だと言ったら?」
お互いが感情的になっており、もはや売り言葉に買い言葉という状態になってしまっていた。
「父と聖騎士団を愚弄されてそれを看過できるほど僕は人間ができていない、今君に正式に決闘を申し込む」
流れとはいえロイドから正式に決闘を申し込まれるというまさかの展開、たがもう後戻りはできなかった。
「決闘とはどういうことだ?」
「言葉の通りだよ、どちらの主張が正しいか剣で決めようというのだ。
君も剣士を名乗るのならばよもや逃げるなんて事はしないよな?」
「上等だよ、やってやらあ‼︎」
頭に血が上って完全に暴走してしまっているが今の俺はそんなことすらわからないほどに感情が高ぶっていたのである。
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