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男女の駆け引きと国交の是非

その日の向こうでの生活を終え、俺達は再び日本へと帰って来た。


向こうの実践重視の授業とこちらの世界の授業のギャップに戸惑いながらもその日も何とか無事に授業を終える。


 魔族との戦いを引きずったまま部活動へと勤しむ俺と純平。


純平も俺と同じ経験をしたはずなのにきちんと気持ちの切り替えが出来ている様だ、大したものである。


「どうした東野、元気がないな?」


俺の様子がどこか変だと気付いた青山主将が声を掛けてくれたのだ。


「いえ、何でもありません」


「そうか、ならいいのだが……それと……」


 青山主将はふと顔を横に向けると、その視線の先にはリサがいた。


「田沼マネージャーも何かあったのか?」


 青山主将は心配するというより、何か不思議なモノを見るような目でリサを見ていた。


 それもそのはず、リサは剣道部マネージャーとしての活動初日だというのに


どこか遠い目をしながら突然ニヤニヤと思いだし笑いをしたかと思えば、急にハッと我に返る。


という謎の挙動を繰り返していたからである。


「いやその……アイツは大丈夫ですよ。何かいいことがあったみたいで……」


「そ、そうなのか……あまり皆の練習を見ていない様だったが、まあいい。


今日は初日だからな、剣道部の雰囲気をわかってもらえれば……」


 青山主将もリサの挙動不審な態度を見て何かを思ったようだがそこに触れてはいけないと本能で感じ取ったのだろう。


 こうして数日間は何事もなく過ぎた、向こうの世界でもあれ以来魔族と戦う様な課外授業は無く


通常の学科授業と基礎的な訓練のみで終わり、父さんも何も言うことは無く


いよいよリサにとっての一大イベント〈ロイドとの週末デート〉を迎える事になったのである。



「ねえ兄貴、リサ姉の所に行ってあげたら?」


 週末の朝、朝食のテーブルでエミリが俺に話しかけてきた。


「嫌だよ、大体アイツは今日ロイドとデートだろ?」


「だ・か・ら リサ姉がデートから帰って来た頃を見計らってリサ姉の家に行くのよ」


「どうしてそんな事をしなくちゃいけないんだ⁉


どうせリサの事だから浮かれて帰ってきてデートの内容をアレコレ聞かされるだけじゃねーか」


「それが狙いよ」


「身がわからんぞ?そもそもそれは何を狙っているのだよ?」


「リサ姉はあの性格だから帰ってきたらすぐにロイド先輩とのデートの事を誰かに話したくて、話したくてしょうがないはずよ。


それを黙ってウンウンと聞いてやればリサ姉喜ぶじゃん」


「だから何で俺がリサを喜ばせなければいけないんだ?」


 俺がうんざりした顔で問いかけると、エミリは軽くため息をついた。


「わかって無いなあ兄貴は。リサ姉ってああ見えて女子に凄く人気があるし世話焼きなのよ。


リサ姉の機嫌を取っておけばきっと兄貴の恋も応援してくれて上手くフォローしてくれるはずよ」


 成程、かなり打算的ではあるが理に適っているな。確かにロイドの奴がリサをデートに誘いに来た時。


クラスの女子は嫉妬というよりどちらかといえば祝福している感じだった。


「だけどそこまでわかっているのならエミリがリサの所に行ってやればいいじゃないか?」


「嫌よ‼」


脊髄反射か⁉と思える程の早さで拒絶が返って来たのだ。


「ど、どうしてだよ?」


「リサ姉がロイド先輩の事をデレデレしながら話す姿とか見たくも無いわ、想像するだけで腹が立つもの‼」


 なにやら俺は知らない内にエミリの地雷を踏んだ様だ。


ともかくリサが女子に人気があるというのを身近に感じられた瞬間であった。


「仕方がないな……気は進まないが行くか」


 これもボランティア活動だと思ってやるしかない。


そういえば最近、純平がやつれている感じがしたのは家でリサに散々ノロケ話を聞かされているからだろう。


それには俺も少しだけ責任があるし、純平にためにも行くか……


「今日はライトハルト伯爵も居ないらしいし、二人っきりで話が出来るみたいよ。頑張ってね、兄貴」


 含みのある言い方をして微笑むエミリ。どことなく釈然としないが可愛いからいいだろう。


「ライトハルト伯爵って……田沼のオジさんの事だよな?オジさんどこかに出かけるのか?


そもそも田沼のオジさんって何をしている人なのだ?」


「知らない。パパに聞いたら?」


 エミリはそっけなくそう言うとそそくさと出かけて行った。少し気になった俺は父さんに聞いてみる事にした。


「なあ父さん、ちょっと聞いていいかな?」


 今日は週末の休みなので父さん母さんも家にいる。


父さんは居間で新聞の様なモノを見ていたが俺が話しかけるとこちらに視線を移してくれた。


「何だ、突然、何が聞きたい?」


「実は田沼のオジさんの事だけれど、あの人は一体何をやっている人なの?」


「そうか、正樹は知らなかったのか。


アナザーゲートが発生した当初、日本政府からこのバレント王国に外交特使として派遣されたのが田沼さんだ。


元々あの人は外務省に勤めていたやり手の外交官で、ロシアとの外交などでかなりの功績を上げている。


バレント王国のイバノビッチ国王にも気に入られて、それ以来日本とこのバレント王国の橋渡し的な役割を務めている。



 そしてこちらの世界で増え続ける魔族の理由と向こうの世界で出没するファントムの正体や撃退法や


発生の原因を探るべく両面から研究するチームのリーダーもやってもらっている。」


「両面からって?」


 俺は説明の中の気になるワードを聞いてみた。


「日本政府側は科学的に、バレント王国側からは魔術的に探っているのさ。


残念ながらまだコレといった原因はつかめていないのだけれどな」


 まさか田沼のオジさんがそんな重要な事をやっていたとは。


「へえ~凄い人なのだな。見た感じだと人のいいオジさんにしか見えなかったけれど……」


「あの人がいなかったら両国の関係はここまで上手くいっていなかっただろう。


特にイバノビッチ国王陛下からはえらく気に入られていて、自分の娘を嫁がせたぐらいだ」


「えっ、そうなの?」


「ああ、しかもその相手というのが国王陛下の娘であり、この国きっての美女


〈バレント王国の宝石〉と呼ばれた第二皇女エリザベート様を嫁に迎えたぐらいだ。凄いだろ⁉」


 そういえば俺がまだ小さい頃に二度ほど純平のお母さんを見たことがある。


病気で早くに亡くなってしまったが、凄くきれいな人だったことを覚えている。


リサと純平の見た目はお母さん似だったのだな。


「そんな事が……って、ちょっと待ってくれよ。じゃあリサと純平は国王の孫にあたるのか⁉」


「まあ、そういう事だ」


「あいつらが王家の一族⁉それじゃあ俺みたいな庶民とは別世界の人間じゃないのか?」


「いや、そんなことは無い。田沼さんはバレント王国の王族に入る事を拒否したのだ。


〈私はあくまで日本の外交特使ですから〉と。だから田沼さんは王族ではない。


その代わりとしてイバノビッチ国王陛下は田沼さんにライトハルト伯爵の地位を与えたのだ」


「そうだったのか、だから田沼のオジさんはライトハルト伯爵なのか……」


 少し引っかかっていた謎が一つ解けた。


「ところで日本とこのバレント王国との外交が上手くいっていると聞いたけれど。


具体的には何が成功しているのだよ?」


 そんな俺の素朴な問いかけに父さんは小さく頷いて答えてくれた。


「色々とあるが一番は医療問題だな。このバレント王国が魔術を中心に発展を遂げて来たのは知っているな?


しかし魔法というのは怪我や疲労回復には抜群の即効性と治癒力を発揮するが根本的な病気が直せるわけではない。



がんや心筋梗塞、脳溢血といった三大疾患を始め内臓や血液などにかかわる病気は基本処置できない


虫歯ですらまともな治療法がないのだ。


それを日本政府は色々な薬の提供や医師団を派遣して大勢のバレント王国の人達を救ってきた


そして最先端の医療の技術と知識をこの国の人に教えているのだ。


だからここ数年でこの国の医療技術は飛躍的に発展した」


 今までそんな話があった事を知らなかった俺は父さんの話を聞いて思わず感心してしまった。


「へえ~そうなんだ、いい話だね、日本のお医者さんもこの国に来ていたのか」


「ああ、向こうの世界でも色々な国にボランティアの医師団が派遣されることがあるだろう?


それと同じ扱いでこの国にも医師団が何度か派遣されている。


イバノビッチ国王陛下も手術を受けたことがあるのだぞ、レーシック手術だけどな」


 父さんは自慢げに言った。


「レーシックって、また微妙な手術を……」


 国王陛下の手術の内容はともかく、日本の医師達がこちらの世界で活躍し


バレント王国の人々の役に立っているかと思うと同じ日本人としては誇らしい気持ちになる。


「日本の医療がこちらの世界で役に立っている事はわかったけれど、じゃあ日本側はどんな恩恵を受けているの?」


「そうだな。やはり一番の恩恵はエネルギー問題だ」


 予想外の答えに俺は少し戸惑った。


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