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詰め込み教育と早すぎる実戦

俺は長かった一時限目を終え、もうぐったりしてしまった。


「魔法ってもっと感覚的なモノだと思っていたのだけれど、数学と科学の授業を受けている様な気分だったな」


「マヤ先生も言っていたけれど魔法は知識量と集中力と演算だからね。馬鹿ではできないのよ、馬鹿ではね」


 リサは自分が馬鹿ではないという事を強調するかのように二度言った。


「でも俺や純平は剣士なのだろう?それがどうして魔法の授業を受けなくてはならないのだ?」


 俺は素朴な疑問を口にしただけなのだが、それを聞いたリサは呆れ顔でため息をついた。


「ハア、アンタそんな事も知らないで授業を受けていたの?」


「仕方がないだろ。何も説明をされていないのだから」


 すると今度はエミリが説明をしてくれる。


「我々人類が魔族と戦う時は数人でパーティーを組んで戦う事が普通なの。


相手も一体とは限らないからね。だから前衛で戦う剣士といえど後衛のバックアップ無しでは苦戦は必至。


それ故に魔法がどのような効果がありどんなタイミングで使用するかを把握しておく必要があるのよ。わかった兄貴?」


「ああ、わかった。ありがとうエミリ」


 ここでの授業はあくまでも実戦を想定して……が大前提という訳か。


それにしてもいきなり実戦を想定した前提とか、全く知らなかった魔法の知識とか……俺は思わず弱音を吐いた。


「何の予備知識もなしにいきなり魔法の講義とか言われてもついていけない。正直頭から煙が出そうだ」


「一時限目から何、弱音を吐いているのよ」


「次の授業は剣士の為のモノだから少しはマシになると思うよ、兄貴」


 剣士の為の授業もあるのか……ん、待てよ、この流れだともしかして……


「おい、授業を始めるぞ。さっさと席につけ」


 案の定、剣の授業を教える教師は父さんだった。


「今日は転入生が二人いるので基礎のおさらいからやっていくぞ。


まずは魔族との遭遇戦になった場合の基本的な陣形と攻撃手段だが……」


 父さんの話は剣士の為の戦術論と色々な場面を想定しての対処法を解説してくれた。


 正直今まで学校の授業を受けていても〈これ将来何の役に立つのだろうか?〉


と疑問に思うこともままあった。しかしここまで生々しい授業内容だとそれはそれで凄く嫌な気持ちになった。


心穏やかに受けられたこれまでの授業がひどく懐かしい。


 そんな俺の気持ちが顔に出ていたのか、父さんが講義を一旦止め、俺に語りかけてきた。


「どうした、正樹。目が死んでいるぞ?」


「父さ……いや、先生。魔族との実戦とかまだピンとこなくて」


「まあ無理もない、今日は初日だからな。だが安心しろ、午後からの授業は実戦だ」


「実戦とは何をするの?父さ……じゃなくて先生?」


「正樹と純平君には本番を想定したパーティーバトルを行ってもらう。


授業とはいえ本当の実戦だ、昼休みが終わったら全員校舎裏に集合しろ」


 父さんがそう告げた時、教室内がざわついた。


「ちょ、ちょっと待ってくださいシンゴ先生。実戦で校舎裏って、まさかモルブデンの森に入るつもりですか⁉︎」


 リサが驚いた顔で問いかけた。


「ああ、その通りだ、リサ君。相変わらず飲み込みが早くて助かるよ」


「ちょっとパパ、いくら何でもそれは無茶だよ‼︎」


今度はエミリがツッコミを入れる。


「コラ、学校では先生と呼びなさい、エミリ」


 それにしても、何だ?この二人の慌て様は……実戦って、一体何をすることになるのだ?


 その事が気になってそこからの授業は耳に入ってこなかった。


授業が終わり、父さんが教室を出て行った後、俺はすかさずリサとエミリに問いかけた。


「おい、午後からの実戦授業って一体何をやるのだ⁉︎」


「モルブデンの森というのはこの学園の校舎裏に面している広大な森のことよ。


そこには凶悪な魔族が生息しているの。普段は結界で学園への侵入を防いでいるのだけれど……」


「普通、モルブデンの森に入っての実戦はこの学園の成績優秀者のみが卒業試験を兼ねて最後に行うものなの。


そこで見事魔族を倒す事ができれば卒業前に聖騎士の称号がもらえるからね。


この学園の歴史の中でも在学三年でこの試験を受けたロイド先輩が最速記録で


ほとんどの人が四年生になって受けるのが通例よ。しかも成功率は20%ほど、つまり四人に一人ぐらいしか受からない。


いくら兄貴と純平が強いとはいえ入学したばかりでこの試験を受けるのは無茶を通り越して無謀よ。成功するわけがないよ」


 俺と純平は思わず息を呑んだ。登校初日でとんでもない事を聞かされた。


まだこの世界に戸惑っている最中だというのにいきなり魔族と戦うだと⁉︎


「そんなに厳しい試験だと、ひょっとしたら俺達死んでしまうのでは?」


「それは大丈夫だと思うけれど……一応シンゴ先生が引率するからいざとなれば助けてくれるわ。


でもこの試験を合格した人たちでもほとんどの者が大きな傷を負うことになったらしいわ。


この試験を無傷で達成できたのは歴代でもロイド先輩くらいよ」


 リサがそう語ると純平がチッと舌打ちをした。


「またロイドかよ、あいつそんなに強いのか?」


「純平、何あんたロイド先輩の事を呼び捨てにしているのよ‼︎強いに決まっているじゃない。


ロイド先輩にかかればあんた何か十秒も持たないわよ‼︎」


 リサの根拠のない戦力分析によると純平はロイドに秒殺されるらしい。


 すると今度はエミリが語り始めた。


「三人と手合わせをした私から言わせてもらうと。兄貴と純平、そしてロイド先輩の力はそれほど変わらないと思うよ。


ただ相手が人間と魔族では全然違う。


魔族との戦いに関してはド素人の兄貴や純平がまともに戦えるとは思えない。


パパは何を考えているのかさっぱりわからないよ」


 ますます不安が湧き上がってくる。父さんに説明を求めてもどうせまともな返事は返ってこないだろうし……


 俺はモヤモヤした心のまま三時限目と四時限目の授業を受けた。


この二時間は一般教養だったのでまだそれなりに聞く事ができたが午後の授業の事を思うと気が重く、ため息が出るばかりである。


 午前の授業が終わり昼休みへと入った。俺と純平はリサとエミリの机とくっつけ四人で弁当を食べることにした


心配事はあってもキッチリ腹は減るのだから人間は不思議な生き物だ。


 俺とエミリは母さんが作ってくれた弁当箱を開けた時、一瞬言葉を失った。


その弁当は派手な飾り付けで可愛く彩られていてケチャップで〈がんばれまさきちゃん〉と書かれていたのだ。


「デ、デコ弁⁉︎高校生男子が……」


 思い返せば高校に入学した初日もデコ弁を作った母さん。


頼むからやめてくれと懇願して翌日から普通の弁当になったのだが


どうしてこちらの学校だとセーフだと思ったのだろうか? 


ふと横を見るとエミリの弁当にも当然のように〈がんばれエミリちゃん〉と書かれていた。


固まっている俺たちを見て純平が思わず吹き出した。


「プッ、正樹兄、その弁当……」


「うるせー、これはつまり、たまたまで……」


 恥ずかしがっている俺を見て思わず吹き出す純平。だがその時リサが口を挟んできた。


「何がおかしいのよ。そのお弁当はマヤ先生が正樹とエミリちゃんの事を思って作ってくれたお弁当じゃない。


そんな素敵なお弁当を笑うとか、人間として恥ずかしいと思わないの?」


 姉にド正論をかまされぐうの音も出ない純平。リサのこういうところは本当にすごいと思う


エミリが慕っているのも頷ける。


 俺たちがそんな他愛のない会話を交わしていた時、教室内で突然キャーという女生徒の黄色い声が湧き上がった。


何事かと思い声のする方へと振り向くと、廊下にはロイドが立っていたのだ。


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