恋と意地と因縁の挨拶
「だから嫌いということか。でも昨年エミリは十四歳、向こうの世界ならばまだ中学生だ。
JCが大人に混じってベスト8ならすごいと思うが」
「JCというのが何なのかわからないけれど、年齢とか性別とか関係ないわ。
強い者が勝つ、そして敗者には何の価値もない、それだけよ」
何かすごい事を言い出した我が妹。いつの時代の剣豪だ?
とツッコミたくなるが、剣による戦いで命を落とす可能性があるこちらの世界ならばそれもわからなくもないか。
「自分を倒したから嫌いか……でもその理屈だと俺や純平のことも嫌いなのか?」
「そんな事はないよ、私は剣の勝ち負けで人を好き嫌いの区別をする心の狭い人間じゃないわ」
「えっ、だって今さっきロイドには負けたから嫌いだと……」
するとエミリは唇を噛み締めロイドを睨みつけるように口を開いた。
「昨年の大会で負けたのは単に私が弱いからであってロイド先輩を恨むような事ではないわ。
私がロイド先輩を許せないのは、その戦いにおいてリサ姉がロイド先輩の応援をしていたという事よ
あり得ないでしょ、そんな事‼︎どうしてリサ姉は私じゃなくロイド先輩の応援なのよ、絶対に許せなかった。
だからあの人の事は嫌いなのよ‼︎」
隠しきれない怒気交じりの言葉で吐き捨てる様に言い放ったエミリ。
なるほど、エミリにはロイドというイケ好かない男を嫌う〈逆恨み〉という正当な理由があった訳だ。
心の狭さ度合いでいうのならば〈剣で負けたから嫌いだ〉という理由の方がまだマシだと思えるが、そこはスルーしておこう。
しかし小さい頃から姉妹のように育ってきたエミリより
ついロイドの方を応援してしまうというリサの行動原理には、怒りというより思わず笑いが込み上げてきた。
その時、ロイドと話していたリサがこちらに向かって手招きしながら叫んでいた。
「ちょっと来なさい純平、早く、ダッシュよ‼︎」
目を輝かせて嬉しそうに純平を呼び寄せるリサ。
純平とは昨日初めて会ったばかりだというのにその扱いは熟練の姉を思わせるパシらせっぷりである。
その言動を目の当たりにした純平は大きくため息をつき表情がげんなりとしてしまっていたがその気持ちも良くわかる。
「敬愛なる姉上様がお呼びのようなので俺、少し行ってきます……」
「ああ、冥福を祈る」
「ご愁傷様です……」
俺達は純平を送り出し、少し離れた所から見ていると、リサは純平の事を紹介していた。
「こいつ私の弟で純平っていいます。今日からこの学園に通うことになったのですよ」
するとロイドは少し驚いた顔を見せた。
「へえ〜リサ君に弟がいるなんて知らなかったよ。そういえば顔が似ているね、さすがは兄弟といったところだ」
「そうですか?ハハハハ、照れるなあ」
褒められたわけでもないのになぜか照れ笑いをうかべ上機嫌のリサ。
脳がピンク色に染まっている今のリサにとってはもう何でもアリなのだろう。
「でも今日からこの学園に通うということは、今まではどこに通っていたのかな?」
ロイドにとっては至極当然の質問であったが向こうの世界のことは内密にしておかなければいけない為
突然の質問にどう答えていいのか困った様子のリサ。少し挙動がおかしくなり目が泳ぎ出す。
「え〜と、その、何というか……遠い所です、遠い所で剣の修行的な?まあそんな所ですよ」
全然説明になっていないが、ロイドは納得した様子であった。
「へえ〜剣の修行、じゃあ彼は剣士なのかい?」
「そうなのです、一応小さい頃からシンゴ先生に教えてもらっていましたから、ソコソコはやれるみたいです」
「へえ~シンゴ先生に?幼少期より剣聖の指導を受けていたのならばかなりの腕なのだろうね」
ロイドが目を細め順平をジッと見た。しかしリサは顔の前で手をヒラヒラさせながら全力で否定した。
「いえいえ、そんな全然大したこと無いですよ、ロイド先輩に比べたら純平なんて虫みたいなものですよ、ホホホホホ」
純平は姉の強権により無理矢理呼びつけられたにもかかわらず一言も喋らせてもらえないどころか虫扱いされていた。
「純平の奴、完全に話のダシに使われているな……」
「あのままだとリサ姉どこまで暴走するかわからないし私達もそろそろ行った方がいいかも」
このままでは純平があまりに可哀そうだという事で俺達は仕方がなく救出作業に向かった。
「お姉さんはああ言っているが、純平くんだっけ、君はどうなのだい?」
「別に……俺なんか、全然大したこと無いっすよ」
初めて喋る機会を得た純平だったがロイドに対してワザと顔を逸らしながら、ぶっきらぼうに答えていた。
「コラ純平、何て口の利き方を‼すみませんロイド先輩」
純平の頭を押さえつける様に二人で頭を下げるリサ、もうここまで来ると完全に喜劇である。
「その男は凄く強いですよ」
リサとロイドの話に割って入ったのはエミリだった。
「やあ、エミリ君、おはよう。君は純平君の強さを知っているのかい?」
「ええ、私昨日、彼と偶然立ち会う機会がありまして、そこで完敗しましたから」
偶然立ち会う機会?俺の記憶が確かならばエミリが自ら純平を指名して戦った様な……
「ほう、エミリ君を相手に……それは相当だね」
ロイドの純平を見る目つきが少し変わった。
「ところでエミリ君、君の後ろにいる人はもしかして……」
「ええ、私の兄、シュタットハウゼン・フォン・マサキです。もちろん私より断然強いですよ、ロイド先輩」
エミリが俺を紹介してくれたが、その言い方には少し挑発的なモノが含まれている様に感じた。
どうやらエミリは本当にこのロイド先輩が嫌いな様だ。
「君が二代目の剣聖という訳か……」
目を細めいぶかしげな眼差しで俺を見つめるロイド。何だろう?
この人当りの良さそうな奴からなぜか敵意の様なモノを感じるぞ。
「剣聖とシュタットハウゼンの名を汚さない様に精々精進したまえ」
ロイドは上から目線でそう言い放つとクルリと背中を向け、そのまま立ち去って行った。
名を汚さない様にといわれてもなあ……剣聖になりたいと思った事など一度も無いし。
シュタットハウゼンとかいう舌を噛みそうな家名など背負わされても正直有難迷惑なだけである。
「ふっ、逃げたわね」
ロイドの背中を見つめながら何故かドヤ顔で勝利宣言するエミリ。どうにも朝から波乱を予感させる展開である。
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