初登校の朝に
アナザーゲートをくぐり一日ぶりにバレント王国に到着する。
純平は目を大きく見開き口を開けながら驚きを隠せない様子だ。
だが昨日と違うのは、今日からこちらの学校にも通わなければいけないという事である。
先程まではリサとエミリがウチの高校に転入してきて俺的にはホームでの戦いだった。
しかしこちらの世界で転入生として学校に通うという行為は完全アウェーでの戦いという事になる。
そもそも異世界の学校って何を勉強するのだろうか?
「じゃあ、また後でね~」
リサは純平を連行する様にライトハルト家に帰って行った。
そう、ここでは純平も田沼ではなくライトハルト伯爵家のご子息なのだ。
「じゃあ、私達も早く家に帰って学校に行く準備をしましょうか、兄貴」
少しおどけた感じで話しかけてくるエミリ。くそっ可愛いじゃねーか。
「なあエミリ、こちらの世界での学校って何を教えるのだ?」
「別に、普通の事よ、一般教養は勿論の事だけれど。
まずは魔法使いや剣士など専門的な職業の知識や実技。
様々な戦場における状況判断や対処法。
モンスターや魔族の生態と性質。
魔道具に関する予備知識や使用方法の習得、という所かしら?」
「随分と実践的な授業だな?生々しいというか、鮮烈というか……」
「まあね、何せ生徒達も自分達の生死がかかっているからね。
逆に向こうの世界の授業の方が私にとっては不思議だったわよ。
昔の人の書いた文章とか、数字の羅列を学んで何が役に立つの?」
「そ、それは……」
俺は思わず口ごもった、この質問に答えられる学生は日本に何人いるのだろうか?
こちらの世界の自宅に帰り、向こうの高校の制服からこちらの学校の制服に着替えようとしたが
その制服を見て一瞬躊躇してしまう。
俺達が通っていた高校の制服は男女ともに紺色のブレザーでよくある世間一般のイメージの制服なのだが。
こちらの制服は白を基調としたブレザーで胸には青と黄色で彩られた紋章の様なモノが入っている。
制服のあちらこちらには金の刺繍が入っており、どことなく厨二臭い。
とはいえこれがこちらの制服なのだから着ていくしかないと腹をくくり着替えを始めた。
今迄着ていた制服がこちらの世界の自宅の壁にかかっているのを見ると複雑な思いだ。
「お~い、エミリ、もう学校に行く準備はできて……」
こちらの世界でも俺とエミリの部屋は隣同士なのだが、ものすごく違う点があった。
それはこちらの家の部屋には扉が無いのだ、全てフルオープンの室内見放題。
そして例のごとくエミリは下着姿で着替えの最中であった。
「すまないエミリ……というか何で扉が無いのだ、この世界は⁉」
エミリが着替えを見られても平気なのが何となくわかった、全く常識を疑うぜ。
「え~っと、この場合は〈きゃー、兄貴のスケベ‼〉って言うのだっけ?」
こちらを見てクスリと笑いながら答えるエミリ。どこで覚えたのだ、そんなセリフ?
俺達はこちらの制服に着替えると二人揃って両親の前に立つ。
「向こうの制服も良かったが、やはりエミリはこちらの制服の方が似合うかな?
まあどちらも可愛いし最高だな……それに比べて正樹、お前はどっちを着ても冴えないな」
息子に向かって何という言い草だ、というよりどんだけ娘を溺愛しているのだ⁉
「冴えないのは俺が父さん似だからだよ」
何かこういう会話を交わしていると普通の家族みたいである。
「さあ、朝ごはんよ~正樹ちゃんもエミリちゃんも早く座って~」
食卓には焼いたパンとサラダ、コーヒーに茹で卵という典型的な朝食が並んでいた。
「母さん、俺的には朝食というより夕食が食べたいのだが……」
「でも正樹ちゃん、今は朝の六時半よ、時間的に朝食が普通じゃない」
「俺は部活で腹ペコだ、こんな軽いモノじゃ物足りないよ‼
大体こちらとあちらを移動しつづければ常に到着は朝の六時になるじゃねーか‼」
「てへっ、バレたか?毎回朝ごはんだと用意が楽だからつい、ね」
舌をペロリと出しておどけた仕草を見せる母さん。
ツッコミどころが多すぎて、もはやツッコむ気にもなれない。
エミリは黙々と朝食を口にしながら母さんのリアクションに完全スルーの姿勢を取っていた。
「いってらっしゃ~い、気を付けてね~」
大きく手を振りながら俺とエミリの登校を見守る父さんと母さん。
「全く父さんと母さんは、何処にいても変わらないな……」
「変わっていたらそれこそ問題よ、でもパパは私と兄貴とでは扱いが全然違うのね?そこは少し驚いた」
「まあ、男親にとって娘は特別とか聞いたことがあるし、父さんも人の子という事だろう」
そんな兄弟っぽい会話をしながら歩いているとリサと純平との待ち合わせ場所へと到着する。
「遅いわよ、もう待ちくたびれたわ」
相変わらずご機嫌斜めなリサであった。
「ごめんリサ姉、でも走って行かなければいけない程時間がない訳じゃないよ?」
「私はなるべく早めに行きたいの、その……授業の準備とかあるし……」
何だろうか、珍しくリサの言葉の歯切れが悪い。
するとエミリが俺の耳元で囁いた。
「リサ姉が好きな人が早く学校に来るから自分も早く行きたいのよ……」
成程、それなら納得だ、リサも可愛いところあるじゃないか。
理由がわかった俺とエミリはニヤニヤとリサを見つめる。
「な、何よその顔は⁉違うわよ、全然違うのだからね‼」
顔を真っ赤にして慌てながら否定するリサ。もうこれだけで白状している様なモノである。
「何も言っていないのに何が違うのか説明してくれませんか、リサさん?」
「顔が赤いよ、リサ姉」
今度は耳まで赤くなって小刻みに震えだすリサ、コイツ反応までわかりやすいな。
「もう知らない‼エミリちゃん正樹に影響されて最近少し性格が悪くなったんじゃない⁉」
リサは頬を膨らませながら少し拗ねる仕草を見せる。
こういったリアクションでさえも、もはや狙ってやっているのか?とさえ思えてきた。
俺達はそんな話をしながらしばらく歩いていると目の前に学校と思しき建物が見えてくる。
こちらの世界で俺達が通う学校は【シュナイダー王立学園】
国中でも選ばれた優秀な生徒達が通う学校らしく、全校生徒合わせても百人に満たないという超のつくエリート校らしい。
比較的最近設立との事で建物も随分と新しい。
真っ白な壁とさまざまな箇所に装飾された派手な飾り付けという佇まいはどことなく西洋風の建物を彷彿とさせる。
このシュナイダーという学校名の由来は創設者とかこの世界の偉人とかではないらしく。
なぜか誰も知らないらしい、でもどこかで聞いたことがある様な……
「綺麗な建物だな、でも学校にしては少し派手かな?と思うけれど」
「うん、一部の女生徒には人気があるのだけれどね」
俺はこれから通うことになる異世界の学校というものに少し不安を抱えながら何となく校舎を見ていた。
リサやエミリもウチの高校に通うときはこんな気持ちだったのだろうか?
学校が近づいてくると校門の前に立って登校してくる生徒達に挨拶をしている男子生徒が目に入ってくる。
制服を着ているので先生ではないだろう。するとその男子生徒が見えた途端、リサが小走りで近づいて行った。
「なあエミリ、あの男子生徒って、まさか……」
「ええ、あれがリサ姉が好きな人、生徒会長のロイド先輩よ」
ロイドという男子生徒は全ての生徒達に愛想よく挨拶していた。
金髪で長身、おまけにイケメンで人当たりが良さそうといった容姿をしている。
「どういう奴なのだ?」
「ロイド先輩は兄貴やリサ姉より二つ上の四年生、成績は常にトップで誰からも好かれているわ
特に剣の腕は相当で若干十八歳で大人も混じった剣の大会で優勝、昨年二連覇したわ。
父親は聖騎士隊の団長でロイド先輩はそんなお父さんを凄く尊敬していて自分もそうなりたいと常に努力している。
容姿端麗、成績優秀、誰にでも優しく、そして剣の天才なのに
謙虚で努力を惜しまないという性格なので特に女生徒には絶大な人気があるの。
ロイド先輩に憧れているのはリサ姉だけじゃない、おそらく
この学校の八割近くの女生徒はロイド先輩のことが好きなのじゃないかな?」
エミリの説明を聞き妙に納得した。まるで少女漫画に出て来るヒーローだ
そしていかにもリサが好きになりそうな男だ。
「なるほどね、実にわかりやすい男の敵という訳だ、言い換えればこっちの世界の純平みたいな奴という訳か」
「ええ、でもロイド先輩は女性にも優しいわ」
「そうか、人間的に重大な欠落箇所を持たない純平か……それはリサが惚れるのもわかるな」
そんな俺とエミリの会話にたまらず純平が割り込んできた。
「正樹兄、あんた俺のことをどんな目で見ているんだよ⁉︎」
「すまん、すまん、自分なりにわかりやすく理解しようとした結果なのだ」
「何だよそれ……しかし姉貴のやつ、あんなチャラチャラした男のどこがいいんだ?」
少し不機嫌そうな純平、姉が憧れている男を見て嫉妬しているのだろうか?
何にしても地球代表のイケメンとして純平君には頑張って欲しいものである。
俺達がそんな会話をしているうちにリサはロイドに近づき息を弾ませながら挨拶をしていた。
「おはようございます、ロイド先輩‼︎」
「ああ、おはようリサくん、相変わらず元気だね、いい事でもあったのかな?」
「いえ、そんな事は……」
ロイドと話しているリサは頬を赤らめ、嬉しくてしょうがないといった感じである。
「お〜お〜、〈恋する乙女のオーラ全開〉といった感じだな、実にわかりやすい」
「リサ姉はあれで周りにバレていないつもりだから面白いよね。まあそれがリサ姉のいいところでもあるのだけれど」
その時、俺はふとある事が気になった。
「なあエミリ、ほとんどの女生徒があのロイドとかいう奴に憧れていると言ったが
エミリもあいつの事が好きなのか?」
俺が何気なしに質問するとエミリは急に不快感をあらわにした表情を浮かべ少し睨みつけるようにこちらを見てきた。
「はあ?そんな訳ないじゃない、どちらかといえば嫌いよ」
「そうか、そうか、嫌いか、ならいいのだが……でもどうしてだ?」
ロイドの様ないかにもというイケメンキャラに妹までもが憧れているのなら少し心中穏やかではなかったが
嫌いだと言われて少しホッとしている自分がいた。
我ながら心が狭いと思うのだが、それが本心なのだから仕方がない。
「私が初めて出た昨年の大会で私を負かしたのがあのロイド先輩だからよ……」
エミリは当時の事を思い出すかのように、悔しそうに言った。
そうか、エミリがベスト8まで勝ち進んだという大会の優勝者があいつなのか……
俺はそれを聞いて何か複雑な気持ちになった。
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