驚きの初対面
今日の授業が終わり仲のいい友達同士で話しながらゾロゾロと教室を出て行くクラスメイトたち
俺は部活動があるので帰宅部の学と少し言葉を交わした後そのまま部室へと向かった。
しばらく一人で廊下を歩いていると不意に後ろからの声をかけられる。
「待ってくださいよ、東野先輩‼︎」
その声の方に振り向くと、そこには一人の後輩が小走りで近づいてくる姿が見えた。
「おう、純平か。しかしお前に東野先輩とか言われると何だかむず痒いな」
「一応部活動の先輩後輩だし、昔からの正樹兄の呼び方じゃマズイと思って変えているだからそんなこと言うなよ」
この人懐っこい後輩の名は田沼純平。コイツとは昔からの知り合いでいわゆる幼馴染というヤツだ。
子供の頃から同じ剣道道場に通っている先輩後輩でもある。
今はあんな感じではあるが俺の父さんは若い頃に全日本剣道選手権で優勝した事もあり
休みの日は近所の子供を中心に剣道を教えていてこの純平もその門下生なのである。
だから純平とは小学生低学年の頃からの付き合いで家も近所
お互い一人っ子だった事もあり俺たちは兄弟のように育ったという訳である。
「なあ純平、部活の間だけ東野先輩呼びにして普段はいつもの正樹兄にしてくれないか?」
「それでもいいけど、そうすると部活の時でもつい正樹兄と口から出てしまう気がしてさ」
「それはお前の努力しだいだろ」
「ちぇ、他人事だと思って好き勝手に言っているな、正樹兄は」
少し拗ねたような仕草が子犬みたいでどこか癒される。
ひとつ年下のこの可愛い後輩は俺を追いかけるように同じ高校に入学してきたのである。
「なあ純平、ウチの高校の剣道部はどうだ?」
俺は何となく気になって、それとなく聞いてみた。
「うん、いいね。思っていた以上にレベル高くて安心した。練習はきついけれどその分強くなれるからね。
俺、高校では正樹兄を倒すのが目標だから覚悟しておいてくれよ‼︎」
顔に似合わない挑戦的なセリフを吐き俺の前に拳を突き出す純平。
そう、この純平とは昔から先輩後輩であり兄弟のようでもありそしてライバルでもあった。
中学の時の地区大会ではいつも上位争いを繰り広げ、俺が中学三年の時は地区予選の決勝で純平と当たった。
今まで公式な大会では純平に負けたことはないが道場では何本か取られていて
俺が卒業した前年の中学での大会では東京代表として出場し全国大会で三位という高成績を収めた猛者である。
「純平が来てくれてウチの部も一層レベルが上がったし団体戦では先鋒を任せたいって主将も言っていたぜ、そういえば……」
俺は話の途中である事に気がつき思わず言葉を止める。
純平の後ろにいる女子たちがこちらを見て何やらキャッキャと話しているのが目に入ったからである。
俺がその女子達に気づいて会話を止めた事を察した純平は思わず顔をしかめ舌打ちする。
「ちっ、いい加減にしてくれよな……」
先程までの素直な態度から一変し急に不機嫌な表情になる純平。
先程〈顔に似合わず〉という表現をしたがこの田沼純平という我が後輩はとにかくイケメンなのである。
男に対してこんな表現はどうかと思うのだが、美しい顔立ちというか癒し系のアイドル顔とでもいえばいいのか
子供の頃から容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、おまけに剣道は全国レベルとなると嫌でも女子が放っておかないらしい。
幼少時代から女にはモテモテで中学の時からファンクラブの様なモノまであった。
それ故に様々な女子が俺に〈田沼くんにこれを渡してください〉と手紙を渡されたことが何度かあった。
「俺は剣道に集中したいのに女とかマジうぜえよ。もう放っておいて欲しいぜ、全く……」
純平はそのモテっぷり故に子供の頃から意図しない女子がらみのいざこざが絶えず、すっかり女性不信になってしまったのだ。
現在姫乃樹さんにドップリ惚れている俺にはその気持ちはさっぱり理解できない。
男として一度は言ってみたいセリフだがおそらく俺には一生縁がない言葉なのだろう。
「何かよくわからないが、大変だな、純平も……」
女にモテるというのは全ての男子の憧れでもあるのだが、それはそれで苦労もある様だ、知らんけど……
だから俺は何となく理解した感じで言ってみた、すると純平は目を閉じ、〈ふう〉と息を吐くと再び力強い口調で返してきた。
「今の俺は剣道一筋だよ、女なんかに構っていられるか、絶対に正樹兄に勝ちたいから‼︎」
真っ直ぐな目でこちらを見つめてきた純平、本当に気持ちのいい奴である。
だがすまない、今の俺の頭の中はその女の子の事で雑念まみれだ、それゆえに負けられない。
ここで順平に剣道まで負けてしまったら俺には何も残らない様な気がしたからである
どうか俺に力を貸してくれ姫乃樹さん‼︎こうして俺達は部活動に打ち込み青春の汗を流した
この時にはすでに朝の出来事はすっかり頭から抜けてしまっていた。
部活が終わり着替えを済ませて外に出ると空はすっかり暗くなっていた。
部員達がそれぞれ帰路につく中で俺と純平は二人で家路へと向う。
「なあ正樹兄、帰りにハンバーガーでも食べて行かないか?俺、腹へっちゃってさ」
純平が何気ない発言を聞いて俺は突然今朝のやりとりを思い出した。
「あっ、悪い純平。そういえば帰ってから父さんと母さんから話があるって言われていた事を今思い出した。
だから今日はまっすぐ帰るわ」
「東野先生から話って、改まって何の話なの?」
まさか〈俺に婚約者がいるって話で、しかもその相手が異世界の女の子らしい〉とはとても言えない。
というかそんな話をしたら頭がおかしくなったと思われるのがオチだろう。
どうせ何かのドッキリだろうし。
「いや、実は今日俺の誕生日でさ、どうやら父さんと母さんが何やらサプライズを用意してくれているみたいなのだよ。
どうせロクでもない事を企んでいるのだろうけれど一応祝ってもらう立場の息子としてはその行為は素直に受けなきゃダメかなと思った訳だ」
「そうか、今日は正樹兄の誕生日だった⁉︎すっかり忘れていたよ、おめでとう正樹兄‼︎」
屈託のない笑顔で素直に祝福の言葉をくれる純平、コイツは本当にいい奴だ。
女の子に冷たいという点を除けば理想の後輩ともいえる。
「ありがとう、純平。じゃあそういうわけだから」
「うん、わかった。東野先生にもよろしく言っておいて、じゃあね」
こうして俺は純平と別れ家へと向かう。純平の家から自宅まではものの数分しかかからないのだが
今から起こることを考えると足取りは重く、生まれて初めて家に帰りたくないとさえ思えてきた。
「ただいま、今朝の話だけれど……」
玄関の扉を開けて靴を脱いだ直後、俺はすぐさま奥のリビングにいる両親に語りかけた。
訳のわからない話はさっさと済ませてしまおうと帰ってきた早々に話を切り出したのである。
「おう帰ってきたか正樹、じゃあ出かけるぞ」
「あまり時間がないの。早く着替えをして出かけるわよ、正樹ちゃん」
相変わらず俺の都合などお構いなしの父さんと母さん。俺の誕生日だというのに随分と慌ただしいな
もしかしたら外食でもするつもりなのだろうか?
「ちょっと待ってくれよ、俺は今帰ってきたばかりだぜ?どうして出かけるのか説明してくれ」
俺としては至極当然の要求をしたつもりなのだが、父さんと母さんには通じなかった。
「男が細かいことを気にするな。ホレ、さっさと行くぞ‼︎」
「何があるのかはお楽しみ〜、ウフフ」
案の定というか予想通りというか納得のいく説明は無かった……
何だろう、この二人とは結構長い付き合いだがこの時ばかりは少しイラっときた。
しかしここでツッコミを入れて問い詰めてもまともな返事が返ってこないことは明白なので仕方がなく黙ってついて行くことにする。
俺は二階の自室に戻るとトレーナーにGパンという普段着に着替えて下に降りていった。
「何だ、その格好は?もう少しマシな服はなかったのか」
「そうよ、正樹ちゃん。今日は歴史的な日なのだからもう少しいい服を着て欲しいのだけれど……
そうだ、今から私がコーディネイトしてあげましょうか⁉︎」
何やら再び訳のわからない事を言い出した両親だが俺がこの味もそっけもない普段着を着てきたのはもちろんワザとだ。
俺の誕生日だというのに説明も一切なしで振り回された仕返し
プチ反抗期とでもいえばいいのだろうか?いわばささやかな抵抗というやつである。
「もう時間がないのだろう?早く行こうぜ、どこに行くかは知らないけれど」
父さんと母さんは渋々ながら俺の提案を承諾し、出かける為に車に乗り込んだ。
「そういえば父さんと母さん、今日は仕事大丈夫なの?」
俺の両親は政府関係の仕事をしていて毎日夜の九時過ぎになると二人揃って仕事に出かける。
日曜も祭日もなく本当に毎日きっかりとその時間に出かけるのだ。
政府関係の仕事なのに夜の九時過ぎに出勤とは変だな?とは思うが俺が物心ついた時からなので
もうそういうものだと理解していた。そしてどんな仕事をしているのかは息子である俺にも一切明かしてはくれない
〈政府の重要な仕事なので機密条項だ〉の一点張りなのである。
「ああ、大丈夫だ。今日は仕事も兼ねてきているからな」
「今日は私たちの仕事を正樹ちゃんに知ってもらう意味もあるのよ、ウフフ」
意味深な言葉と含みを持つ笑いで益々不安に陥る俺、一体何なのだ?
今日は俺の誕生日祝いじゃなかったのかよ⁉︎そりゃあ両親の仕事は前から気になってはいたけれど……
そんな事を考えているうちに車は目的地へと到着する。そこは都内でも有名なホテルであり
車から降りるとボーイさんが丁寧な対応をしてくれた。
入り口を入るとロビーは凄くきらびやかに輝き何か別世界にいるような気分になる。
「東野様でございますね、それではご案内いたします」
案内役のボーイさんに導かれノコノコと両親について行く俺。
ホテルのレストランで食事でもするのかな?今思えばこの場所にこの格好は不釣り合いだ。
今更ながら自分の浅はかな行為を後悔するがそれこそ後の祭りである。
外景が見えるエレベーターに乗り到着した階は予想していた展望台のある最上階のレストランではなく
意外にも会議室の様な個室だった。こんな殺風景な会議室で食事をするとも思えず
これから何が起こるのか益々わからず困惑するばかりの俺。
しかもお腹が空いてきた、こんな事ならば純平とハンバーガーを食べていればよかったと後悔するがそれこそ今更である。
しばらくその部屋で待っているとドアをノックする音が聞こえてくる。
「どうぞ」
父さんが返事をするとガチャリと扉が開き一人の男性が入ってきた。
歳は六十過ぎだろうか、髪は白く顔のシワも多いがどことなく上品な感じがする老人という印象だ。
「いや、お待たせしました。ライトハルト伯爵が急用で来られなくなってしまったせいで
色々とゴチャついていまして、本当に申し訳ない」
「いえ、私たちも今来たところですから」
父さんがそう返すとその老人はニコリと笑って軽く頷いた。
「さあお嬢様、お入りになってください」
その老人に促され入って来た女性を見て俺は思わず息を呑んだ。
長い黒髪にすらりと伸びた長い手足、モデルかと思える程のスタイルと女優ばりの整った顔立ち
一瞬言葉を失うほど美しい女性がそこにはいた
年の頃は俺と同じぐらいか?芸能人と言われてもおかしくない。
パーティードレスの様な衣装を身に纏ったその姿はまさにお姫様といった印象を受けた。
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