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話題沸騰の転校生 part2

こうして一日の授業は何とか無事に終わった。


二時限目が終わる頃にはリサには彼氏がいるという情報が伝わったのだろう


リサの周りに群がっていた男共は綺麗にいなくなっていた。


授業が終わり、皆が帰り支度を始めた頃、数人の男達が慌てて教室を飛び出して行った。


何事だ?と思い、後ろを見ると学もかなり急いだ様子で教科書をカバンに詰め込んでいた。


「しまった、俺としたことが出遅れたぜ」


「おい、学。一体どうしたんだ?」


「今急いでいるんだ、明日話してやるから」


「話などすぐ済むだろう?手短に話せよ」


「ちっ、この忙しいときに……いいか正樹、今日転校してきたのは田沼さんだけじゃないのだ


実は一年生にも転入生がいるらしい。それが滅茶苦茶可愛いとの情報を得たのだ。


田沼さんには既に彼氏がいるという訃報を聞かされたが、その子ならば……


と勇者たちが我先に馳せ参じようとしている訳だ。だから俺も行かねばならぬ。止めてくれるな、親友よ‼」


 コイツは自分に彼女がいるという事を自覚しているのだろうか?


 ん?待てよ、今日転入してきた一年生って……


 学はリレーのバトンを掴む様にカバンを手にするとそのまま脇目も振らず教室を出て行こうとした。


しかし次の瞬間、学は扉の前でピタリと足を止め、誰かに話しかけていた。


「ど、どうしましたお嬢さん。我々の教室に何か御用でも?」


 よそよそしい言葉遣いで誰かに話しかけている学。よく見てみると、学の目の前にはエミリが立っていた。


そしてその後方にはウチのクラスの男どもを含めた人だかりができていたのだ。やっぱり……


「あの……東野正樹はこのクラスですか?」


 それまでニコニコしていた学の表情が一瞬強張る。


「え~っと、正樹ですか?彼とはどういった……」


 もう聞いていられないので俺が話に割って入った。


「おうエミリ、ウチのクラスまでワザワザ来てくれたのか?」


「うん、少し迷ったけれど……」


 周りの男共がざわつき始め辺りからの視線が痛い。中には殺気交じりのモノすらあった。


いかん……またおかしな誤解を生んでいる様だな。


そして次の瞬間、学がいきなり肩を組んできて俺の耳元で問いかけてきたのだ。


「なあ正樹、俺達親友だよな?この可愛い子とどういう関係か、じっくり聞かせてくれないか?


事と次第によっては絶交しちゃうぞ」


 顔の表情と言葉の内容が一致しない学。


額に血管を浮かび上がらせながらにこやかに微笑むという大技を繰り出していた。


「おい、学。お前何か誤解しているだろう⁉」


「うん、誤解で済むと信じているぜ、親友……いや被疑者と言った方が良いか東野正樹被告」


 う~ん、コレはどうしたモノだろう。


学とは付き合いが長いだけに俺に兄弟がいなかった事を知っていたし、いやはやどう説明すればいいのやら……


「ねえ、兄貴。まだ帰らないの?」


 エミリが言葉を発した瞬間、もの凄いスピードで振り向いた学。


「兄貴?どういう事だ、正樹」


「だから、この子は俺の妹で東野エミリという名前だ」


「妹だ⁉嘘つけ、お前に妹なんて居なかっただろ‼」


「実は妹はリサと一緒に海外留学していたのだよ。正直いつ帰って来るのかもわからなかったから面倒なので


〈兄弟はいない〉と言っていただけだ。だますつもりは無かったがスマン」


 どうだ、やや苦しい言い訳だがこれで納得してくれれば……裁判長⁉


「何だよ~、そうならそうと早く言ってくれよ~。ねえエミリちゃん


俺は正樹の親友、広瀬学と申します。お兄さんをいつもお世話しております、お見知りおきを」


 学は急に機嫌がよくなり猫なで声で話し始めた。どうやら無罪判決が出たようである。


「どうだいエミリちゃん、今から三人でカラオケでも?ねえ正樹兄さん」


 この一瞬の間に絶交寸前から無二の親友モードに切り替わりついには義兄弟となった様だ。


この切り替えの早さには呆れるというか感心するばかりである。しかし本当に調子がいいな、コイツは……


「俺がいつお前のお兄さんになった⁉いい加減にしろよ、学‼」


「まあまあ兄さん、そう言わずに俺と君の仲じゃないか。ここは三人で……はっ⁉」


 饒舌に喋っていた学が突然硬直し、一瞬で顔から血の気が引いた。


不思議に思いその視線の先を見てみると、そこには学の彼女、浅田梨花が凄い目でこちらを睨みつけていたのである。


「ちょっと、学、カラオケとかどういう事?もしかしてまた他の女にちょっかい出していたの?


私言ったよね、今度浮気したら本当に別れるって‼」


「違うんだ梨花、これには海より深い訳があって……」


「どんな理由よ、言ってみなさいよ」


「あの、え~っと、その、つまり……何というか、のっぴきならない、やむを得ない、断腸の思いの


かくかくしかじかで……でして、当方といたしましては……」


 ダメだこりゃ、完全にテンパっている。


余程困ったのだろう、学は言い訳をしながら捨てられた子犬の様な目でこちらを見てきた。


 何というわかりやすいSOS信号だろう。


 事の経緯を考えれば自業自得もいい所で情状酌量の余地は微塵も無いが


ここで学と彼女が別れてしまうと俺と姫乃樹さんのキューピットがいなくなってしまうのでそれは困る。


 キューピットこと浅田梨花さんは手に持っている矢を彼氏である学に向けていた。


目一杯弓を引き絞り、明らかに本来とは違う殺傷能力のある矢で学の脳天に狙いを定めている。


 ヤレヤレ、気は進まないがここは庇ってやるか……


「ちょっといいかな、浅田さん。実はこの子は俺の妹で


先日外国留学から帰ってきたばかりで今日この学校に転入してきたのだよ。


結構長い間外国に居たものだからまだ日本に慣れていなくて


それを心配してくれた学が〈みんなでカラオケでもどうか?〉と誘ってくれたのだよ。


もちろん俺や浅田さんも一緒にという意味だ、本当にそれだけなのだよ」


 この場の思いつきで嘘八百を並べ立てたこの証言は裁判であれば〈偽証罪〉に当たるがこの際は仕方がない。


さあ俺の弁護は通じたのか?さて裁判長の判決はいかに⁉


「なあ~んだ、そうだったの?学ったら、やっぱり優しい~‼」


 先程まで般若の様な恐ろしい顔を浮かべていた浅田さんの表情が一変し


ニコニコと笑いながら学に近づき話しかけていた。


 極刑待ったなしの状況からまさかの逆転判決で無罪を勝ち取った学。


彼の擁護をしておきながらこんな事を言うのはどうかと思うが、世の中間違っていませんかね?


正義より友情を取ってしまった俺は果たして正しかったのだろうか……


「たりめーだろう、俺が浮気とかするかよ~俺は梨花一筋だぜ」


「ごみ~ん、学を疑って~」


 急にいちゃつき始めた学と浅田さん。


物語で言うならば打ち首寸前の罪人の男が突然ヒロインとダンスを踊り始めるという急展開。


何という茶番だ。付き合いきれないぜ、全く……


学は彼女と共に帰って行った。何度も右手で〈ありがとう〉のゼスチャーをしながら……


「色々ゴチャついて悪かったな、エミリ」


「いや、それは別にいいけど……」


 そういえば帰りの事は何も考えていなかったな。登校は四人一緒に来られたが俺と純平には部活がある。


さてどうしたモノか……


そんな俺の様子を見てリサが問いかけてきた。


「どうしたのよ、正樹?」


「俺と純平はこれから剣道部の部活があるんだ


その間リサとエミリに待っていてもらうのも悪いし……二人で帰れるか?」


リサは少し考えながら答える。


「朝に来た道を逆に帰ればいいのでしょう?


多分大丈夫だと思うけれど……いざとなったら魔法を使うし」


 魔法ってそんな事にも使えるのか、ナビゲーションシステムみたいなモノかな?


それとも瞬間移動みたいな?何にしても便利なモノだ。


「そういえば二人とも昨日スマホを渡されていただろ?それに入っているナビを使えば帰る事もできるぜ」


 リサとエミリは思い出したかのように昨日渡されたスマホをポケットから取り出す。


「昨日渡されたこの小さい魔道具ね?〈すまほ〉っていうの、コレ?


色々と説明されたのだけれどイマイチ使い方がわからなくて……」


「使いこなすと滅茶苦茶便利だぜ、大体の事はコレでできる。例えば……」


 俺はスマホの色々な利用方を二人に教えるとリサとエミリは目を丸くして聞いていた。


「凄いのね、この〈すまほ〉とかいう魔道具は⁉」


「これ程の高等な魔道具ならばさぞかし希少価値の高いレアアイテムだよね?リサ姉。


金貨にして百五十枚といったところかな。これ程の高価なアイテムをどうやって?」


 二人ともかなりピントがズレているな。向こうの世界にはスマホどころか携帯電話が無いのだから仕方がないが……


「いやいや、それなりに高価な物ではあるけれど一般的な高校生ならばほぼ所有している物だ。


だからそんな事を気にしなくてもいいよ」


「これ程の魔道具が一般社会に流通しているの⁉凄いわね」


「確かに私達の居た世界とは文化形態が違うね、リサ姉。私達も色々と勉強しないと」


 そういえばあちらの世界には電化製品とか一切なかったな。


「向こうの世界は主にどういう文化形態を辿って来たのだ?」


「そうね、父上が言うにはこちらの世界が〈かがく〉を中心に発展を遂げて来たのに対し。


向こうの世界は〈魔術〉を中心に発展を遂げてきた。どちらにも一長一短があると父上は言っていたわ」


「なるほどそういう事か。だから父さんたち……というより日本政府とバレント王国はこちらの世界に魔術を取り入れ


向こうの世界には科学を持ち込むことによって相互発展を遂げようという考えなのだな。


今風に言うとウインウインの関係というヤツか」


「そういう事みたいね兄貴。パパも昨日同じような事を言っていたわ。


でも向こうの世界には〈でんき〉とかいう聞きなれない魔力が無いから中々難しいと言っていたわね。


まずは〈でんき〉を一般化させるための〈いんふら整備〉とかいうのが必要だとか何とか……」


 向こうの世界でネットゲームやテレビを見たりするのはまだまだ先の話の様だ。


「それはそうとして二人で帰るのは大丈夫か?」


「大丈夫よ、エミリちゃんは私がちゃんと家まで送り届けて……」


 リサがそう言いかけた時、それを遮る様にエミリが口を挟んできた。


「兄貴、ちょっと頼みがあるのだけれど」


 真剣な眼差しでこちらをジッと見つめてきたエミリ。


口調や表情からも何やら尋常ではない雰囲気がヒシヒシと伝わって来る。


「何だよ、いきなり?」


「その……兄貴とリサ姉の弟さんのやっているケンドーとかいう修行を見てみたいのだけれど」


「えっ、俺と純平の剣道部の部活動を見学したいという事か?」


 エミリは無言でコクリと頷いた。


「う~ん、どうだろう。今日は顧問の先生が出張でいないと言っていたからな。主将に許可を取ればいいのかな?」


 最近は安全面での考慮なのか、入部希望ではない部外者が部活動を見学するには


顧問の許可がいるという校則になっている。さてどうしたモノか……


 俺がどうしようかと考えているとエミリが上目遣いでボソリと呟いた。


「兄貴、朝私に〈何かあったら俺に言え、全部俺が何とかしてやる〉って言った」


 確かに言ったな、そんな事……


妹の前でカッコつけたくて、勢いとはいえ軽率な発言だったと反省するばかりである。


これでは学の事を言えないな。朝の俺はどれだけ愚か者だったのだ。


「わかった、何とかするよ。それでリサはどうする?」


「エミリちゃんを残して私だけ帰る訳にはいかないじゃない。私も行くわよ」


 明らかに剣道には興味なさそうなリサだが、こういう点がコイツのいい所なのだろうな。


「有難う、リサ姉」


 笑顔で自然にリサの腕に抱き着くエミリ。リサもまんざらでもない様子だ。


端から見ているとこの二人は本当に姉妹に見える。俺にも慣れてくればアレをやってもらえるのだろうか?



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