始めまして妹よ
俺の小さなプライドの為に地球の危機を招いたとあっては、俺を庇って死んだというもう一人の母さんに顔向けできないぞ。
俺の一言で一旦は黙った母さんだがもう話したく話したくてウズウズしているのが手に取るようにわかる。
母さんに対する暴言のせいか、父さんは俺の方を見て呆れ顔を浮かべていた
そしてリサは敵意むき出しの目で俺を睨んでいる。正に四面楚歌の絶体絶命とはこの事か。
何も悪い事をしていない俺がなぜこの様な修羅場な場面に立たされなければならないのだろうか?
この世には神も仏もいないのか⁉異世界にはいないのかな?
そんな事はどうでもいい、少し前に会った名前も知らない退魔士のお坊さんや神父さん、神仏の力で僕を助けてください。
そんな俺の思いが通じたのか、玄関から一人の少女が入ってきた。
「あれ?リサ姉、来ていたんだ⁉」
入って来たのは随分と可愛らしい女の子だった。整った顔立ちにやや小柄な体格
髪はボブカットで見た目活発そうな美少女である。
リサの事を〈リサ姉〉と呼んでいるところを見るとリサの妹さんだろうか?
何にしても助かった、よし、この波に乗るしかない‼
「母さん、あの子随分かわいいね、リサの妹さん?」
「違うわ、貴方の妹よ、正樹ちゃん」
「は?今何と……」
緊急事態で俺の耳がいかれてしまったのだろうか?母さんは確かに〈俺の妹〉と言ったぞ。
「こんな時に冗談は止めてくれよ、母さん」
「何を言っている、その子は正真正銘のお前の妹だぞ。俺と母さんの実の娘で東野エミリだ
今年十六歳を迎えたばかりだ、可愛がってやれよ、正樹」
今度は父さんまでもが訳の分からない事を言い出したぞ、もう何が何だか……
すると俺の妹と言われていたエミリが父さんと母さんに話しかけた。
「ねえ、パパ、ママ、この人が本当に私の兄弟なの?」
不快感をあらわにしながら、こちらをジト目で見つめてくる妹〈仮〉。
「そうよ、あの人が貴方のお兄ちゃん、正樹ちゃんよ」
「少し頼りないが一応エミリの兄にあたる男だ。仲良く、な」
「え~、そう言われても……何か頼りなさそうだし、弱そうだし、頭も悪そうだし……」
言いたい放題言ってくれるな、我が妹〈仮〉よ。
少し可愛いからって、お兄ちゃんだって、怒ったら怖いんだぞ。
「そんなこと言うモノじゃありませんエミリちゃん、正樹ちゃんは凄く強いし、頼りになるし、頭だって凄く良いのよ‼」
疑いの目でこちらを見つめる妹をたしなめるように注意する母さん。
だがそこまで持ち上げられると少々ハードルが高すぎるよ、母さん。
何事もほどほどにという事を覚えてくれ……
しかし父さん母さんとのやり取りを見る限り間違いなく親子の会話に見えるぞ。
信じがたいがこの子が俺の妹なのはどうやら本当の事みたいだ。
一つ難点があるとすれば〈俺が知らなかった〉と言うだけの事でそれさえ除けば何の問題も……
いやいやそれが一番の問題だろうが、それにしても今日は衝撃の事実が多すぎるぞ⁉
俺の誕生日だというのに、全く何て日だ⁉
呆気に取られている俺を見かねたのか、今回は何も聞いていないのに母さんが説明を始めた。
「私達の一族は、男の子が生まれたら日本で、女の子が生まれたらバレント王国で育てると決められているの。
そして男の子は剣士へ、女の子は魔法使いへと育てられるのよ」
〈コレでわかったでしょ〉とばかりにドヤ顔で語る母さん。
しかし理解できるのと納得できるのではまるで違うという事をそろそろ覚えて欲しいと思う。
そもそも何だ、その里子制度みたいな訳の分からない仕組みは⁉
生まれたらすぐに兄弟を引き離すとかいつの時代だよ。
しかしどちらもきちんと両親に育てられているのだからそこまでの問題では無いのか?
いきなり〈実はお前には兄弟がいる〉と聞かされる身にもなってくれよ。
「しかしちゃんと戸籍上ではエミリはお前の妹として登録してあるぞ」
「えっ、そうなの?」
父さんの指摘に思わず聞き返してしまった俺。
でも自分の戸籍とかワザワザ見に行かないし、そんなの確かめ様がないだろ……
すると突然、エミリが訴える様に叫んだ。
「もういい加減にして、いきなり私に兄がいるとか聞かされて
ただでさえ困惑しているのに、見るからに弱そうなこの人が剣士を目指していて
どうして私は女だってだというだけで魔法使いを目指さなければいけないのよ⁉
私はパパの様な剣士になりたいの。
剣聖の娘が何で地味な魔法使いを目指さなければいけないのよ、そんなの間違っているじゃない‼」
和やかな空気が一変した。そうかこの子は剣士になりたかったのか……
そういえばリサも母さんもこの世界での魔法使いはあくまでサポート役の補助職だと言っていたな。
先代魔王を倒したというこの世界での英雄である父さんを目指すのもわからなくはない。
「いいエミリちゃん、魔法使いは、本当は……」
「ママは黙っていてよ‼何と言われても私は剣士になりたいの。
誰にも邪魔はさせない、ママみたいな魔法使いになるのは絶対に嫌よ‼」
「こら、エミリ、ママに謝りなさい‼」
珍しく父さんが怒ったが絶対に引かないつもりの我が妹。
う~ん、随分と頑なな性格の様だ、それにしても典型的な親子喧嘩という感じだな。
その喧嘩相手が俺の両親というのが何とも複雑な気分だがもうその辺りは慣れるしかないのだろう。
大体俺が横から口を出したところで初対面の俺の言葉では説得力が無いし
そもそもこの事態を招いたのは父さんと母さんだ、妹の性格をもっとよく知る上でもここはお手並み拝見と行こうか。
しかし両親と妹の口論は平行線をたどり一向に収束の気配がない。
それどころか両者とも感情的になってきて最初よりも寧ろ悪化の一途を辿っているように見えた。
その時ふと思ったのだが、この世界には職業選択の自由というのは無いのだろうか?
妹であるエミリがこれほど剣士になりたいと言っているのだから
成功する、しないは別としても一度やらせてみればいいと思うのだけれど……そんな思いが俺を動かした。
「なあ、父さん、母さん、エミリがこれほど剣士になりたいと言っているのだから、やらせてみるのはダメなのか?」
激論を繰り広げていた両者がピタリと止まり一斉に俺の方に視線を向けた。
偶然とはいえ妹には先程の大ピンチを救ってもらったのだし
今後の為にここで理解のあるお兄ちゃんを演じておくのも悪くない
どちらに転んでも俺の株は下がらないだろう……という邪な考えがあったのは事実である。
だが俺のそんな考えは砂糖のシロップ漬けより甘かったことを思い知る。
「いきなり出てきて兄貴面しないで、アンタなんかどうせ弱いくせに‼」
こんな打算的な考えは大体が失敗するといういい例である。
妹のエミリからは感謝の言葉どころか辛辣な罵声が返って来たのだ、お兄ちゃん泣きそうだよ……
心が折れそうになった俺は心の平穏を求めて思わずリサの方を見た。
しかしそんな俺の心をあざ笑うかのようにリサは大きくため息をつくと白けた目をこちらに向けていた
〈目は口ほどにモノを言い〉ということわざのごとく、その眼差しはこう語っていた〈知らんがな〉と。
感情的になってしまったエミリはもう誰の言葉も届かないと判断したのか、父さんが目を閉じて大きく息を吐いた。
「わかった、エミリがそこまで言うのならば試してやろう
もしも正樹と模擬戦をやって一本でも取れたなら剣士を目指してもいい」
それを聞いたエミリは今までの険しい表情が何処かへ吹き飛び、パッと明るくなった。
「本当?嘘じゃないよね、本当にいいの、パパ⁉」
「ああ、正樹から一本でも取れたらな」
「やったああああ、ありがとうパパ、大好き‼」
さっきまで険悪なムードで怒り狂っていたエミリが態度一変、喜びのあまり満面の笑顔で父さんに抱き着いている。
しかも父さんも娘に〈大好き〉と言われながら抱き着かれてまんざらでもない顔をしているのが何とも気に食わない。
何だ、この茶番は、エミリはもう勝った気でいるし、何で俺が巻き込まれなきゃならないのだ?
もうワザと負けてやろうかな……
そんな俺の考えを見透かしたのか、父さんはジロリとこちらを見た。
「正樹、ワザと負けようとか思うなよ」
「い、嫌だな、父さん、そんな訳無いだろう、ハハハハハ……」
さすが剣聖、人の心まで読める様だ。
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