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封印の池

カレンとその随行者であるプレセアとシャロンの3人は焦っていた。

皇子であり次期皇国王の候補でもあるアコーダが幽閉され、プレセアが城を脱出してカタノの街を訪れるまで2週間、街でプレセアと出立の準備に1日。

そこから10日程で城の隠し通路の出入口に辿り着いた。


急いだ結果、追っ手の網を搔い潜ったとはいえプレセアが2週間かかった道のりを4日も短縮出来た。

既に25日も経っている中で数日短くなったとて、どれだけ意味がある行為なのかはカレン自身にも分からない。それでも急がずにはいられなかった。

道中にカレンはギルバードから問われた勝算について、ずっと考えていたが良い作戦は思い浮かば無かった。

敢えてプラス要素を挙げるとすれば、生まれ育った城の構造を知り尽くしている事と隠し通路の存在がある。

とはいえ前者は相手方にも城に詳しい者は少なくないだろうし、後者はギルバードが言ったようにバレていたら待ち伏せされてプラスが一転してマイナス要素となってしまう。


ギルバードの元で修業してまだ1か月しか経っていないが、それでも以前より強くなったという実感はある。

だからこそと言うべきか、ギルバードの「辿り着く事すら困難」、即ちほぼ不可能だという言葉が胸に突き刺さる。

(それでも、ギルバードたちが一緒にきてくれていたら……)

そう考えてしまう自分がいる。一方で、関係のない皇宮の争いに仲間を巻き込む訳にはいかない、という想いが交差する。


ふとカレンは昔を思い出す。

カレン・オーライトは現(前?)オーライン皇国王の第1子として生を受ける。

この頃のカレンは勇者候補や魔王の生まれ変わりという自覚もない。

3歳下には弟であるアコーダ・オーライトがおり、いずれどちらかが国家の最高責任者である皇国王となる事が運命づけられている以外は一般の姉弟とさほど違いはない。

オーライン皇国の継承権には年齢や男女による序列はないため、将来どちらが皇国王になるかは未定。幼い事もあってか、そんな事を本人たちは微塵も気にせず仲が良かった。


「ねえたん、ねえたん」

そう言いながらアコーダがカレンの後をトコトコついて回る。

カレンとしてもそんな弟が可愛くて仕方がなく

「おいでアコー、こっちこっち」と愛称で呼んで遊び戯れていた。


6歳からカレンは、皇王位後継者としていわゆる英才教育を受け始める。

8歳になった頃には、文武両道を地で行く優等生で、特に武の方が優れていた。

後に世間から勇者候補と呼ばれるようになるのだが、この頃の2つ名はオテンバ姫。優秀と同時に遊びたい盛りの絵にかいたような明朗快活な少女だった。

父親である皇国王の方針も「よく学びよく遊べ」で、のびのび育てられていた。(あくまで学びが先)


そんな彼女は探索が大好き。護衛上の問題もあって単身で城外に出る事は禁じられていたが、城内を自由に動き回る事は許されていた。

広い城内は8歳の少女にとって探索して遊ぶのに絶好の場所だった。

特に最近は修練と座学とアコーダと遊ぶ以外の時間は、城内探索に費やしている程だ。


ある日、カレンがいつものように城内を探索していたところ書庫で偶然の発見をしてしまう。

その書庫は皇族の系譜や歴史を記した書物が収納されており、出入りする者は非常に限られる。そのせいで多くの日は誰も立ち入る事のない部屋だった。

まだ書物に興味のないカレンにとって、人のいない多くの本棚が立ち並んでいる空間は、まるでアスレチックフィールド。

本棚やキャレル(閲覧席(えつらんせき))によじ登って、ジャンプしたりする格好の遊び場になった。


カレンが本棚から本棚へ飛び移ろうとした際、足を引っかけて数冊の本をばら巻いてしまう。運動神経の良さのおかげで怪我はしなかった。

本を元の棚に戻そうとした際、その小さな手に違和感を感じた。

好奇心旺盛のカレンがごそごそ触っていると、何か仕掛けが作動して隠し通路への扉が出現した。

幸いにも大きな音はしなかったので、書庫外の者が調べに来る事はなかった。


城内に関しては、施錠されている部屋と衛士に守られていて立ち入りが禁じられている場所を除いて探索を済ませていたカレンは大喜び。

通路が暗い事もあってその日こそ、そのまま書庫を元通りにして立ち去ったものの翌日以降、(まと)まった時間がとれると明かりを用意して隠し通路の探索に(いど)んだ。


隠し通路は万一の際の脱出路で、皇宮外の雑木林にまで通じていた。

それまで1人では宮廷の外はおろか城の外にも出た事のなかったカレンの眼下に世界が一気に拡がった。

8歳の少女の歩ける範囲など限られているが、だからこそ逆に外の世界が無限にも感じられた。

隠し通路は城下町チハヤの郊外まで続いていた。

近くには枯れ井戸があって良い目印になった。

加えて隠し通路が完成した際にかつての皇族が「近づくと悪神や物の怪に呪われる」との噂を流して囲った結果、100M(メートル)四方は誰も立ち入らない場所となっていた。


隠し通路自体は複雑な構造になっておらず、何度か行き来するうちにカレンは明かり無しでも通り抜けられるようになった。

城に抜け出す際の服装もカレンなりに工夫するようになる。

カレンが普段着用している服は高貴過ぎて城外では目立つ。側近の者に言えば適当な服を用意してくれるだろうが、黙って城を抜け出すのでそれは出来ない。

考えた結果、剣術の修練の際に着用している稽古着で出かけるようになった。

護身用に懐剣も装備。この頃のカレンにとって城抜けはダンジョン探索と同じくらいの冒険をしている気分だった。


枯れ井戸からさほど離れていない場所に『封印の池』と呼ばれていた場所がある。

名の由来は、初代皇国王が魔物を石の箱に封印して地中に埋めた。そこに水が貯まって池となった。

それもかなり昔で誰も立ち寄らない場所と相まって、いつしかそう呼ぶものはいなくなった。

そんな昔を知らないカレンは池に石を投げ入れて遊んでいた。意外に水は澄んでおり、それが跳ねる様子を見るのが楽しかった。


カレン8歳、新月の日の正午。

運が悪かったとしか言いようがないが、(ほどこ)された封印の力がもっとも弱まる時にカレンの投げ込んだ石が箱に当たる。

水を強く跳ねさせるために、大きめの石を選んでいた事も災いした。

長きにわたって水に(ひた)されて劣化していた箱にカレンの投げ入れた石が当たり、封印が解かれてしまう。

派手な登場シーンはない。一瞬周辺が暗くなり昼霞に溶け込むように封印されていた魔物、ブロアーム・シャドウが地上に現れ、そのままカレンの影に潜り込んだ。

カレンは暗くなった事を不思議に思ったものの、ブロアームについては存在すら気付いていない。


遺伝的な要素か魔力によるものかは不明だが、ブロアームはカレンが皇族である事を知っていた。

また、長年の封印により己の力が弱まっている事も感じていた。


(娘を食っても僅かしか力は戻って来ぬ。やはり幼き男子が良い)

そこで狡猾なブロアームは一計を案じる。

封印した皇国王(の子孫)に積年の恨みを晴らし、己の力を回復させる。

更に城には魔物避けの結界が張られているが、カレンと同化する事でそれも通過できる。

(ククク、1石2鳥、いや3鳥よのう。封印が解けたばかりだが、我ながら冴えておるわ)


しばらく遊んだ後、何事も無かったように隠し通路を使ってカレンは城内に戻った。


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