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姉弟

宮中晩餐会の最後にギルバードから「4日後の朝に出発する。一緒に行くならそれまでに」とカレンは言われていた。

しかし、約束の4日目の朝を迎えても、カレンはまだ自室で1人苦悩していた。

 

弱冠11歳にして皇国王となった弟を支えなければならない。

半分とはいえ血の繋がりもある。父様と母様(カレンにとってクラリティアは義理)が亡くなった今、たった2人きりの家族だ。

課せられた義務であると同時に、自らの意思でも支えたいとも思う。問題はその方法、手段。

1番良いのは、城の中に止まってアコーダのすぐ傍にいる事。何が起こっても、きっと柔軟な対応が出来る。

今回のフロンテにアコーダを幽閉された事件も、ギルバードたちの働きもあって、幸いにも事無きを得た。


カレン「もしアコーダに何かあったなら、いくら後悔しても足りないところだったわ。何でも出来るなんて、傲慢(ごうまん)な事を言うつもりはないけど……」


天狗の鼻はブロアーム・シャドウの件でクラリティア母様を亡くした時に根元から折れた。

自身がどれだけ非力な存在であるかを思い知った。以来、成長している実感はあるものの、強さを感じる回数の倍以上に弱さを痛感している。

それでも、もし自分が城内に留まっていたら……自分の存在が多少なりとも抑止力となって、事件を未然に防げたのでは?などと考えてしまう。


一方で、ギルバードに同行して修行の旅に出たいという気持ちもある。色んな経験をして強くなりたい。

望んだ称号ではないが、勇者候補と呼ばれて悪い気はしない。せっかく呼ばれるなら中途半端な候補ではなく、正式な勇者の方が格好良いと思うが、だからといって勇んで魔王を討伐したいとは、今のところ考えていない。

ギルバードも言っていたが、最近は人族と魔物間で妙な均衡が取れている。馴れ合いじゃないが全面的に争う事はなく、せいぜい局所で小競り合いをしている程度。

じゃあ勇者の存在意義は何だという話になるのだが、カレンにしてみれば「そんな事を言われても知らないわ」である。


カレン「城に(とど)まってアコーダの傍にいるべきか、それとも城から出てギルバードに同行するべきかしら」

結論が出ないまま悩み続けた結果、ギルバードとの約束の時間が来てしまった。

カレン「やっぱり今の不安定な状況では国を離れる事は出来ない。クラリティア母様との約束通り、私はアコーダの支えないと……」

時間切れで強制的に結論を得たカレンは、ギルバードたちとは別れて姉皇后としての務めを果たす決心をした。

そこにアコーダがやってきた。


アコー「姉様らしくない、まだ悩んでるんですか」

カレン「いいえ、もう決めたわ。私が何に悩んでたのか、アコーダは知ってるの?」

アコー「んー、大体の予想は付きます。大方姉様の事ですから、このまま城に居て(おれ)の面倒を見るか、これまでみたいに自分勝手、自由気ままに生きるかをずーっと考えているんでしょう?」


カレン「自分勝手って……、アコーダのくせに生意気よ。だけどまあ、(おおむ)ね合ってるわ。私はクラリティ母様から、アコーダの事を頼まれたのよ。半分しか血は繋がってなくても私は貴方(あなた)の姉なの。面倒を見るって言葉が適切かどうかは別にして託された弟を守る責任がある」

アコー「確かにフロンテ・ネガスの事件では大変お世話になりました。姉弟とはいえ、感謝の念に()えません」

カレン「改まってどうしたのよ?公式の場でもないのに余所余所(よそよそ)しいわね」


アコー「大事な話なので。己はこの機に姉様に甘えるのを卒業します。ですから姉様も(おれ)に依存するのは止めてください。それを言いに来たんです」

カレン「私が貴方に依存してるっていうの!?」

アコー「そうです。少なくとも、このままだと必ずそうなる。過干渉、強依存、呼び方は色々でしょうが、度を越えた愛情は幸福を越えて不幸になります」


カレン「言ってくれるわね。私はただ、クラリティア母様からくれぐれも貴方をよろしくと託された、最後の約束を守ろうとしているだけ」

アコー「それは姉様の勘違いです。母様はそんな約束をしていません。(おれ)自身は幼かったので記憶が曖昧でした。ですが、直ぐ近くにいたソシアとポドマーニは、母様の言葉を一言一句(たが)えずに覚えていて教えてくれましたよ」

カレン「………」


アコーダが言葉を続ける。

アコー「カレン、これからもアコーダの良いお姉ちゃんでいてね。アコーダ、(たま)には喧嘩しても良いから、お姉ちゃんと仲良くしてね。これが母様の最期の言葉、遺言です。ブロアーム・シャドウとの経緯(いきさつ)を考えれば無理のない話です。古傷に触るような真似をして申し訳なく思います。それ以来、殊更(ことさら)に姉様が(おれ)を大事に思ってくれている事は知っています。ですが、そろそろ前に進むべきです」


カレン「私はただ……たった1人の家族として……」

アコー「自分に嘘を付くのは止めませんか、もう気付いているんでしょう?」

カレン「嘘なんか付いてない!」

怒りで上気したカレンの顔が赤くなっていく。それでもアコーダの舌鋒(ぜっぽう)は鋭さを失わない。

 

アコー「ここまで言って分からなければ、分かり易く言いましょう。(おれ)は依存関係を断ち切って自立します。いつまでも姉に甘えてばかりの皇国王には誰も付いて来ませんから。それで姉様はどうするんです?それでも弟にべったり依存するつもりですか、はっきり言って迷惑なんですよ」

カレン「よくも、いけしゃあしゃあと姉に向かって……」

アコー「(おれ)の知っている姉様なら、こう言ってくれるはずです。『私はギルバードたちと行く。それが勇者への近道だから。アンタはアンタで皇国王を頑張りなさい。城は留守にするけど、本当に必要な時には飛んで戻って来るから』と」

アコーダの強く、そして正確な指摘にカレンは黙り込んでしまう。


カレン「……ふうー、アコーダはそれで良いのね?」

アコー「それが、良いのです。(おれ)は、(しがらみ)に縛られる事無く、自由でいて欲しいのですよ。それが1番姉様らしく、1番成長させてくれると思う。(おれ)(おれ)で皇国王として様々な困難にぶつかるでしょう。そんな時に成長してない姉様では大して、きっと役には立たない」

カレン「好き放題言ってくれるわね」


アコー「勘違いして欲しくないのですが、(おれ)は姉様にどこかに行って欲しい訳でも、もう頼りにしていない訳でもないのです。自由で凛とした姉様が好きだからこそ、足枷(あしかせ)になりたくないのです」

カレン「もういい、分かったわ。私はもっと自分に正直になる。プレセアのアンチマジックの影響下でカークが魔法を使えているのをみて悔しいと思った。もっと強くなりたい。その為にギルバードと一緒に行く」


アコー「それでこそカレン・オーライトです」

カレン「約束の時間は過ぎちゃってるけど、今から出ればそのうち追いつけるはず。まっ、なんとかなるでしょ」

完全にカレンのスイッチが切り替わった。声にも張りがあった。

アコー「周りの者から止められないように例の隠し通路を使うと良いでしょう、姉様の脚ならすぐ追いつきますよ。それとソアラも連れてってください。彼女曰く、姉様1人では危なっかしくて放っておけないそうです」


カレン「おーー、良い弟だけでなく良い家人までいて私は果報者だわ。今更寂しいとか言っても聞く耳は持たないからね」

アコー「物理的な距離は()して問題ないですよ。なにせ勇者候補2人に悲劇の英雄が一緒に旅をするんだから、勝手に噂になって頼りが届くでしょう」


カレン「じゃあ、準備をするから部屋からアコーダは出てって。しばらく会えないと思うけど元気でやんなさいよ。あと皇国王を使って悪いけど、ソアラに準備が出来次第すぐに出発するって言っといて」

こうと決めた時のカレンは迷いがない。挨拶もあっさりしたものである。

アコー「分かりました。姉様も御達者で。ソアラには使いを出しておきます」

そう言ってアコーダはカレンの部屋から立ち去った。


<廊下にて>


「宜しかったのですか?」

少し離れたところから2人のやりとりを見守っていたハイウエが近付きながら話しかけた。

アコー「これが正解だろ。(おれ)としては出来れば危ない事はしないで欲しいし、近くにいて何でも相談に乗って貰いたいとも思う。だからといって姉様を城に縛り付けるのは間違ってる」

ハイウ「確かに、その通りですな」


アコー「依存してしまっているのは己の方だ。姉様が傍にいると安易に頼る癖が染み付いてる。何より姉様が勇者候補として大きく成長してくれる事が、将来のオーライン皇国にとっても大きな益になるはず。可愛い姉には旅をさせろ、だな」

ハイウ「寂しくはないのですか?」

アコー「それは言いっこなしだ。おっと、姉様の件をソアラに伝えるのは任せた」

ハイウ「承知しました」


アコー「思えば姉様とは、喧嘩らしい事をするのは初めてかもしれない。クラリティア母様の『たまには喧嘩しても良いから……』という遺言に従ってみたのだが、口論とはいえ(おも)いの(ほか)疲れるものだな。なるべくなら今後は御免(ごめん)(こうむ)りたい」

ハイウ「本気でぶつかる、という意味でしたら(たま)には必要な事かと……」

アコー「それはそうかもな」


こうして一仕事を終えたアコーダは自室に戻って行った。


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