宮中晩餐会
<アコーダの宣誓(決意表明)>
アコーダが一歩前に出て、その場にいる全員に向かって話し始めた。
アコー「本日の即位戴冠の儀を以て、アコーダ・オーライトが新たなオーライン皇国王へ即位する事をここに宣言する。己はオーライン皇国民の生活安定と発展を何より優先し、務めを果たす事を約束する。その為に、先代皇国王が推し進めた出自や家柄ではなく、実力による人材登用の方針を継続する」
言葉遣いに品位が欠けているのは百も承知。この方がより皆に伝わるだろう、というのがアコーダ考えだった。
その意図を汲んで事前の打ち合わせでもバラキューダスとハイウエは苦言を述べなかった。
アコー「諸君の中には、己並びに姉皇后であるカレン・オーライトが若年である事に内心不安を覚える者もいるだろう。無理のない事だと思う。
実際足りてない部分もあるだろうが、それはここにいるバラキューダス卿とハイウエ・グランディエル卿、そして諸君たちに補って貰う事になる。
己の方針は先に述べた通りであるが、もし受け入れられない者があれば、遠慮は要らぬ。この場から去る事を赦す。その事で一切罪には問わない。そして残る者は新しく生まれ変わるこの国の安定と発展に協力を惜しまない事を自身の胸に手を当てて誓って貰いたい」
ここでアコーダは話すのを止めて、少し時間を取って待ってみる。
その間に去る素振りをみせた者は0人。残った全員が胸に手を当てている。それを見たアコーダから笑みがこぼれた。
アコー「ありがとう、去る者はいないようだ。とても嬉しく思う。宣誓は以上である。あまり長くなると後見人でもある姉君から苦言を呈されてしまうので、これで終わる」
カレン(アコーダのバカ、場を考えなさい)
最後のボケは完全なアコーダのアドリヴだが、結果はややウケ。というより笑っていいのか迷ってしまう人が多くて微妙な空気になって終わった。
<叙勲褒賞>
叙勲を与えられたのは、グリフォンの7名(チェロック・ジーフス、ゲード・レネ、イプス・ネオン、ピーテ・カプリ、クロスファー・アクレイ、グラディエ・グランド、コンパス・ラング)と アルジョンの6名(アスカ・イース、ミュウウィ・ザライブ、ジェイミ・クーパス、ベレル・フィリ、ラミオ・ガークロス、アン・フォーリア)。
それにギルバード、クレストル、カーク、カローランの4人を加えた計17名。
アコーダとカレンの脱出やパレードの事までを含めた活躍が叙勲の理由である。
本来であれば、ここにプレセアとソアラ、バラキューダスとバラカーンの4人も含まれてしかるべきなのだが、彼女らまで叙勲の対象にしてしまうと、多くの事件を表面化させる必要に迫られる。なので表立った叙勲からは除外される事になった。(別の形で褒章は与えられる)
卒業式さながらにバラキューダスが1人ずつ名を読み上げた後、アコーダから目録が手渡される。
叙勲の内容は全員同じ。皇国王家の紋章が描かれた徽章とオーライン皇国金貨500枚と仕立券1枚が授与された。
徽章は造りは立派で名誉な物だが、それ自体にさほど価値はない。
(城への通行手形代わりにはなるが、冒険者にとっては無意味)
金貨は少し贅沢をしても5年は余裕で暮らせる。
仕立券は武器屋に持ち込めば好きな武器を、防具屋に持ち込めば好きな鎧を仕立てて貰える。服屋に持ち込んでもOKだが、服に仕立券を使う冒険者はおそらく希だろう。
1か月そこそこの仕事と考えれば十分すぎる報酬だし、グリフォンとアルジョンのメンバーは金目当てではなくギルバードとの縁(恩返し)で事を成したので、不満があろうはずはない。
(但し、一歩間違えればお尋ね者になるところではあった)
<宮中晩餐会>
参加人数が多いのと、カレンとアコーダの「フランクに皆と話がしたい」との要望もあって、今回の宮中晩餐会は例外的に立食形式で行われた。
晩餐会と言えば厳格に聞こえるが、グリフォンやアルジョンのメンバー(というか冒険者)の流儀からすれば、これは打ち上げパーティーに他ならない。
それをカレンやアコーダも分かっていたので無礼講を通達した。
野蛮で粗暴と目を背ける貴族たちもいたが、若い連中の多くは、新しい皇国王との距離を近づける絶好の機会と捉えて概ね好評。
グリフォンやアルジョンのメンバーとの交流も、少し酒が入れば積極的に行われるようになる。
なにより冒険譚は人の心をくすぐるもの。ダンジョンや大森林での魔物との戦闘エピソードは極上の酒の肴として多くの人が聞き入った。
開放感のある城のロフトで夜風に当たっているギルバードにカレンが声を掛けた。
カレン「酔い覚まし?……でもそれほど飲んではいないように見えたけど」
ギル「よく見てるな、殆ど飲んでない。直前のパレードまで命を狙われてたのに城に入ったら、はい安全、とは切り替えられなくてな。だが、もう大丈夫っぽいな。グリフォンとアルジョンもがっつり飲んでるメンバーとそうでないのと半々くらいみたいだな」
カレン「半分はがっつり飲んでるんだ……」
ギル「歓待の場で飲まないと失礼だし、警戒しているのが伝わると余計な軋轢を生んで、大抵は良い結果には繋がらないからな。示し合わしたワケでもないのにグリフォンもアルジョンも半数づつってのは、そこらへんが丁度良い匙加減なんだと思う」
カレン「なるほどね。……でも流石にもう大丈夫よ。即位戴冠の儀と晩餐会には騎士団長リオン・クラウンとペガサス隊々長ニセンジ・シロも参加してる。彼女らは信用できるわ。フロンテ・ネガスがいた頃は敵として立ち開かったけどね」
ギル「フロンテといえば、アコーダを幽閉した張本人。つまりつい数日前まで敵だったって事じゃないか!?」
カレン「それだけ2人とも仕事に愚直って事よ。今はアコーダと私の護衛も2人の仕事に含まれてる。信用していいわ。ところで、ギルバードは先代の皇国王から褒賞金や爵位を与えられる機会があったけど、全て断って頑として受け取らなかったってバルキューダスから聞いたわ」
ギル「そんな事もあったな」
カレン「でも今回は、今回は受け取ってくれるのよね?」
ギル「ああ、有難く貰い受ける」
カレン「理由を聞いてもいいかしら?」
ギル「15年前とは状況が違う。何より今回は俺が皆を巻き込んでコキ使わせて貰った立場なんでな。俺が受け取らないとグリフォンとアルジョンのメンバーが受け取りづらくなる」
カレン「それはそうね」
ギル「皆の働きに報いるものがあって良かった。本当なら俺が自腹を切ってでも何か御礼をしなきゃならんところだ。金目当てで助けてくれた訳ではなかっただろうが、終わってみてタダ働きだったってのは、やっぱりお何も残らないからな」
カレン「何言ってんの。元々私とアコーダの事をギルバードが仲間と一緒に助けてくれたんじゃないの。ギルバードも御礼を貰う側で合ってるのよ」
ギル「師匠が弟子を助けるのは当たり前の事だろ」
カレン「……ありがとう」
「それはそれとして、じゃ」
カローランが突如話に割り込んで来た。
カレン「わっ!びっくりさせないでよ!?」
カロ「カレン、おぬしこれからどうするつもりじゃ?」
カレン「どう、って……」
カロ「晴れてアコーダが新皇国王になったが、国が安定するにはまだまだ時間がかかるじゃろう。カレン、おぬしはそれを放っておいてワシらと一緒に旅立つ事が出来るのか?」
カレン「……そんなの分かんないわよ」
カロ「ギル、おぬしの事じゃから、もう次の行く先の事も考えておるんじゃろう。ここを発つのはいつ頃じゃ?」
ギル「カークやクレストルと相談もしないといけないが、休養と後片付けで4日後ってところだな。急ぐ旅ではないが、ずっと1カ所に留まっている事に意味はない」
ギルバードがカレンの頭を撫でながら話を続ける。
ギル「大事な事だ、じっくり考えるといい。丁度良い機会だと思う。姉皇后として、勇者候補として、今と未来をどうしたいのか。勇者候補は魔王を倒す事で正式な勇者と認められる。だが最近は人族と魔物間で妙な均衡が取れていて、どこの国も魔王討伐に積極的ではない。オーライン皇国とて、代替わりしたばかりで、莫大な費用と兵士が必要となる魔王討伐を考えられないだろう」
カロ「要するに、カレンが勇者を目指すとしても先は長い。言い換えれば、その分時間にも余裕があるって事じゃな?」
ギル「カークもだ。そもそも力不足なんだから、その時間を使って経験を積んで強くならなければ魔王に辿り着く前に死ぬだけだ」
(よくよく考えてみれば、魔王ドラゴニックの生まれ変わりがカレンとカークなのに、自分の後釜のロープロスを討伐するのか?まあ魔王は他にもいるから、討伐の対象はロープロスとは限らないか……)
カレンが部屋にいるカークの方へ視線を向けた。
カークは、口一杯に料理を頬張ってもぐもぐ。膨らんだ頬をアルジョンのメンバーに突かれたり、お誂え向きの玩具にされている。それなりに楽しそうだ。
カレン(カークはギルバードに付いていくだけだもん。シンプルで悩みが無くていいわよね)
アルコールが十分に廻って、場が荒れ始めてきたところでハイウエが締めの宣言をして、晩餐会という名の宴会は終わった。




