不発
<御料車にて>
御料車の威厳を象徴するかのような鳳凰の彫刻が実はアクロム・グランディエルの仕掛けた爆弾だったと知らされた時には、既に逃げる時間は残されていなかった。
ハイウエ・グランディエルは愚息のしでかした事への贖罪と言わんばかりに敢えて彫刻の直ぐ近くに座り込む。
敵であるはずの馭者A&Bの2人も、何故かハイウエに感化されて一緒に座り込んだ。
ギルバードとクレストルは、爆発時間の直前にわざわざ巻き込まれる為にやって来たようなもの。そのズバ抜けた間の悪さはチェロックを呆れさせた。
観客が多すぎて御料車が前へ進めなくなる程、予定が乱れていたパレードだったが、混乱に拍車がかかる。
1つとして解決する事がないまま、時間だけが過ぎていき、爆発まで残り5秒となってカウントダウンが始まる。
この現場で最も後悔が少ないのは、予め多くの事を知らされていた馭者の2人だろう。
彼らは皇子と皇女の暗殺計画に与して失敗した以上、極刑は免れない。磔にされるか爆発に巻き込まれるか、大した違いはない。いや、むしろ辱めを受けずに済む爆発の方がマシかもしれない。
それが生を諦めた馭者2人の、偽りのない行動原理だった。
「5…、4…、3…、2…、1……」
残り5秒を馭者Bが指を折る。恐怖もあるが、ドキドキ感が上回る。気付けば馭者Aも同じようにリズムを刻んでいる。
「0……あれ?」
残り時間が0になっても鳳凰の彫刻は爆発しなかった。
代わりにド、ド、ドォーーーーン、ズズズォーーーンと地鳴りのような音と振動が別の所から伝わって来た。
音と振動に明確なディレイの有る事から発生源がかなり遠方であると推測出来る。
何も事情を知らされていない観光客は地震だなんだとパニックになりかけるも、余震もないため騒ぎは一過性で終わる。
馭者A(明日滅亡しようともリンゴを植えるとか、種を撒くとかの名言を聞いた事があるが、世界が滅亡しない場合はどうすればいいんだ?)
馭者B(何かの理由で爆発が遅れてる?それとも不発?)
チェロ「おい、もしかして不発か?」
馭者B「人間のやる事だ。ちょっと遅れてるだけかもしれん」
バラカーンが鳳凰の彫刻から爆弾を外して、アクロム邸の別館に設置し直したのだが彼らにそれを知る由は無い。
当然の事ながら、それから5分経過しても爆発はしないし、その兆候も有ろうはずが無い。
馭者A「……」
馭者B「どうやら不発らしい。……ツイてたな」
チェロ「お前らなぁーーー」
怒るべきなのか、喜ぶべきなのか、感情の持って行き場に戸惑うチェロック。
戸惑いを隠せないのが、もう1人。
ハイウ「不発……。バカ息子の贖罪のつもりで死を受け入れたつもりが、くたばり損なったようだ」
バラキ「お互い爺になっても、まだまだ為すべき役割があるという事でしょう」
ハイウ「なるほど。とりあえずは、そのように考えますわい」
バラキ(息子が上手くやったようだ)
アクロムの元へバラカーンを送り込んだのはバラキューダス。しかし、アクロムに余計な疑念を持たせるのを警戒して、その後は細かな報告を受けていない。
御料車に爆弾が仕込まれていた事や掏り替えに関しても、バラキューダスは知らなかった。
ただ、鳳凰の彫刻がアクロムの献上物と聞いた時点で、問題があるなら必ずバラカーンが対応しているはず、とは思っていた。
カーク「これ、本当に爆発するの?」
鳳凰の彫刻を剣で突いたり、調べようとした。
馭者「わー、よせよせ。せっかく不発なのにショックで爆発するかもしれん」
先程までの緊迫した空気はどこかに消え失せてしまっている。
チェロ「切り替えて、仕切り直すぞ」
一旦切れてしまった緊張の糸を結び直す。
チェロ「という事で、ギルバード。クレストルが目覚めて良かったな!? クレストル、体は大丈夫か?」
ギル「まあな。皆には感謝してる」
クレス「問題ないよ。目覚めた直後は体バキバキだったが、だんだんほぐれてきたみたいだ」
チェロ「そうか、だがお前はずっと眠ってたんだからな、あまり無理はするなよ」
クレス「わかった。サンクス」
ギル「すまん、状況がよく飲み込めないんだが、まだパレードの途中だよな?御料車が全く動いてないようだが……」
チェロ「その通りだ。残すところ全行程の3分の1程度だが、観客が多すぎて道が塞がれてしまっている。進行ルートの確保は護衛騎士の役目で、よくやってるとは思うが、如何せん観客の数が多すぎて手が廻ってない。そんな時に爆弾騒ぎで、てんやわんやのしっちゃかめっちゃかだ」
ギル「爆弾!?」
チェロ「いや、それはどうやら不発に終わったみたいだし、話が長くなるからその話は置いておこうぜ。今の課題はとにかく御料車を城まで辿り着かせて、パレードを終わらせるか、だ」
ギル「……いっそ御料車は諦めるか」
チェロ「は?」
ギル「改めて周りを見渡してみると確かに観客の数が凄くて、これでは御料車で前進するのは難しい。だからと言ってチェロックが剣の達人でも、観客を強制的に斬り払う訳にもいかんだろ」
チェロ「俺に大量殺戮をやれっていうのかよ」
ギル「言わない、言わない。だからさ、御料車は諦めて俺とクレストルがやってきたルートを使う」
チェロ「魔力バイクで屋上を移動するのか!?」
ギル「そう、タンデム(2人乗り)でな。カレンとアコーダはどう思う?」
カレン「私は構わない。というより寧ろ望むところだわ。このまま足止め喰らってちゃー埒があかないもの」
ラミオ「だけど、パレード途中で主役2人が御料車から、いなくなっちゃっても問題ないのかしら?」
アコー「事情を知らない観客は、魔力バイクへの乗り換えもパレードの演出だと受け止めるのではないか」
ラミオ「皇女も皇子もOKという事ね」
ギル「よし、決めよう。カレンとアコーダはここから魔力バイクのタンデムで城を目指す。バラキューダス卿とハイウエ卿は御料車に残って貰う形となるが、主役の2人がいなくなれば、観客の数も自然と減っていくだろう。そうなってから入城して貰うのが良いと思う」
バラカ「承知した」
ハイウ「お気をつけて。カレン様、アコーダ様」
カレン「大丈夫よ。貴方たちは後からゆっくり来なさい。城で皆が揃ったら即位戴冠式よ」
停滞し続ける現状を打破するための方針は決まった、後は動くだけ。




